運命という名のもとに第10話
~妄想という名の短編小説~
第10話 「放課後デート」
美咲と仲良しになってから…どれくらいの月日が流れただろう?余りにも楽しいから、数年くらい経つような…そんな毎日を過ごしていた。私の闇を知らない美咲。でも、どこかしら…私の気持ちをいつも悟ってか?あえて、しつこく聞いてくることはなかった。むしろ…優しさすら感じとれる。私の心の中を…感じ取ろうとしてくれた。いつか…話せる日が、来たりするのかな。いや、きっと…あんなこと話したら、どう思われてしまうか怖くて…言えないや。
『おっはよぉーーーっ!ソーラちゃんっ!!』
また今日も一日のはじまりを告げた。この…やや少しハスキーかかった元気な声が、今日も…重たい私の背中を押してくれた。これで、今日も頑張れそうだ。
『おはよう!どうしたの???今日は、やけに…嬉しそうに見えるけど。』
『ん?!わかる?わかる?!』
笑みいっぱい浮かべた美咲が腕を掴みながら、耳元で囁いた。
『実はさ?今日…まさかのバイト休みになった。』
『えっ?3つとも???』
『正確に言うと、2つね!あ、こないだ…店長と揉めたから、一つ辞めちゃったんだよね。笑』
『え、えっ、じゃあ…今日は。。。』
『そーう!!放課後も♡パラダイスじゃぁあ!!』美咲は、子どものようにはしゃいでいた。そして、私もまた…放課後の楽しみを見つけることができた。そんな朝だった。
いつもなら…刻々と過ぎてく一日も、何故か、今日だけはやけに長く感じた。早く終わらないかなぁ…。いつものように、窓を見つめながら…美咲のことを浮かべてた。やっと…ホームルーム。終礼の挨拶と共に…すぐさま、私は約束の場所に駆け出した。先に居た美咲は驚いたような顔でこちらを見ている。
『ぉおお!走ってきたの?なんか、嬉しい。すげーっ。嬉しいんだけど!笑』
『わ、私も…余りにも嬉しくてさ?つい、走ってきちゃった。笑』
じゃあ、行こうか?二人にとっては、今日がはじめての放課後デートと言うわけだ。こんなに、ワクワクした気持ちは…いつぶりだろう?どこで、遊ぼうか?何しようか?高まる鼓動が…抑えきれそうにない程に、空(ソラ)は、このひと時を…ただ噛み締めていた。
『ソラちゃん?私、行きたいとこあるんだよね?』
『どこ?どこ?』
『あのさ?ちょっと、恥ずかしいんだけどさ。』
『うん。ん?どこ…行きたいの?』
『実は…さ?・・・あ、あ…あれ。あそこ…。』
美咲が指を指した。どれどれ?どこ…指してるの?……目をやると『んん?!』そこは、紛れもなく、目に入ってきた看板に度肝抜かれた。
『美咲ちゃん!嘘でしょ?!ほ、ほんとに行くの???』
『や…やっぱ、引くよね。嫌なら、全然いい!うん。いいよ。他のとこ…行こう!はは』
いつも堂々とした美咲が、今…この瞬間だけは、可愛らしく見えた。色白の頬紅く染めながら笑う美咲が、そこに居た。
『いや、いいよ。笑 私も…1人じゃきっと、入れないもん。てか、いいのかな。ドキドキする。』
二人が足を踏み入れようとしたその場所とは、興味があっても…初めはなかなか敷居が高過ぎて入れないといった装いの店。その名も…"メイド喫茶"。美咲ちゃんって…意外な一面があるんだと、少しばかり…可愛く思えた。
『じゃ、じゃあ。行こうか?』
『う…うん。』
『何かさ?この…心境。初めての…何か、ラブホみたくね?笑』
『もう!そんなこと言われたら…、行けなくなるよぉ!ほら、行って!行って!』
『あたし?!そうだよね…。笑 あたしが先だ。うん。おお!いこっ♡・・・てかさ?一度、入りたかったんだよ!こーいうの。ご主人様~!とか、ほんとに言われるんかなぁ。』
『何だか、本当に楽しそう。こんなに、はしゃぐ姿を見たら、嫌とか…言えなくなるよね?』
『えっ?嫌?嫌なのか???』
『ふふ。うんうん。嫌じゃないよ!ただ…。可笑しくて。あ、また…そんなこと言ったら、気にしちゃうよね。いいから…、入ろっ?』
『お帰りなさいませ♡ご主人様っ♡』
