【虎に翼 感想】第87話 ヒエラルキーと平等
“高瀬式アンガーコントロール法”
ぜひとも習得したいものだ。
小野知子の朝鮮語に驚いた理由は、寅子と杉田兄弟では少し違ったようだ。
知子は以前、朝鮮人の男性と交際していたが、知子の両親の猛反対に遭ってしまった。両親は、どうにか別れさせたいと、杉田太郎の元へ相談に訪れていたのだ。
朝鮮人が被告人の刑事裁判を傍聴すると、まだ関係が切れていないと誤解されるから控えるべきだ。事情をよく知っている杉田次郎は、寅子に口添えを頼みに来たのだ。
本人のいないところで話を聞かされてしまう。寅子が嫌うことの一つである。次郎にやんわり注意はしたが、良かれと思って行動している人間に対しては、効果を期待できるものではない。
それよりもなによりも、森口の件が尾を引く高瀬が、自分事のように怒っている。
高瀬も知子も、三条の狭い人間関係の階層の中ではまだまだ若手で、年長の者からの善意の押し付けに苦しんでいる。
成人し、社会人として自立している二人でさえこうなのだから、高校生の美佐江は、さらに圧を感じているのではと思ってしまった。
稲は、水曜日は寅子が本庁勤務で帰りが遅いから佐田家でお世話をし、それ以外の日で週2日、『Light house』で働いている。
「と・も・こ」の名前が出るだけで、ハヤシライスを食べている航一の手が止まる。
稲の口から語られる佐田家の様子は、涼子と玉だけでなく、航一にも新鮮味あふれる話である。
寅子にとって山は鬼門だ。ハイキング事件も遥か彼方なことよ……。
人間関係において、“普通” とは何なのか。難しく考えがちな法曹者らしき面が出てしまったようにも見えたが、そうめんを前にした優未には、その答えを待つ時間はなかった。
優未、新潟へ来た当初はいじめられないか心配していたが、いじめる側になってもあかんぞ。
放火事件の次の公判が開かれた。
被告人、金顕洙の弟は、今日は日本語で抗議していた。杉田兄弟に注意されたのだろうか。
言葉が分からないというのは恐怖でもある。何を話しているのだろう、何か企んではいないかと、妄想が膨らんでしまうから。
まさに、入倉のような発言が積み重なった結果、新聞記事でさえも流言を載せ、朝鮮人虐殺事件が起きてしまった。
関東大震災は大正12年に起こっている。
寅子が生まれたのが大正3年。記憶はうっすらとしかない。
昭和生まれの入倉の記憶には、当然ない。
(おそらく航一は)明治生まれと大正生まれと昭和生まれのジェネレーションギャップ。こうやって時代は移ろいでいく。
放火ならば金顕洙で間違いないのか、別の人間なのか事実を見極め、金の犯行である確証がなければ無罪。
航一は、基本的なことを今一度述べ、確証もなく「弟が怪しい」と言い出した入倉をけん制した。
放火の話を持ってくるところが、相変わらず脚本の妙となっている。
入倉は単にふて腐れて出て行ったわけではない。
昭和生まれの入倉。戦時中に青年期を過ごし、思うことがあって戦後の司法試験を受験したはずだ。
航一に諭され、自分の至らなさを恥じている様子にも見えた。あの苛立ちは、自分への怒りだと思いたい。昼休憩の間に一人になって気持ちを切り替えようとする、彼のアンガーコントロールもなかなかのものだった。
入倉にランチを断られたので、寅子と航一は二人で『Light house』を訪れる。
新潟の人たちからすれば、海の向こうの朝鮮人だけでなく、東京の人間も “よそ者” 扱いだ。
涼子が新潟で人間関係作りに腐心していたことが、かえって “贔屓” だとか “色目” だと噂され、それが気に入らない人々が墨汁をまくなどの嫌がらせをする。
玉も、新潟のすべての健常者の迷惑にならないよう気を使いながら生活していたのだ。
慣れてしまうのはたしかに良くない。だがこの土地で根付こうとしている二人には、それが心の平穏を保とうとする無意識の防御となってしまっている。
「やっぱり、お気になさらずにできません」
だろうね!(涼子、玉、航一、視聴者の心の声)
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日本国憲法そのものである優三さんの言葉を芯に歩んできた寅子だったが、それはときに、裁判官としての自分に対する重しとなってしまっている。
「すべてを平等に見ることはできない」
との航一の言葉は、寅子が美佐江に、
「家族に当てはめて考えると理解が深まる」
と話していたこととも通ずるかもしれない。
人間みな、自分のバックボーンや今置かれている環境を元に、物事を判断するところがあり、それは “平等” とは距離をおくことになる。
寅子は、自分は放火事件の裁判にはふさわしくないと言った。だが、3人の合議体はとても良いと思っている。価値観や考えの異なる寅子と入倉、すり合わせる役目の航一。
その天秤が水平に近づいたときこそが、平等にも近づくのではないだろうか。
「虎に翼」 7/30 より
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