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プラスサムゲーム

第92話 プラスサムゲーム

SF小説『ボー・アルーリン』

宇宙歴史学研究室、ターミナス学術機関(仮設)。

カーリスはデータパッドを片手に、ボー・アルーリンの書斎へ足を踏み入れた。 重厚な書棚には、心理歴史学の古典や銀河各地の文明に関する膨大な記録が並んでいる。

「先生、ホルクの重要な任務って何ですか?」

ボーは手元のホログラムを操作しながら答えた。

「ホルクには惑星ヘリコン、そして失われた惑星オーロラと惑星ソラリアに行ってもらっている。」

カーリスは驚いて眉をひそめた。「そんな遠くまで? 何のために?」

ボーは静かに指を組み、思索するように天井を見上げた。

「彼のゲーム理論に磨きをかけるためだよ。銀河文明の衰退過程を理解し、それを心理歴史学の原点から探る必要がある。特にオーロラとソラリア――かつてのスペーサー文明がどのように崩壊したのか、その構造を分析してもらいたい。」

カーリスは腕を組みながら考え込んだ。「スペーサー文明って . . . ロボットを奴隷のように扱っていた、あの?」

ボーはゆっくりとうなずいた。「そう。彼らの社会は収奪文明だった。一方、現在のセッツラーのような文明はプラスサムゲームの社会なんだ。」

そう言うと、ボーはデスクからホルクが送ってきた最新の報告書を取り出し、カーリスに手渡した。

「読んでみたまえ。企業と資本主義の本質がよく分かる。」

カーリスはパッドをスワイプしながら、ホルクの分析に目を通した。

ホルクの報告書: 「惑星ターミナスの建設は、まるでゼロサムゲームとプラスサムゲームの違いを体現しているようだ。

ゼロサムゲームとは、参加者全員の利益と損失の合計がゼロになる状況を指す。誰かが得をすれば、必ず他の誰かが損をする。ポーカーや短期株取引はその典型例だ。

プラスサムゲームは、経済成長や投資のように、全体の価値が増えていく構造を持つ。

ターミナス建設では、惑星トランターの一部勢力、サンタンニ政府、サリプ政府が協力している。彼らは、銀河が無秩序と混沌の中で衰退しようとも、ターミナスの発展とともに利益を得られる構造を作り出している。」

「なるほどな . . . 」カーリスは報告書から目を上げた。「つまり、ターミナスを支援する三つの勢力は、ターミナスの発展が進むほど得をするわけですね。」

ボーは満足そうに頷いた。「その通り。これは一種のプラスサムゲームだ。トランター全体ではなく、特定のグループが関わっている点も重要だ。彼らはターミナスの成長を自分たちの利益に結びつけている。」

カーリスは考え込むように顎に手を当てた。「でも先生、ロボット文明についてはどうなんです?それもプラスサムゲームになり得るんですか?」

ボーは静かに微笑んだ。「知っての通り、収奪型の文明はいずれ滅びる。そしてもう一つの真理は、ロボットたちも奴隷の立場から自立することが大切だということだよ。」

カーリスは目を輝かせた。「じゃあ、ホルクのもう一つの任務って . . . ?」

ボーはわずかに間を置いて答えた。

「それは、次の報告を待ってから話そう。」

次話につづく . . .

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