店の掛け声に…圧倒されながらも、慣れない二人は…何がなんだかわからずも…何とか、席についた。キョロキョロと周りを見渡す二人。男の人ばかりだと思っていたが、意外に…女の人も来るのだと思った。美咲もまた…キョロキョロしながら、指さしてはこちらを向いて、小声で何か言おうとしてる。どうにもこうにも…興奮がおさまらないご様子だ。
『美咲ちゃん!興奮しすぎだよぉ!もう、笑っちゃう。』
『ちがう!違う!違うんよ!あっち、あっち…見てみ?あれ…ほら、こないだの…聡…子?じゃね???』
メイドの格好をした女の子。化粧では誤魔化しきれないくらいの童顔が…「萌え、萌え、きゅ~ん♡」などと、客と騒いでいる。見てはいけないものを見てしまった気分になった二人は…、ここに居ることも知られたくはないが、後々のことを考えると…あの聡子がここで密かにバイトしてる事を知ってしまったことを本人に知られるのもまた…苦痛だった。
『ソラちゃん。嫌なとこ…来ちゃっね。店は他にも腐るほどあるのに。ほんと…ごめん。勿体ないけど…すぐ、出ようか?』
その言葉と共に、目の前に現れたメイドに…二人は唖然とした。
『お帰りなさいませ。ご主人様!今日は仲良しのお二人様に、サービス致しますわ♡』
動じない聡子の勇気に…正直、感服した。
『あ、あ…、あ、ありがとうございます。』
語彙力なくした二人の言葉に…聡子は言った。
『とんでもございません。こちらは、わたくしからのサービスです♡』
出されたソフトドリンク。ふと、気づくと、コースターの下に…メモが挟んであった。「こないだは…ごめん。おねがい。学校にだけは…言わないで?」私と美咲は互いに目を合わせて、コクリと頷いた。本当はもっと楽しみたかったが、そうもいかなかった。友だちと呼べる程の仲ではないにせよ、きっと、私たちが居座れば居座るほど…何故か、迷惑をかけてしまう気がした。また、今度…いつか行こうね、と二人は店を後にした。
『うっわぁ!マジで、ビビったぁ!せっかく、年に一度の誕生日っつうのに、楽しみ…減ったぜ。』
『えっ?美咲ちゃん。今日、誕生日なの???』
『えっ?あ、ぁあ!・・・ぅん。実は。そう。』
『何で、教えてくれなかったの!!!言ってくれれば…。。。あ、でも、今日の…今日じゃ、何も出来なかったけど。・・・ごめん。』
『ほーら、また出た!ごめん。もう…いっつも謝ってばっかだなぁ!ソラは。私もさ?聞かれてないのに…自らアピールするとか…何か、そんな格好悪いことできないよ。普通に。』
照れたように…話す美咲の口を塞ぐように、私は言った。
『じゃ、じゃあさ!今から、ケーキ買って、美咲ちゃん家でお祝いしようよ!今から、親に電話するから!お泊まりパーティとか…どう???』
『え、えっ?ぇえーっ?!うん!いいよ!うん。私は全然、大丈夫。てか…ソラは大丈夫なん?』
『任せといて。ウチの親が友だちのお家に泊まるとか聞いたら、きっと…逆に喜ぶよ。今まで、そんなことなかったから!』
『え?そうなの…?』
『うん。』
美咲が…やや不思議そうにこっちを見ていた。私の心の奥を…読むかのように。そう、この時…思ったんだぁ。話して…駄目なら、それまでなのかなぁって。だから…、恐くはなかった。失っても…また、少し前に戻るだけだから。仕方ない。仕方ないよ…。
空(ソラ)の心の叫び…。届くことはない。そう…思いながらも…、心のどこかで、信じていた。美咲なら…。美咲ちゃんなら…わかってくれるはず。
そんな空(ソラ)の心が、少しだけ…『お願い。嫌いにはならないで…?』と、叫んだ。
二人は未成年ながらも…夜遊び気分で、お酒を買った。「任せろ!」・・・未成年離れした顔立ちの…美咲は、疑われることもなく…お酒が買えた。いつも、買ってるの?と、言いたかったけど…言わずにいたのは、美咲を想ってのことだ。
『ソッラちゃーん!いいだろ?明日…休みでよかったね。飲み明かそうぜ!』
