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ヴェロッキオの工房にて
ヴェロッキオの工房にて
二万年後の銀河シリーズ
第三弾
ミーターの大冒険
余白
第39話
Date:ファンデーション歴 513年
Place:イタリア、フィレンツェ
ヴァレリーはハニスを太古の地球ではヴェローナの近くの、今では地球外からの観光客の多い街に案内した。その繁華街のある店の側にある標識に半透明の人差し指を当て、ハニスに囁いた。
「ここが、先生をお連れしたかった遺跡のあとです。地球暦1490年頃「イルカと天使」を描いた、アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房跡です。」
「ヴェロッキオだって?」ハニスは呆気にとられて声を発した。
「この人の作品で有名なのがこれです。この作品は、フィレンツェのメディチ家の別荘であるカレッジの噴水に使用されるために制作されました。『イルカと天使』という噴水のブロンド製なんです。」
「う〜ん、タイトルが『天使イルカ』か、とくにイルカとはどんな暗示なのかね?」ハニスはいぶかしがって訊いた。
「先生、わたしたちの当面の話題はダニール・オリヴォーの再三再四試みた文芸復興ですよね。」
「そうだとしたら、なぜ、ここに?」と尽かさず訊いた。
他の観光客がこの時のハニスを見ることができるとしたら、この老いぼれが口をパクパクさせて誰と話しているのかと首を傾げたであろう。
ヴァレリーは続けて説明した。「先生、地球の太古時代のルネサンスと言われる文芸復興期においてはイルカは浄化、再生、復活の象徴として一般的に使用されていました。海の神であるポセイドンと関連付けられ、水の象徴としても解釈されます。そしてこの作品では、イルカと天使が組み合わさることで、水と霊的な要素が統合されております。
そしてここヴェロッキオの工房でルネサンスの最大の芸術家であったレオナルド・ダ・ヴィンチが学んで、地球歴史上の偉大な作品を数多く遺したのです。」
「レオナルドだって、そしたら、俺の知ってるR・レオナルドの名称はここから来ていると言うのかね?」ハニスはその時、あの端整な顔立ちのR・レオナルドを思い出した。そして、惑星イオスの標語の「浄化・再生・復活」をも。
「先生、前回のわたしとの結論を思い返してくださいませんか?」ヴァレリーは言った。
「というと、この町フィレンツェが文芸復興のはじまりと言うのかね。リンゲインからサンタンニに至る。そして結実がターミナスを含む4つのグループの結束なんだな!」ハニスの声には一層ツヤツヤ感が漲っていた。
「そうです。付け加えさせて頂くと、あのボー・アルーリンが提示した『地球と銀河の6文芸復興の対応』の論理の最初の対応がここ地球のフィレンツェと銀河のほぼ中央に位置した惑星リンゲインなのです。」ヴァレリーは自慢げにそして軽やかに言った。
「どういう一致何だね、美しい地球ガイドレディー殿?」
「はい、お答えできて光栄です。惑星リンゲインの文芸復興に対応するのが地球時代の自治都市フィレンツェなのです。その原因は金融商業資本の充実と本格的繊維工場の出現に見られます。同じく惑星リンゲインも銀河時代において文芸復興の発端となり、銀河じゅうの文化的なリーダーシップを発揮しました。リンゲインの文芸復興は銀河暦8789年に起こり、残念ですが8年後に消え去ります。」
ヴァレリーは、その時あのR・ダニール・オリヴォーがロボットでありながら、なぜか悔しそうに顔を歪めている表情を想起できた。
次話につづく . . .