見出し画像

ボー・アルーリンとハリ・セルダン



SF小説    ボー・アルーリン


第1話 ボー・アルーリンとハリ・セルダン

ハリ・セルダンが研究室に入ると、すでにウォンダとパルヴァーが来ており、部屋の隅の会議テーブルに並んで座っていた。二人の間に漂う静寂が、いつもと違う不穏な空気を感じさせた。

セルダンは足を止め、彼らの隣に座る見慣れない男に目を留めた。普段なら、ウォンダとパルヴァーは他人と一緒にいるとき、礼儀正しく会話を続けるものだ。しかし、今は三人とも沈黙を守っている。その異様な雰囲気に、セルダンは警戒心を強めた。

その知らない男を観察すると、彼は三十代半ばで、学問に没頭しすぎたせいか、どこか疲れた目をしていた。顔立ちは柔和だが、どこか毅然とした印象を与える。セルダンは一瞬、彼を無能者かもしれないと疑ったが、その考えはすぐに打ち消された。男の顔には、知性と人間性のバランスが取れた強さが漂っていた。「信頼できる人物だ」とセルダンは直感した。

「おじいさん」とウォンダが静かに立ち上がった。彼女の声にはかつての温かさが欠けていた。家族を失って以来、ウォンダは変わってしまった。かつては親しみを込めて“おじいちゃん”と呼んでいたが、今では冷ややかな“おじいさん”だ。以前は無邪気な笑顔が絶えなかった彼女も、今ではめったに笑わない。しかし、彼女の知性と美しさは、依然として輝きを失っていなかった。

セルダンは胸の痛みを覚えつつも、その場の緊張感を解くため、彼女に微笑みかけた。


続く…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?