ヘリコンからガイアへ
第86話ヘリコンからガイアへ
第86話 ヘリコンからガイアへ
SF小説 ボー・アルーリン
プロキュラスのスピーカーを通じて、アーキヴォーの低い声響いた。
「お二人、ボー先生の予想通りでした。惑星オーロラの軌道を通過中、シンパシック・ハーヴェイ号からの通信が徐々にに強まってきています。さらに、ダニール様が極素輻射体を自由に操られているようです。そして、次のような通信が記録されました。」
アーキヴォーは一呼吸置いて続けた。
「『私は、レオナルド・エンノビエッラ。機体装置に代わり、私自身がダニール様の言行を保存し、発信しています』と。」
その言葉に、イリーナは首をかしげた。「レオナルド・エンノビエッラ?」
アーキヴォーが即座に答えた。「シンパシック・ハーヴェイ号のデータベースと極素輻射体の融合によって造られた存在、いわば人造人間のようなものです。『エンノビエッラ』という名前について調査しましたが、古代地球語を基に推測すると、ロボットの中でも高貴なもの、あるいは新たに造られた民族の中で高貴なもの、という意味を持つ可能性があります。また、スペーサーの星図を参照した結果、レオナルドが生成されたのは恒星オーロラ近くのエンノビエッラ星系だと思われます。さらに、通信の強度は10万倍に増幅されています。」
「10万倍!?」とイリーナは息をのんだ。「それで、そのレオナルドという存在は、なんと通信してきたの?」
アーキヴォーは慎重な口調で答えた。「はい、彼からの通信内容を解析しました。どうやら、時間的因果律の連鎖を経て、船内のお二人、つまりダニールとイリーナが次のような結論に至る未来を示唆しています。『ハリ・セルダン』『タバコ』『水耕栽培』『地球本体の生命作用』『科学者ラブロック』、そして、『ガイア』という概念に。」
ボーは額に手をやりながら低く唸った。「ガイア . . . だって?」
「ガイア、つまり、人類の未来の描写ってことなの?」イリーナが問う。
「それだけじゃないかもしれないね」とボーは答えた。その目には驚きと興奮が交じっていた。「もしかすると、それ以上かもしれない。ガイアという概念が意味するのは、単なる人類の未来像にとどまらないかもしれないよ . . . 」
「それ以上?」イリーナが不思議そうに聞き返す。
ボーは静かに語り始めた。「もし、ガイアという概念が本当に宇宙全体を含むものだとしたら……それは、銀河系だけの話じゃない。宇宙そのものが一つの有機体であるとする、ラブロックの『ガイア仮説』を超えたものかもしれないんだ。銀河全体、いや、宇宙全体が……生命そのものとして機能しているという考えに繋がる可能性がある。」
イリーナはしばらく沈黙した。やがて目を輝かせながら呟いた。「もしそうなら、これまで私たちが考えてきた歴史も、未来も……すべてが再定義されるってことね。」
ボーは頷いた。「その通りだ。ガイアという概念は、単に生態学や環境の話ではない。宇宙の根本的な仕組みと、人類がそこにどう関わるべきかを示す鍵かもしれない。」
アーキヴォーの声が再び響いた。「ボー先生、イリーナ様。さらに解析を進めます。レオナルドの通信には、何らかの暗号化されたメッセージが含まれているようです。すぐに結果をお知らせします。」
「頼むよ、アーキヴォー」とボーは短く答えた。
イリーナは小声で囁いた。「ダニール様が何を伝えようとしているのか。知るのが怖いような気がするわ。でも、知りたい。」
ボーは彼女を見つめ、力強く言った。「恐れるな、イリーナ。未来を切り開くには、時に未知に向き合わなければならないんだ。さあ、次の一手を考えよう。」
次話につづく . . .
次回予告。
極素輻射体を操り、レオナルドを生み出したダニールの真意とは何か?ガイアが意味する未来像の全貌がついに明らかになる。ボーとイリーナは、新たな旅立ちの準備を進めながら、宇宙の運命に関わる重大な決断を迫られる。