
ジスカルドとダニールの秘密 心理歴史学と精神感応力
galaxy20,000yearslaterseries
第2弾
ミーターの大冒険
第六部
地球へ
第17話
エピソード 159
ジスカルドとダニールの秘密 心理歴史学と精神感応力
あらすじ
ファウンデーション暦492年、いよいよミーターとイルミナを載せたファー・スター2世号はメルポメニアからアルファに着く。
ミーターは、太陽系と地球についての最終的情報を得ようとしてアルファに降りることにした。
その前にメルポメニアで入手した図書館の蔵書に記されていた地球と地球人類、そしてアルファの住民の起源の土地、ニフについての恐怖の出来事について驚嘆する。
その古文書のなかに、メルポメニアの滅亡寸前に記されたであろう『スペーサーとアルファ』なる書物をミーターは、イルミナに提示し、その概略の説明をさせる。
ニフの起源と核戦争の事実であった。
イルミナはまたニフ人が二種類いることを語る。
ニフ人たちは、核融合という理想のエネルギーを人類に提供するものの、謙譲の美を進んで実行し、祖先がそうであったように、移動の民に目覚め、密かに宇宙に出て行った。
彼らは後にシンナックス人として知られるようになる。それは、ナックの思想に同調していたニフ人以外にも地球全土に人種を越えて散らばっていったからである。
残ったニフ人たちは、地球各地で放射能に汚染された環境浄化をしつつ、最後まで地球を守り続けた。が、最終的には地球を手放さなくてはならなかった。そして彼らはテラフォーミングを必要としていたアルファに移住した。
イルミナは、銀河の歴史的収束点前後の大事件について繙(ひもと)く。
それは、ケルドン・アマディロ博士とレヴュラー・マンダナス博士の「核反応増強装置」による「地球放射能汚染計画」であった。
アマディロは、イライジャ・ベイリーとハン・ファストルフ博士への恨み骨髄に達するほどに執念を燃やし、ついに復讐の刃を地球人撲滅という悲惨で残酷なシナリオを完成させようとしていた。
本文
ミーターは深く座り直し、視線をイルミナのホログラムに向けた。彼の目には戸惑いと焦燥が混じり、しかしその奥にある微かな決意が、話を最後まで聞き届けるという意志を物語っていた。
「イルミナ、なぜだ?」ミーターは言葉を噛みしめるように問いかけた。「ジスカルドとダニールは装置を阻止できた。それなのに、なぜ阻止しなかったんだ?」
イルミナは一瞬、ホログラムの映像でさえわかるほどため息をついた。そして穏やかな口調で語り始めた。「ジスカルドは最後にこう言ったの。『フレンド・ダニール、君と僕はベイリーの心を読んだ。それは崇高な人類(セッツラー)の輝ける未来だ』と。」
ミーターは黙って耳を傾けた。その顔には何かを理解したいという渇望が浮かび上がっていた。イルミナは続けた。
「ダニールがその装置を破壊しようとした瞬間、ジスカルドはダニールのその動作を制して、言った。
『待て、フレンド・ダニール、地球の人類はやがて銀河を覆い尽くす。その人類とはスペーサーではなく、セッツラーだ。セッツラーがこの銀河で独り立ちするためには、むしろこの装置を駆動させたままにしよう。彼らには戻るべき故郷を捨ててもらう。』彼はセッツラー(ベイリーたち地球人)、つまり移民たちに未来を託そうとしていた。そしてこう続けたのよ。『私(ジスカルド)は自分の能力を蔑んできたが、君(ダニール)との対話を通してそれが間違いだと気づいた』と。」
「能力?」ミーターは問い返した。「精神感応か?」
イルミナは頷いた。「そうよ。ジスカルドは精神感応と精神操作の能力を使い、ベイリーの心を通して未来を見たの。その未来には心理歴史学の成功が含まれていたの。」
ミーターは無言のまま、彼女の言葉を飲み込もうとしていた。イルミナは話を続ける。
「ジスカルドはダニールにこう言ったの。『人類は自らの力で銀河に進出し、この地球を捨てねばならない。過去に執着していては未来はない。放射能誘導装置を発火させよう。それが必要なのだ』と。」
ミーターの顔が苦痛に歪んだ。「馬鹿な!なぜそんなことを . . . 」彼は拳を握りしめた。
イルミナはその姿に目を向け、静かに言った。「それは彼らが信じた未来のためだったの。ジスカルドはこう締めくくったわ。『私はロボット3原則から逸脱したので機能がフリーズされる。今、私の能力を君に譲る。君はこれから一人で行く。誰も止める者はいない。そして一人で道を拓く。いいね、フレンド・ダニール!』と。」
ミーターはしばらく沈黙し、その場の空気が重苦しいものへと変わった。やがて彼は力なく息を吐き出した。「ジスカルドは最後に . . . 何と言った?」
イルミナは目を伏せ、言葉を選びながら答えた。「ジスカルドはこう言ったわ。『やがてロボットと銀河帝国は終わる』と。」
その言葉が落ちると、部屋は完全な静寂に包まれた。ミーターは声も出せず、ただ天井を見上げた。彼の目からは涙が流れていたが、それに気づいている様子はなかった。
「ミーターさん . . . 」イルミナが優しく声をかけた。「これは彼らが選んだ未来です。それを受け入れることが、私たちに課された使命だと思うの。」
ミーターは目を閉じ、長い沈黙の後、かすれた声で言った。「わかった。受け入れよう。でも . . . この痛みを忘れることはないだろうな。」
イルミナのホログラムは静かに揺れ、最後の言葉を呟いた。「それでいいのです、ミーターさん。それで . . . 」
次話につづく . . .