勝利の意味を知る守護神【FOCUS ON:峯達也】
明治安田生命J1リーグから数えて「J8」の東京都社会人サッカーリーグ2部に所属しているTOKYO CITY F.C.。渋谷区をホームタウンに活動するクラブには、いったいどんな選手が在籍し、どんな思いを胸に秘めてプレーしているのだろうか。選手1人ひとりのパーソナリティに焦点を当てる連載企画「FOCUS ON」がスタート。第7回は加入3年目の守護神、背番号20の峯達也に迫る。
FC東京で味わった挫折
GKというポジションでプレーし始めたのは偶然でした。
小学校入学の直前に川崎市から横浜市に引っ越して、あざみ野F.C.に入りました。後から知ったのですが、そこはいわゆる名門で、同学年にはアルビレックス新潟でプレーしている高木善朗がいました。彼は本当に上手かったから、追いつけ追い越せの気持ちで必死に頑張っていたのを覚えています。
あざみ野F.C.で最初にやったのはセンターバックでしたね。性格的にはFWなのに、ポジション決めのときに間違えてセンターバックに手を挙げてしまったのがきっかけで。でも、やってみたら意外と面白くてしばらくはDFとしてプレーしていました。
GKに転向したのは小学3年生のときだったと思います。小学生年代の公式戦は1日に何試合もこなすので、合間の空き時間に遊び感覚でシュート練習のGKをしていたんです。そうしたら「意外とうまいじゃん」と気づいてもらえて、GKとして試合にも出るようになりました。あざみ野F.C.には専門のGKコーチもいたから、環境にも恵まれていたと思います。
徐々にGKとしてのプレーも板について横浜市選抜にも入るようになりましたが、中学進学のタイミングで横浜F・マリノスや川崎フロンターレ、東京ヴェルディといったJリーグクラブの育成組織のテストには落ちてしまったのはショックでした。
他にいくつか進路の選択肢を迷っていたタイミングでFC東京U-15深川にチャンスをもらうことができました。やっぱりFC東京にいるからには、プロサッカー選手になることを目指してやっていたけど、U-18には上がれなかったんです。
当時はナショナルトレセンにも入っていたし、昇格できるだろうと思っていたらU-18に昇格できず。全く予想しておらず、このとき初めてプロサッカー選手になることの厳しさを感じ、挫折を味わいました。
「プロ」以外を考えた将来設計
でも、プロサッカー選手になれない可能性を見据えながら将来のことを考え始めたのもこの頃でした。
FC東京U-15深川から退団が決まって進路を検討している時に、いくつかの高校からオファーをもらいましたが、その中から桐光学園を選んだのは指定校推薦で早稲田大学や慶應大学に進める道があったからです。
実際、高校時代は人生で一番頑張った3年間だったと思います。サッカー部でも1年生のときから試合に使ってもらっていて、勉強では3年間皆勤かつ平均評点5.0をキープし、入学当初の狙いだった指定校推薦を使って慶應大学に合格することができました。
結局、大学でも4年間サッカーを続けたもののプロの壁は高く、就活をして東京海上日動火災保険に就職して、会社のサッカー部でプレーすることにしました。
初めてサッカーを続けるかどうか真剣に考えたのは、東京海上日動火災保険を退職することになってサッカー部にも所属し続けることができなくなったタイミングでした。
最終的に「ここでサッカーをやめてしまったら、もう戻れない」と思って、プレーは続けることに。慶應大学ソッカー部OBが集まる慶應BRBとTOKYO CITY F.C.の二択で、どちらに入るか本当に悩みました。
気心知れた仲間の多い慶應BRBはやっぱり居心地がいい。一方、当時のCITYは今ほどサッカーのレベルは高くなく、環境も整っていませんでした。でも、仕事でも冒険するならサッカーでも新しい環境に挑戦して成長したいと思ってCITYに入ることを決めたんです。
肌で感じるCITYの変化
僕が加入した頃に比べて、CITYはかなり変わったと思います。以前のCITYは「勝ちたい」という気持ちはありつつ、良く言えばサッカー馬鹿でクラブのことが大好き、言い換えれば仲良しな大学のサークルのような感じがありました。
今はプロフェッショナルとは言わないまでも、より「サッカークラブ」らしくなってきていると思います。このクラブが好きだから、このメンバーでサッカーをしたいというマインドではなく、自分はこう思っていて、チームのためにどんなことをして、CITYというクラブを通してどんな人間になりたいという意思を発信できる選手が増えてきています。
阿部さん(#21 阿部翔平)が入ってきたことも大きいと思います。練習に臨むモチベーションやクオリティも上がります。阿部さんとマッチアップしたら「抜かれたくない」だろうし、僕のようなGKなら「阿部さんのシュートは止めたい」と思って普段以上の力が湧き上がってきます。
単純な話ですが、阿部さんのシュートを止めたり、キックを認めてもらえたりすれば「Jリーグの水準に達しているんだな」と思えるし、それは自分にとってすごく大きなモチベーションになります。本当にCITYにとって大きな存在だと思います。
甘さを打ち消して勝てるチームになるため
阿部さんのような選手が加入してサッカーのクオリティも上がったのに、昨年東京都社会人サッカーリーグ1部に昇格できなかったのは悔しいとか不甲斐ないとかではなく、もどかしい気持ちの方が大きかったですね。
最終節を終えた段階で自力昇格の可能性は消えていて、他力本願になってしまったのは自分たちの責任。さかのぼれば開幕戦からチームとして戦う気持ちやモチベーションをどれだけピークに近づけられていたのかという話になってくるし、まだまだ甘さが残っていた部分は大きいと思います。
シーズン中盤の試合でチャンスをたくさん作りながら決めきれず勝てなかった試合もそう。大量得点が求められていた最終節で、試合の中でうまくいかないフラストレーションを自分たちではなく、どれだけ相手のゴールに向けられていたのか。自分たちが感じている責任をポジティブなエネルギーに変えられる選手が少なかった印象がありました。まだまだだなって。
個人的には1部に昇格できれば、今年は古巣の東京海上と対戦するチャンスもあっただけに、余計もどかしさを感じます。だからこそ、今年は何としても全勝優勝で1部昇格を達成しなければならない。そのために、100%の状態で試合に臨めるよう地道にトレーニングしていくしかない。それが今の自分にできることだと思います。
CITYを語るにあたってピッチ外での活動を切り離すことはできないですが、そこでもまだ持っているリソースを活用しきれていないのではないかと感じます。クラブとしてもっと大きくなっていくためのアイディアやアクションはたくさんあるだろうし、サッカーとは関係なくても保険や金融の専門知識を持った僕のような人間のスキルをもっと使ってもらっても構いません。
ピッチ上で結果を残すために、そしてCITYというクラブが大きくなっていくために、できることはたくさんあります。常に限られた時間や機会を大切にしながら、冒険心や謙虚さを忘れず、後悔のない日々を過ごしていきたいと思います。