背番号10の責任と決心【FOCUS ON:藤原裕太】
明治安田生命J1リーグから数えて「J8」の東京都社会人サッカーリーグ2部に所属しているTOKYO CITY F.C.。渋谷区をホームタウンに活動するクラブには、いったいどんな選手が在籍し、どんな思いを胸に秘めてプレーしているのだろうか。選手1人ひとりのパーソナリティに焦点を当てる連載企画「FOCUS ON」がスタート。第3回は加入2年目の背番号10、藤原裕太(@HUBfujiyuu)に迫る。
悔しさとともに
今になって振り返ってみると、俺のサッカー人生は悔しいことばかりだった。
父親の仕事の都合でベルギーに住んでいた4歳の頃にサッカーを始めて、7歳で日本に帰国してから小・中学生時代はクラブチームでプレーしていたけど、特に大きな成果は残せず。
初めて全国レベルの大会に出られたのは、高校3年生の時。東京都立駒場高校サッカー部で夏のインターハイに出場した。でも、1回戦は出場停止で出られず、2回戦で敗退。その年は全国高校サッカー選手権大会にも出場することができたけど、滝川第二高校にボコボコにされて1回戦敗退だった。
やっぱり選手権に出られたのはサッカー人生最高の喜びだった。でも、1回戦負けは今までで一番の悔しさだった。早生まれで東京都の国体選抜にも入っていたけど関東大会止まりだったし、全国レベルと自分の差を思い知らされたからね。
高校を卒業して順天堂大学に進学したけど、サッカー部は1年で辞めてしまった。どうしてもチームの気質に馴染めず、2年生以降ここでプレーするのは無理だと思ったから。それからは順天堂大学の学内で活動しているエドゥカシオ・コンティーゴに入って、千葉県社会人リーグでプレーしていた。
プロサッカー選手になれると思ったことはないし、目指したこともない。それでも大学でちゃんとサッカーができなかった後悔はあって、卒業してもプレーし続けたいという思いがあった。だからJFLのクラブのトライアウトを受けにいったこともある。
苦い経験も多かったけど、今の自分のサッカーに対する考え方の土台になったのは社会人リーグのクラブでプレーしていた大学時代の3年間だと思う。
エドゥカシオ・コンティーゴには自分のようにサッカー部を辞めたり、全国レベルを経験していたり、Jリーグクラブの育成組織出身だったり、選手のレベルは高かった。でも、サッカー部とは違って監督やコーチがいないから、どうしても練習や試合で締まらない部分が出てくる。
だから自分が上級生になったら、自分自身を律して、周りにもある程度厳しく言いながらやらなければいけないと思っていた。勝つために、真剣に戦うにはどうしたらいいのか自分たちで考えながらやれたことは、今の自分につながっていると思う。
10番として背負う責任
TOKYO CITY F.C.を知ったのは、大学卒業後に所属していたエスペランサSC時代のチームメイトでもある由(#4 玉川由)から連絡をもらったのがきっかけだった。当時自分がプレーしていた早稲田ユナイテッドはトップチームの選手が社会人から早稲田大学ア式蹴球部の学生に入れ替わることになっていて、新しい所属先をどうしようか考えていたところだった。
仕事との兼ね合いもあって、関東リーグでプレーを続けるのは難しいかなと思い始めていたタイミングで声をかけてもらって、CITYの練習に参加したんだよね。最初は正直「ちょっとボール蹴れればいいか」くらいの気持ちだった。
でも、実際に参加してみたら想像以上にレベルが高かった。その時、ノムくん(#8 野村良平)もいて、「何でこの人がここにいるんだろう?」と思ったのを覚えている。早稲田大学や関東リーグでプレーしていたのも知っていたから、なおさら不思議だった。
そうしたらミネ(#20 峯達也)もいて、阿部さん(#21 阿部翔平)もいて、自分が思っていた以上に本気で高いレベルを目指して取り組んでいるチームだということもわかってきた。東京都社会人リーグ1部のクラブにも練習参加していたけど、ピッチの中のことも外のことも含めて、色々な話を聞いて「じゃあ、ここにしよう」と加入を決めたんだよね。
そして背番号10を任された。でも、正直に言って、昨年は自分が思い描いてたような結果を出せたとは思っていない。東京都1部に昇格できなかったことにも責任を感じている。自分がゴールを決めることに強いこだわりがあるわけではないけど、もっと決められたと思うし、ここぞというところでもっと結果を残せていれば、勝ち切れない試合も減った。得失点差で上回られることもなかった。
だからこそ、今年はサッカーと仕事をより効率的に両立して、昨年以上の結果を残したい。
全ては事前の準備しだい
教員として働いている以上、どうしても時間割や指導している部活のスケジュールによってはチームの活動に参加できないことも出てくるかもしれない。その中でもできる限り試合や練習に参加するために、必要なのは準備だと思っている。時間内に必要なことを終えられる授業を事前に準備しておくことの重要性や、サッカーで最高のパフォーマンスを発揮するために準備しておくことにも共通する。
心置きなくサッカーに打ち込むためには、全てが授業の前にかかっていると言ってもいいくらい。授業内で起こること、質問が出るタイミングまで予想して準備しないといけない。やるべきことをやれる時にこなし、万全の準備をし、授業や部活の指導を完璧に終わらせてサッカーに行くというのが理想と言える。
もちろんCITYが取り組んでいるピッチ外での活動にも、可能な範囲で参加していきたい。いろいろな人や企業を巻き込んで、応援してもらえる環境を作るための活動をこれだけの規模でやれている都リーグのクラブは少ないと思う。
自分も大学でスポーツについて学び、Jリーグのクラブでさえ地域社会との結びつきが不可欠だと理解しているからこそ、ホームタウンに根付くための活動の重要性もよくわかる。「Jリーグを目指す」と宣言していて、サッカーのレベルが高くても、サッカー以外のところが疎かになっているクラブも見てきた。
大学時代に千葉県にいて、VONDS市原の活動は地域密着のいい模範になると思っていた。彼らは地域の子どもたちをサポートする活動を積極的にやっていて、地域の住民やサッカーに全く関係ない人たちも巻き込んでいくための努力をしていたんだよね。
ピッチ外で自分がどう貢献していくか正解を見出すのは難しいところだけど、子どもたちへのサッカー教室などはやってみたいと思う。中高生にサッカーを教えるとなると1回では難しいけど、小学生以下の子どもたちがサッカーに触れるきっかけを作るには、俺は適任じゃないかな。
自分が経験してきたこと、学んできたことを生かしながら、いろいろな形でチームに貢献していきたい。そして、必ず都1部昇格を成し遂げなければならないと思っている。昨年の悔しさを晴らすためにもね。