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ターミナス
第90話ターミナス
SF小説 ボー・アルーリン
第90話 ターミナス
銀河暦10266年。第7アルカディア号は、惑星サリプに近づく頃、その深遠な宇宙を静かに進んでいた。
「ターミナスって、結局ただの『ターミナル』の意味じゃないんですね。」イリーナが言った。彼女は星図を眺めながら続けた。「正確には、コネクションやトランジットの意味が強いんでしょう。」
ボー・アルーリンは少し考えてから頷いた。「その通りだ。僕も、まさにそれが言いたかったんだよ。」彼は一息つきながら話を続けた。「ベリスがまだ幼かった頃、何度もその『ターミナス』の夢を見たんだ。夢の中で彼女は、こう言ってたんだよ。『惑星サンタンニよりも住みやすい場所がある』って。」
イリーナは興味深げに眉を上げた。「彼女って、予知能力があるのかもしれませんね。」
「そうかもしれない。」ボーは静かに答える。「でも、ベリスは予知の能力だけじゃないんだ。彼女の姉、ウォンダは精神感応力が優れていて、妹の方が予知の力を持っているようだ。」ボーは少し考え込んでから言った。「レイチが言ってたよ。彼の先祖であるダール人のおじいさんは、感覚的な能力が非常に優れていたんだって。」
イリーナは少し首をかしげた。「でも、それじゃ遺伝的に、ベリスの予知能力はおじいさん、ハリには関係ないってことですか?それなら、筋が合わない気がします。」
ボーは小さく笑いながら反論した。「イリーナ、それは違うよ。遺伝というのは、必ずしも生物学的なものだけで決まるわけじゃない。家族の環境や、育った環境が大きな影響を与えるんだ。」
「つまり、学問的な雰囲気が遺伝するってことですか?」イリーナは皮肉っぽく笑った。
ボーは少し詰まった後、照れくさそうに言った。「うーん、まあ、そんな感じだ。」
イリーナは優しくフォローした。「それを言うなら、『文化的環境が遺伝的に影響する』って言ったほうが正しいんじゃない?」
「う、うん、そうだね。君にお株を取られたよ、イリーナ。」ボーは照れながら言った。話題が変わるのを待ってから、もう一度語り始めた。「ダニールの今回の旅は、最終的な解決を得るためのものなんだ。『ターミナス』がその答えを示す場所なんだよ。」
イリーナはボーの言葉に興味深く耳を傾けた。「もう少し、私なりに解釈させてくれませんか?」
「どうぞ、お願いだよ。」ボーはうなずきながら、彼女が言う通りと促した。
「ダニールの旅が最終的な解決を得ることは間違いない。」イリーナは少しの間をおいて、さらに深く掘り下げた。「ただし、ターミナスが銀河の最縁部に位置していることから、空間的、時間的に二つの重要なことが浮かび上がる。一つは、外部宇宙に向かう『折り返し地点』としての役割。もう一つは、内縁部にある中心惑星トランターに向かうこと、そして銀河の反対側にある地球、つまり人類の故郷に向かうことだ。」
ボーは頷きながら続けた。「確かに、イリーナ。だが、それだけじゃない。もう一つ重要なのは、人間の精神性だ。ダニールはきっと、自分の『文芸復興』を完成させ、ハリ・セルダンの『心理歴史学』を大成させるだろう。あるいは、さらなる地平を切り開くに違いない。」ボーは深い思索の中で続けた。「そして、彼は自分の過去の努力が決して無駄ではなかったと実感し、安堵の境地に達するだろう。それこそが、『ターミナス』の真の意味だと思う。」
イリーナは微笑みながら、静かに頷いた。「私も、同感です。」
そして、二人は静かに未来を見つめながら、船の窓から広がる星々を眺めていた。
次話へと続く . . .