【虎に翼 感想】第52話 多岐川幸四郎、登場!
昭和23年10月、寅子、家庭裁判所設立準備室へ異動
昭和22年5月3日に日本国憲法が施行された後に、最高裁判所が発足した。それから1年半。今は、桂場は人事課長、久藤は秘書課長となっている。初の最高裁長官、星朋彦として平田満さんもじわ~っと登場した。
寅子は桂場人事課長に呼び出される。”家庭裁判所設立準備室” への異動が決まったのだ。
昭和24年1月1日施行予定の少年法の条文に、すでに「家庭裁判所」の文言が明記されている。あと2か月で設立させなければいけない……なんとも急なことだ。
しかし、今まさに、寅子の家庭裁判所裁判官への布石が打たれたことになる。
さりげなく、左横書きで書かれた “人事課長室” のプレートが映る。戦前も左横書きの文字は、なかったわけではないようだが、最終的には、昭和27年4月の公用文作成の通達(7頁)で、右横書きから左横書きに統一することとなった。
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桂場の手元では、花岡の妻、奈津子が個展を開き、生前、交流のあった人が訪れ人気を呼んでいるとの新聞記事が写る。
奈津子は賢い人だと思う。
花岡が轟とよねに呼び出されたときに話していたことを思い出す。「奈津子は、どこに赴任してもついていくと言ってくれる。父の面倒も見てくれると」。それは決して、夫に従属する人生を送るということではなくて、彼女が、花岡にとってどうあるべきかを先回りして考えることのできる、自立した考えをもつ女性に思えたのだ。
だから、奈津子はきっと大丈夫なのだと思う。花岡が生きた証を示そうと行動している。そう思えた新聞記事だった。
多岐川幸四郎、登場!
司法省の全ての部署が法曹会館から引き上げたのに、設立準備室だけは、いまだにここにある……不穏だ。
屋上に上がらされると、そこにはチョビ髭の準備室長、多岐川幸四郎がいた。
まさかの屋上に建てられた仮設の準備室。
中に入ると、またまた小橋がいる……もっと喜ぼう。
さらに、懐かしすぎる顔、稲垣がいた。いつも花岡にくっついていた稲垣、花岡とともに現役で高等試験に合格した優秀な稲垣……彼とはピクニックのときにひと悶着あったはずだが、こちらは素直に喜びを分かち合ったな、寅子。
今日は新しい面々が続けて登場する。6分後には “GHQの回し者” と呼ばれる、準備室長補佐、汐見圭(平埜生成)だ。『カムカムエヴリバディ』のときと同様、人が良さそうな役回りとみた。
同期3人が揃い、花岡を偲んでいると、多岐川が「バカたれ判事」、「くだらん死に方」などと言い始めた。先週から1年経過している。寅子はもうスンとしていない。撤回しろと言葉を返す。
実際に餓死した裁判官も、死後は、“工夫が足りない” とか “馬鹿正直” など、決して同情の声だけではなかったようだ。そのことからすると、花岡の妻、奈津子の気丈さがより際立ってくる。
「この議論は平行線だ。きみも正しい、俺も正しい。ケンカほど時間の無駄はない。分かり合えないことは諦める」
多岐川の言葉の数々は、額面どおり受け止めてよいのだろうか。冒頭、久藤が「あの人ならやり遂げてくれる」と言っていた。多岐川なりの信念に基づく言葉かもしれない。今後の展開を待ちたい。
小橋の心意気が最近好きだ。多岐川が「バカたれ判事」と言い出したときも話を変えようとしたし、寅子の後ろで怒りの表情を隠さなかった。学生時代、法廷劇を妨害していた頃からは、かなりの年月が経っている。大人になったし、戦争も経験している。見ている我々がイメージをアップデートしなければならない。
稲垣も、元々穏やかなほうだったとは思うが、穏やかみが増している。
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夕食の支度をするはるさんと花江。花江が味見をしてもらうと、一発OKが出て安心した。
はるさんの望む味を花江が作れるようになっている。そして、配給かヤミかは別として、はるさん好みの甘い味付けができるくらいには、砂糖が手に入りやすくなっているのかもしれない。
優未ちゃんがあっという間に成長している。よその子はすぐ大きくなる。
直明は、大学の仲間と共に、”東京少年少女保護連盟” というグループを作り、戦争で親を亡くした子どもたちのためのボランティア活動に励んでいた。アドラー著『問題児の心理』を愛読書としてきた直明のことだ。あまりのめり込むのも心配だが、これが、家庭裁判所設立の過程、もしくはその後の寅子や直明の人生に大きく関わってくるのだろうか。今後も注視していきたい。
家事審判所と少年審判所の混乱
家事事件と少年事件を、同じ家庭裁判所で取り扱う。そのことに違和感を覚えたことは一度もなかった。
仕事で東京家庭裁判所には何度も行っていたが、家事部に行くことは多かったものの、少年部に行ったことは20年間で一度もなかった。個人事務所の弁護士だと、離婚や相続の案件はコンスタントに受けるのだが、時間ばかり取られる刑事事件関係は受けない人も多いのだ。そのくらい、関連性がないともいえる。
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統合予定の、家事審判所と少年審判所の面々が揉めている。どちらも切実だ。
戦地に行った家族の生死が不明のまま何年も宙ぶらりんの女性は多かったはず。その人たちの相続や離縁の問題を解決するために設立したのに、1年足らずで合併の話が出て混乱する家事審判所。
少年審判所側も、親を亡くした戦災孤児たちで溢れかえっている現状を嘆き、混乱している。
こんな状態の2つの組織を、あと2か月で合併させるというのだから、当事者全員が大混乱なのは当然だ。
しかし根底には、戦後の傷が癒えないままの人々を、大人も子どもも救うという目的があるはずだ。悠長にはしていられない。見切り発車もやむを得なかったのだ。
多岐川は、エンジンがかかるのが遅い人だと思いたい。動き出したら、そこからはきっと速いぞ。
「虎に翼」 6/11より
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