選挙の苦い思い出~2部屋隣のあの子
「私たち、〇党のウグイス嬢をやるんです!投票日は一緒に投票所に行きませんか!」
こんなふうに誘われたらどうしますか?
いまだに、選挙を前にすると必ず思い出してしまうのです。20年以上前のことなのに……
当時、私はアパートで一人暮らしをしていた。
3階建てのアパートには各階4部屋ずつあって、私は302号室だった。
両隣りは男性が住んでいたが、もうひとつ先の304号室には私と同年代の女子が住んでいて、朝の出勤時間も同じくらいだったから顔を合わせることも多く、その都度、挨拶をする間柄ではあった。
感じのいい子だった。服装は地味な感じで、年齢の割には落ち着いた印象。挨拶をするだけでなく、一言二言、言葉をかけてくれることもあり、友達になりたいくらいの子だったのだ。
彼女への印象が変わったきっかけは、とある国政選挙だった。
告示後の土日だったと思う。自宅で一人過ごしていた昼下がり、インターフォンが鳴る。
出てみると、304号室の彼女だった。隣にはもう一人同年代の女子がいて、二人連れで私の元を訪れている。隣の連れは気になるものの、私は彼女が訪れてきてくれたことに嬉しい気持ちを隠せないでいた。
しかし、彼女たちの発する言葉に、私のテンションは少しずつ下がっていくこととなる……
正直、かなり押しが強かった。
私はもちろん投票に行くつもりではいたし、時間もおおむね決めてはいたのだが、そのときは、行けるかどうか分からないとか、何時に行けるか分からないとか、あいまいな返事をした記憶がある。
・・・・・・・・・・・・
投票日当日、私は朝から外出をした。家にいたら彼女たちが来るんじゃないかと気が気じゃなかったから。
その日、彼女たちが我が家のインターフォンを鳴らしたのかは分からない。いずれにせよ、私は外出の後に投票を済ませて帰宅した。
問題はその後だった。
その週の平日の朝、何日かぶりに彼女と顔を合わせた。いつもどおり挨拶を交わす。
私「おはようございます★」
彼女「おはようございます……」
えー!え~!なんでそんなにそっけないのー!!
いつもは何か話しかけてくれるのに~。今までと違って笑顔じゃないしー。
いや、理由は十二分に分かっているよ!
一緒に投票に行かなかったからでしょ!
というか、その後に一緒に行って欲しい場所があったんでしょ!!
あぁ……今までの笑顔の挨拶は、ひとえに私を〇党に(会に)入れたいがためのものだったのだ……ハイ、分かりました……。
その日から転居するまでの1~2年、彼女とはドライなお隣さんとして過ごしましたとさ。
どの政党を支持するか、もっと言えば、“何” を信じるのか。それは本人の自由だし、私が口を出すことではない。
だけど、自分が信じるものを相手が受け入れなかったら態度を翻すのはいかがなものだろうか。だとしたら、あなたの信じるものは、個人を尊重しない人たちの集まりだということだ。
私自身は支持政党はないし、誰に投票していいのかいつも悩んではいる。だから、熱烈に支持する政党がある人がうらやましい気持ちも持っている。
そうはいっても私は違うのが現実。
絶対に投票したい人がいなくても、消去法であったとしても、考えをめぐらせて絞りに絞って結論を出す。
有権者であると同時に社会人である以上、絞り出さなければならない場面がこの先もたくさん出てくるのだから。
そんなふうに私はいつも投票している。
また選挙がやってきた。
2部屋隣のあの子のことを思い出す日々をまた過ごしている。
自分は何も変わらないのに、相手が変わってしまった苦い思い出。
彼女は元気にしているだろうか。同じアパートに暮らしたのも何かの縁だ。元気に充実した日々を送っているなら、私はうれしく思う。
おわり
(けっして今、その政党を毛嫌いしているわけではないことは、一応補足しておきます)