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可愛い密航者

可愛い密航者

galaxy20,000yearslaterseries
第1弾

ファウンデーションの夢

第七部
アルカディア・ダレル

第5話
エピソード 50

ホバー・マンの船は、ブラックホールをかすめる軌道で静かに航行していた。彼は操縦席のコンソールに目を落としながら、一息つく間もなく次の作業に取り掛かろうとしていた。そんなとき、不意に背後から声が聞こえた。

「ホマー叔父さん、怒らないでね。」

ホバーは驚いて振り向いた。そこには、アルカディアが立っていた。彼女の表情はいたずらっぽくもあり、申し訳なさそうでもあった。

「ブラック・ホールにかけて、この船で何をしているんだ、アルカディア!」ホバーは声を荒げた。「一体なぜここにいるんだ!」

「びっくりさせてごめんなさい。一緒に来たかっただけなの。」アルカディアは落ち着いた口調で言った。「叔父さんが第二ファウンデーションを探しにカルガンに行くのを知って、どうしてもついて行きたくなったの。」

「一体、どうやってこの船に乗り込めたんだ?」

「簡単だったわ。」アルカディアは肩をすくめた。「忘れ物を届けに来たって言ったら、警備員さん、ただ親指を立てただけだったの。」

ホバーは頭を抱えた。「おまえ、俺がカルガンに行くと知っていたのか?」

「もちろんよ。」アルカディアは微笑んだ。「毎晩、叔父さんの計画を高性能の盗聴機で聞いていたから。それに、叔父さんの歌、だいぶ調子外れだったわね。アンソーアさんを疑っていたのも知ってるわ。私も同じよ。それから、カルガンの次にトランターに連れて行ってほしいの。」

「それは約束できん。」ホバーは厳しい口調で返した。「燃料費をお前が出すわけでもないだろう。」彼はアルカディアを睨みつけた。「でも、なぜトランターなんだ?」

「まだおばあちゃんが元気だったころ、子守歌で『宇宙の廃墟と言われている星、トランター。宇宙の中心、命の源』って歌ってくれたの。」アルカディアの声には力がこもっていた。「だから、何かあるはずだと思うの。」

そのとき、船内のAI、ミーターが彼らの会話に割り込んだ。「アルカディアお嬢ちゃん、お父さんから緊急連絡が届いています。読み上げますね。」

ホバーは腕を組んで不機嫌そうにミーターを見た。

ミーターがメッセージを読み上げる。「『アルカディア、こうなったら仕方ない。お前のことだ。呼び戻すと騒ぎになるだろうし、ホマーも一人では寂しいだろうから、ちょうどいい。心行くまで楽しんで来い!』」

ホバーは苛立ちを隠せなかった。「なんだ、トランの奴め!俺のことをなんだと思っているんだ!呑気なやつだ!」

そして彼の視線はアルカディアが持つ奇妙な装置に向けられた。「それにしても、その宇宙通信機はなんだ?」

「オリンサスが改造してくれたの。」アルカディアは誇らしげに言った。「盗聴機と論文作成機を組み合わせたのよ。」

ホバーはため息をつき、椅子に腰を下ろした。「全くお前という奴は、手がかかる。」

アルカディアは満面の笑みを浮かべた。「ありがとう、ホマー叔父さん!」

彼女の明るい声が船内に響き渡り、ホバーは少しだけ口元を緩めた。

次話につづく . . .

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