我ら銀河の子
我ら銀河の子
ファウンデーションの夢
第七部
アルカディア・ダレル
第4話
エピソード 50
我ら銀河の子
夜の帳が降りる頃、トラン・ダレルの屋敷では密やかな会合が繰り返されていた。彼らは帝国の遺産を引き継ぐ者たちであり、銀河の未来を託された者たちである。その中心にいるのは、セルダン計画の守護者として知られるトラン・ダレルだった。彼の名は父から受け継がれたものだが、背負う使命は父以上に重いものだった。
ある晩、一人の男が屋敷を訪れた。彼の名はペアレス・アンソーアと名乗り、かつての研究所でトランの父と働いていた同僚の弟子だと言う。長身で痩せた彼は、冷たい微笑みを浮かべながら、こう申し出た。
「私はモーヴ市民です。私の装置を使えば、あなた方の記憶を調査し、重要な手がかりを見つけ出せるでしょう。」
しかし、その言葉は一同の警戒心を煽るだけだった。特に、トランの従兄弟であり、帝国図書館の司書であるホバー・マンは、アンソーアの振る舞いに疑念を抱いていた。
「モーヴ出身だと?」ホバーは冷ややかに問いかける。「あなたの話には腑に落ちない点が多すぎる。」
さらに、彼らは別の重要な議題を議論していた。それは、「カルガンに第2ファウンデーションの基地が存在する可能性」についてだ。ホバーは、誰もが恐れる使命を自ら引き受けることを提案した。
「私が潜入します。」ホバーの決意は固かった。「必要ならば、一人ででも。」
その場の空気は重かった。アンソーアの意図が分からないまま、トランたちはひとまずその場を切り替えようとした。モーヴ市民に伝わる愛唱歌、「我ら銀河の子」を歌い始めたのだ。
「冷たい銀河の風に打たれても僕らは怯まない
なぜって 僕らは高邁な理想に燃えているから
セルダン先生のあとを追いかけて
たとえボロなスペースワゴンだってへいちゃらさ」
歌声は、屋敷全体を包み込んだ。ホバーの低いバスが響き、トランの情熱的なテノールがそれに重なる。周囲の空気が変わり、アンソーアはその光景に圧倒され、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「熱い銀河の風に打たれて僕らは戦う
なぜって銀河はそれを望んでいる
ファウンデーションはきっと大銀河を復興し
希望が愛に変わる
宇宙の果てまで紫(モーブ)に染まる」
最後の一節が終わると、アンソーアは息を呑んだ。「 . . . あなた方の覚悟と信念が、ここまで強いとは思いませんでした。」その瞳には一瞬だけ、何かが揺らいだように見えた。
だが、ホバーの目は鋭いままだった。「歌で誤魔化されるほど我々は甘くない。」
「分かっています。」アンソーアは短く答えた。「私の装置で真実を明らかにしませんか?」
ホバーは静かに首を振った。「その前に、あなたの正体を確かめる必要がありそうだ。」
アンソーアの唇が引きつる。ここから、真の対決が始まるのだと誰もが感じていた。
歌が消えた後、再び静寂が訪れる。だが、その余韻は銀河の果てまで響き渡ったようだった。彼らは、銀河の未来を担う者たちだったのだから。
次話につづく . . .