見出し画像

時を超えた霊廟

第93話「時を超えた霊廟」

SF小説『ボー・アルーリン』

銀河暦10267年 – 惑星ターミナス

ボー・アルーリンは惑星コンポレロンのシンベイリ遺跡を訪れた際、そこで目にした棺に衝撃を受けた。その形状、装飾、素材のすべてが、かつて友人ベントレーの故郷シンナックスのアンドロメダ寺院で見たものと完全に一致していたのだ。

なぜ、銀河の異なる二つの惑星に、まったく同じ棺が存在するのか?

その瞬間、ボーの内に生命の真理が閃き、彼は未来への洞察を得た。シンベイリ遺跡とアンドロメダ寺院は、単なる偶然の一致ではない。それらは、遥か銀河の彼方に広がる、ある計画の残滓なのではないか。

彼は確信を得るため、ホルク・ミューラーを銀河半球の向こう側に遣わした。カリブ・ゼロの本棚に記録されていた約1万3,000年前の出来事を、現地で直接検証すること。それは、ガール・ドーニックから学んだ技術を用いた再現可能な調査であった。

銀河史の影に潜む3つの文明

ホルクの調査によれば、惑星オーロラを盟主とするスペーサー文明はキリスト暦2500年頃に宇宙へ進出した。だが、その先駆者となったのは惑星シンナックスであった。シンナックス人の宇宙開拓の理念は「移動」と「新しさ」を重んじるものであり、彼らは純粋な探求心のもとに星々を渡った。

それに対し、スペーサーたちは高度なテクノロジーを誇りながらも、裕福な上層階級による閉鎖的な社会を形成し、精神文化は次第に退廃していった。シンナックス人はその優れた科学技術を利用されながらも、半奴隷的な扱いを受け、約2000年にわたりスペーサー文明の影に甘んじてきた。

しかし、キリスト暦1万年を境に潮流は変わる。かつて銀河に君臨したスペーサーたちは衰退し、後発のセッツラー文明が台頭したのだ。ダニール・オリヴォーはこの動きを注意深く見守り、セッツラーが銀河全域に入植を完了する時を待っていた。

セッツラー文明の旗手となったティラニ帝国が興隆するに至り、セッツラーの出発点である惑星コンポレロンは、二つの惑星と強い紐帯を結ぶようになった。

それが惑星シンナックス、そして惑星ヘリコンである。

時を超えた霊廟の建設

セッツラーの三惑星連合は、彼らの第一の英雄、D・J・Bとグレディア・ソラリアの眠る棺を共通の形で造営し、それぞれをシンベイリ(コンポレロン)、アンドロメダ(シンナックス)、ヴォールト(ヘリコン)と名付けた。

彼らの共通の物語は『児童のための知恵の書』を通じて未来へと語り継がれた。

ホルクはヘリコンでの調査の中で、ある伝説を耳にする。「13000年後、三惑星連合に参加したジョセフ・ファストルフ行政長官が蘇る」というものだ。

この話を聞いたホルク・ミューラーは、ボーに一つの提案を持ちかける。

「第1ファウンデーションの未来を見据え、50年ごとにハリ・セルダンを霊廟にホノグラ厶として蘇らせるのはどうでしょうか?」

隣で話を聞いていたイリーナは、深く頷き、こう言った。

「素晴らしい案ね。それを『時間霊廟』と呼びましょう。」

ボーは、コンポレロンのシンベイリ遺跡で得た直感を思い返しながら、イリーナの言葉に共鳴した。彼女は続ける。

「あなたがシンベイリ遺跡で感じた『合一』の瞬間が、今この場でも起きているのよ。」

ボーは驚きつつも、その言葉に確かな手応えを覚えた。

次話につづく . . .

参考逸話

共通の起源を持つ文明

なぜ、シンナックスとコンポレロンの棺は完全に一致していたのか?

その謎を解く鍵は、銀河史の遥か奥深くにあった。

それらの棺は、かつて銀河に広がった「原初の文化圏」によって設計されたものであり、シンナックスとコンポレロンは、銀河帝国成立以前に存在した未知の銀河文明の影響を受けていたのだ。

アンドロメダ寺院の謎

シンナックスにある寺院が「アンドロメダ寺院」と呼ばれる理由。それは単なる偶然ではない。

この寺院は、銀河の外部(アンドロメダ銀河)からもたらされた知識や遺物を保存する施設だったのではないか。

シンベイリ遺跡と封印された秘密

コンポレロンのシンベイリ遺跡は、銀河帝国の最盛期でさえ「封印された遺跡」とされていた。それは、ここに失われた知識が眠っていたからに他ならない。

かつて銀河帝国が興る前、コンポレロンは独自の文化を持つ惑星であり、特に「進化」と「意識の拡張」に関する実験が行われていたのだ。

棺の目的

それらの棺は、単なる埋葬具ではなかった。

記録装置、あるいは意識の転送装置。

遺跡に残されたテクノロジーは、古代の超知性体が意識の保存や移動を試みた痕跡だった可能性がある。

生命の真理と未来の洞察

ボー・アルーリンが棺を目にした瞬間に感じた「生命の真理」。それは、彼自身がかつての銀河文明と何らかの形で「接続」されたからかもしれない。

時を超えた霊廟は、単なる歴史の遺物ではなく、未来へと続く「知識と意識の継承」の場だったのだ。

いいなと思ったら応援しよう!