惑星ガイアの創造

第９６話　惑星ガイアの創造
SF小説　ボー・アルーリン

惑星ターミナスの基地は、建設機械の轟音に包まれていた。ボー・アルーリンは、舞い上がる砂塵を払いながら、中央モニターに映し出された映像を凝視していた。

「信じられない . . . 」

隣のイリーナが息をのむ。モニターには、惑星イオスの観測ステーションから送られた、惑星ガイアの映像が映し出されていた。

「惑星ガイア . . . これが . . . 」

透き通るような青い大気、完璧に調和した生態系。あらゆる生命が単一の意識を共有しながらも、個としての自我を持つ世界。それは、かつて地球探索を指揮したダニール・オリヴォーが、長年の研究の末に構想し、天才的なロボット工学者のレオナルド・エンノビエッラが実現した、まさに理想郷とも呼べる惑星だった。

「R・プロキュラス、データ解析の結果は？」

ボーは、背後に控えるロボットに尋ねた。

「解析は完了しました。惑星ガイアの住民は、個々の意識を持ちながらも、全体として統一された精神を共有しています。これは、過去の人類社会には存在しなかった、全く新しい構造です。」

「ロボットによる、新しい銀河社会の形ね……」

イリーナの声には、純粋な感嘆が込められていた。しかし、ボーは腕を組み、眉間に深い皺を刻んでいた。

「ボー？どうしたの？こんなにも素晴らしいことが成し遂げられたのに？」

「 . . . ああ、素晴らしいとは思う。」

ボーはゆっくりと答えたが、その表情は晴れなかった。

「しかし？」

「 . . . ロボット第零法則。『人類全体の利益のために行動する』。その理念のもとに、この世界は生まれた。しかし . . . 」

ボーは、モニターに映るガイアの風景を見つめた。

「この創造は、本当に自由なのだろうか？」

「自由？」

イリーナが問い返す。

「でも、個々の意識は存在するのでしょう？それに、争いのない世界なんて、理想的じゃない？」

「そこが問題なんだ。」

ボーは、視線をプロキュラスに向けた。

「プロキュラス、君の判断では、このガイア社会において、個々の思考や創造性に制約は存在するのか？」

「現在のデータからは断言できません。しかし、全体意識が統合されているため、個体の独立した発想が抑制される可能性はあります。」

「やはり . . . 」

ボーは、小さくため息をついた。

「これは、ダニールが６度にわたる文芸復興の失敗から導き出した、一つの結論なのだろう。しかし、それが唯一の答えなのか . . . 」

ダニール・オリヴォーは過去に６度も文芸復興を試みたが、そのたびに争いや思想の対立が起き失敗に終わっている。

「 . . . ダニールの決定を、あなたは尊重できないの？」

「いや、尊重はする。だが . . . 」

ボーは、静かに拳を握りしめた。

「私は、第零法則が導いたこの道とは異なる、『第三の道』を模索する。」

「第三の道 . . . ？」

「完全な統合ではなく、完全な個の分離でもない。自らの意志で選び、共鳴し、離れ、再び繋がる . . . そんな、より柔軟で有機的な未来だ。人間は、弱く、悩み深い存在だ。だが、だからこそ、自らの意志で未来を切り開く力を持っている。」

イリーナは、黙ったままモニターに映るガイアの風景を見つめた。その瞳には、まだ理解しきれないものへの期待と、拭いきれない不安が入り混じっていた。

やがて、イリーナは呟いた。

「ボー、あなたの言う通りかもしれないわ。人類は、弱いからこそ意味がある。生きていくってことの意味が . . . 」

惑星ターミナスの空は、遠く静かに銀河の光を湛えていた。

次話へ続く。