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イリーナの励まし

第88話イリーナの励まし

第88話 イリーナの励まし
SF小説 ボー・アルーリン

ボー・アルーリンは窓越しに広がる星空を眺めていた。その目には、遠く離れた故郷コンポレロンや、彼が抱えている壮大な使命の重さが映っているようだった。部屋の中には静かな空気が漂い、隣に座るイリーナの声だけがその静寂を切り裂いた。

「わたしはだいぶダニールをみくびっていたようだ。」ボーは小さなため息とともに呟いた。

イリーナは驚いた表情を見せたが、すぐに明るい声で返した。「そうじゃないと思うわ! あなたは彼を尊敬してきたし、彼を人生の恩師として感謝してきたんじゃないの。」

ボーはわずかに笑みを浮かべて頷いた。「そうだけど、わたしの思考は『ガイア』という概念にまでは至らなかった。それが今になって、彼が何を目指していたのか少しずつ見えてきた気がする。」

「思うんだけど、フィオーナさんが言ってた『ダークマターやダークエネルギーを含めた宇宙』のことを、きっとダニールはずっと前から気づき始めていたんだと思うの。彼は惑星オーロラの出身だわよね。当然、スペーサーの精神的傾向から彼の正義観はその枠組みを超えることができなかったんじゃないかしら。」イリーナは少し興奮した様子で話し続けた。

ボーは深く頷いた。「なるほど、君の意見は科学的に的を射ている。ニフ人を先祖にもつガール・ドーニックの証古学は、そういった偏りを是正する可能性を持っている。君流に言えば、ダニールの数多の文芸復興の失敗は決して無駄ではなかった、ということだね?」

イリーナはにっこりと微笑んだ。「その通りよ。シンナックス人たちの精神性が相まって、スペーサーの偏った視点を補えるんじゃないかと思うの。」

ボーは窓の外に目を向け、遠くの星を見つめながら静かに語った。「そしてもっと言うなら、もしガイアの思考にどこか不備があったとしても、ガールの考え方でそれを乗り越えることができるのだろうな。」

「そうよ!」イリーナは声を弾ませた。「素晴らしいわ、ボー。自信を持ちなさいよ。あなたはダニールの弟子、ボー・アルーリンなんだから! いよいよ私たちは銀河再縁部に突入するわ。」

ボーは静かに微笑みながら、イリーナの言葉を胸に刻んだ。外宇宙の未知なる闇が彼らを待っている。それでも、彼の中には確固たる希望が灯っていた。ダニールが目指した未来、そして自分自身が作るべき新たな銀河文明が、すぐそこにある気がしてならなかった。

次話につづく . . .

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