ウィンクしながら…はしゃぐ美咲の姿に、心から笑顔になれるような…そんな感覚になった。いつも…私に。・・・こんな私に、美咲はいつも無償の愛すら感じるような…優しい笑顔を向けてくれた。「ありがとう」私は…それだけで、幸せだよ?何度も…何度も…心の中で…呟いた。。。
『ここが!あたしの…城じゃあ!!!』
美咲の部屋は…思っていたよりもシンプルで、それでいて…整理整頓された綺麗な部屋だった。
『わぁー!何か…素敵だね!嬉しいよぉ!』
『えーっ?!そっ?そ?マジかー!あたしの方が、嬉しいんだけど!・・・実はさ?友だち…???とかさ、よんだの…初めてでさ?な、何か…変な感じするんだよぉ。あんま、いないから…。ダチみたいなの。』
『じゃあ!美咲ちゃんの認めるダチは…私?・・・嬉しいなぁ。』
『ぉおー!そうだ!そうだよ。』
初めてではなかったけど、飲んだお酒は…やけに美味しくて、たわいもない会話で盛り上がった。気づけば…午前0時が過ぎていた。お酒のせいか…やや紅色になった頬を…染めながら私たちは夢心地に包まれたような、そんな気分でいた。できれば…醒めないで……?お願い…。
『ソラちゃん?ソラはさ?めっちゃ、大切なんよぉ?・・・だから…聴いてもいいかな?』
『・・・。』
この時が…来てしまった。
『え?何を???』
『な…なんかさ?感じるんだよね。時々。ソラちゃんがメチャ切ないような気持ちになってるのを…。実は、めちゃ感じててさ?気になる…というより、何か、何か…、力になれないのかなぁ!とかとか、思ってしまってさ?な…なんか、上手く言えないけど、そう…思うんよね?』
・・・。
止まる時間を感じながら、私は言った。
『私ね?人殺しなんだ。しかもね?相手は…親友だった子。めっちゃ、酷いことを言ってさ?その直後…、交通事故で死んじゃったの・・・。私のせいなんだ。ありえないこと。ありえないくらいの…こと、言っちゃってさ?消えて?とか…言っちゃったら、本当に・・・消えちゃった。。。』
その瞬間…。
初めて…人という温もりを…初めて感じた。ただ…自分の本能だけを押し付けるのでなく、今…この瞬間、目の前にいる自分の心を受け止めようと…必死になってくれている人。そこに…高山美咲が居た。居てくれた。
美咲は…何も語ることなく…ただ、私のことを『ぎゅっ』と、抱きしめてくれた。頭を撫でながら…その手が優しく、そして…背中を撫でてくれた。子どもに戻っちゃったのかなぁ?背中を…優しく、優しく…「トントン」してくれる手が、私の鼓動と…連動した。心音と重なるその…優しい美咲の手の温もりが…私の心を深く癒してくれた。
『ありがとう。美咲ちゃん?私ね…。私…、、』
その瞬間、私の唇を塞いだ美咲の指が…静かに…私を静止させた。
『話すの…つらい時は、無理に言わなくてもいいんだよ?』
美咲は優しい笑を浮かべて、私を見つめていた。
これが…『大切な人……人のぬくもり』と呼べるものなのかな。私は…このまま、時間が止まってくれたらいいのに。そんな…想いを胸に抱きながらも、私は…この瞬間を抱きしめていた。
美咲の指が離れた瞬間…私は、言った。
『ありがとう。美咲ちゃん出会えて…本当に、よかった。私を…救ってくれて…ありがとう。』
酒の影響もあるのか、ただ…二人は温もりの中で…互いの心の拠り所になれることを感じていた。
美咲の存在に、救われた空(ソラ)。そして、美咲にとって…救われたのは、空(ソラ)の存在であったことを。・・・まだ、空(ソラ)は知る由もなかったんだ。だけど、この…『癒し』という空間に、できれば、ずっと浸りたかった。
この時…初めて、本当の意味で…ふたりの絆が深く繋がったんだ。
まるで、好きな人でもできたかのような…このままずっと、一緒にいたいって思った。こんな気持ちになったのは、一体…何時ぶりだろう?いや、今までにもあったのかすら…わからないでいる。二人だけの空間、夜更けの部屋に…時計の秒針だけがチクタクと響いていた。
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