
サハ・ローウィンス
第97話 サハ・ローウィンス
SF小説 ボー・アルーリン
ターミナスの薄青い空の下、宇宙港の整備区域では、到着したばかりのシャトルのハッチが静かに開かれた。タラップを降りてきたのは、長身で洗練された女性だった。
サハ・ローウィンス──51人委員会の先遣隊として派遣された調査官である。
「ボー・アルーリン先生ですね?」
彼女は軽く微笑みながら、一行の中央に立つ男に視線を向けた。ホルク・ミューラーから何度も聞かされていたその姿は、噂どおりの知的な雰囲気をまとっている。
「私たち51人委員会を代表し、移住計画の準備をここまで進めていただいたことに、心からの感謝を申し上げます。」
ボーは軽く頷き、迎えの人々に視線を向けた。
「ターミナスへようこそ、サハさん。」
すると、一人の女性が柔らかな声で言葉を継いだ。
「まあ、ご丁重なご挨拶ですね。」
彼女はボーの横に立ち、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「わたしはボーの妻、イリーナ・シャンデスです。そしてこちらが建築主任のカーリス・ネヴロス。ダール人のチーフでもあります。」
カーリスは腕を組み、じっとサハを見つめた後、感嘆の声を漏らした。
「惑星ターミナスの指導者の一人がこんなに別嬪とは驚きましたね。それにホルクは一体どうやってこんな素敵な方を見つけたんです?」
「言い過ぎですよ、カーリス。」イリーナは苦笑しながら肩をすくめる。「サハさん、すみませんね。よっぽどあなたが美しいから、ビックリしているのよ。普段は無口な人なんです。」
サハはくすりと笑った。「いいえ、大丈夫ですよ。そんなに褒められると、むしろ恐縮してしまいます。」
ボーは話題を戻すように一歩前に出た。
「サハさん、ということは──あと三ヶ月で、残りの五十人が到着するということでよろしいですね?」
「はい。」サハは頷いた。「タルボットさんのお働きには、グループ全員が感激しております。」
ボーは遠くを見つめ、彼の忙しそうな姿を思い浮かべた。
「ただ──」
サハが言葉を区切ると、ボーがすかさず続きを促した。
「何か問題でも?」
「いいえ。ただ、一名だけ到着が遅れるかもしれません。」
ボーは眉を上げた。「ガール・ドーニック博士、ですね?」
サハは驚いたように目を瞬かせた。
「タルボットさんから聞いてますよ。彼がここに来る前に“もう一つの任務”を受けたことも。」
「“もう一つの任務”?」イリーナが興味深げに問い返す。「ドーニック博士という方は、それほどまでにセルダン博士から信頼されているのですか?」
サハは軽く頷いた。「ええ。セルダン博士のお孫さんのウォンダさん曰く──『おじいさんは、ドーニック博士のことを盟友だったユーゴ・アマリル博士の生まれ変わりだと信じ切っているようでした』と。」
「ふむ . . . 。」ボーは考え込むように顎に手を当てた。
カーリスが唐突に口を開いた。「そういえば、前に聞いた話では、ターミナスの最高指導部は五十人だったはずです。それが五十一人になっているのはどういうわけです?」
サハは彼に向き直り、穏やかに微笑んだ。
「実は──その五十一人目が、ガール・ドーニック博士なんです。」
彼女は自らの胸に手を当て、軽く笑った。
「ちなみに、五十人目がこの私というわけです。」
カーリスは腕を組み直し、低く唸った。「なるほど . . . 興味深いですね。」
サハは穏やかに息を吐き、改めてボーに向き直った。
「これから、よろしくお願いします、ボー先生。」
ボーは静かに微笑み、手を差し出した。
「こちらこそ、サハさん。」
ターミナスの未来を担う人々が、今、出会いを果たした。
次話につづく . . .