「襲われたら、感謝した方がいい」
30代半ばの頃、変質者のような男から、後をつけられて怖い思いをしたことがある。
何とか逃げ切って帰宅し、夫に「怖かった」と涙ながらに訴えると、想像もしなかった言葉が返ってきた。
「あ、そう。もし襲われたんだったら、まだ女として見られてるってことだから、感謝した方がいい」。
妻に向かって、こういう発言をする感覚は、どうやっても理解できない。でも、こんなことをさらっと普通に言うのが、わたしの夫だ。
隣人からのセクハラに「酔っ払ってただけでしょ」
変質者に追われても、無事帰宅したのだから、実害はなかった。
でも、夫は実害があっても、例えばわたしが他人に下半身を触られても、全く動じない。
それは、隣に住む夫妻をディナーに招いた時のことだった。
食事が終わり、お茶を出した後、わたしはキッチンで片付けを始めていた。すると隣人の旦那さんが来て、わたしを背後から抱きしめた。さらに、彼は、わたしの腰に手を回し、体を押しつけてきた。
何が起こったのか理解できなかった。
彼らが帰った後、夫に話したが「はあ?単に酔っ払ってただけでしょ」と言われただけだった。
「セクハラと証明できない」
悲しかった。
「そんなことをされたのか?!これから話に行ってくる」と言って欲しかった。
でも、妻の体に全く関心を持てなくなっていた夫が、そんなことを言う筈は無かった。
この話には、10年後、さらに夫の人間性を露呈するオチがつく。
わたしたちは、珍しく、ごく穏やかに昔の思い出を語り合っていた。わたしは、何故か、隣人から受けたセクハラを思い出し「あなた、あの後、彼に抗議しようと思わなかったの?」と聞いた。
間髪入れずに返ってきた答えは、
「証拠が無い」
だった。
妻がセクハラを受けたと言っているのに、証拠云々より、まず怒りを感じないのだろうか?
わたしは、心底、結婚相手を選び間違えた、と思った。
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