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【虎に翼 感想】第114話 依頼者のために弁護士は最善を尽くす
姉妹ゲンカ、解決
優未は賢い子だ。猪爪家に帰ってしまったら大騒ぎになることは分かっていた。どこまで話しているのかは分からないが、星家の事情もつまびらかになってしまう。
寅子も親なのだから、慌てふためいて心当たりに連絡しまくってもおかしくない。自分を落ち着かせて策を考えようとするところは、さすが法曹者と言ってよいか。
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優未は山田轟法律事務所に駆け込んでいた。コートも着ずに、随分と歩いたのだろうか。体が冷え切っている。ここは轟お手製のコーヒーで温めるに限るの。
優未がのどかをローキックしたと聞いて、その場にいた時雄が諭してくれる。
「口や手を出すことは、変わってしまうこと。その人との関係や状況や自分自身も。その変わったことの責任は優未が負う。責任を負わない人にはならないでほしい」
偏見の目を向けられることの多いであろう時雄は、ここをボーダーラインとして生きているのではと思った。
この会話に終始口をつぐむ二人の人物……稲垣と小橋を殴り倒したことのある轟、そして……小橋を蹴り上げたよねである。小橋って一体全体……。
吉田ミキの逡巡
昭和37年1月の山田轟法律事務所。
翌日の当事者尋問のために、原告の吉田ミキが上京してきた。
岩居の「必ずお守りしますから」の言葉は、見方を変えれば逃げ道を奪ってしまっている。だから「平気です」と答えるミキの声は少し震えていた。その様子をよねは見逃さなかった。
生物学上、男性の轟は、ミキの不安を少しでも取り除くため、今夜は時雄の家に泊まることとなった。事務所には、よねとミキの二人きりとなる。
静かな時間が流れる……ミキは、よねのことを「綺麗ね」と言う。それは、外見のことなのか、肌の綺麗さのことなのか……ミキからすれば、両方失ったことには変わりない。
「差別されない。どういう意味なのかしらね」
ミキはきっと、社会的立場の弱い女性とはいえ、その女性ヒエラルキーの中では上位にいた立場だ。美人コンテストにも出るような外見を持ち、数多くの男性が自分を振り返って見てくる。ミキと結婚した夫からすれば、“高嶺の花” を手に入れたくらいだったのかもしれない。
原爆で全てを失った。皮膚はただれ、外見を損ない、3度目の流産をしたときには夫も去ってしまった。今となっては、自分を振り返って見る者たちは、好奇の目を持つ者しかいない。
外見が変わったら、周りも変わってしまった。中身の自分は何も変わっていないのに……。
弁護士は、無理をしている依頼者に便乗してはいけない。
それだけではない。無理をするどころか、むしろ依頼者のほうが前のめりになっていることだってある。それを見極め、時にはストッパーになる必要があるのだ。
よねが止めてくれてよかった。被爆者の思いを伝えたいミキは、そのための方法は法廷に立つことしかないと考えていた。
広島から東京へ出てくる汽車の中で、自分を好奇の目で見てくる乗客に囲まれながら、長い時間、逡巡していたに違いない。そんな中、やっとの思いで上野駅に降り立ったのだ。
「声を上げる女性に、周囲は容赦なく石を投げてくる」
そこまでのことは、ミキも想像できていなかったのではないか。
よねが寸でのところで止めてくれてよかった。やめてもいい、別の方法を考えるからと。ミキはきっとこの言葉を待っていたのだ。
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おそらくよねは、ほとんど寝なかっただろう。あの夜の遅い時間から、ミキの思いを聞き取り、手紙を作成する作業をしたのだから。昔も今も、弁護士は依頼者のために睡眠時間を削って仕事をしている。
残念なことだが、手紙を代読したのが男性の轟だったことが腑に落ちることだと思った。法廷にいる人のほとんどが男性(記者)だったからだ。
よねの代読では、この手紙は女性視点の主観的なものとなり、弱い女性の悲しい物語として好奇なものとして消費されてしまう。轟が代読することで客観性が増し、男性が味方についていることが視覚的にもはっきりして、傍聴席の男性(記者)たちの “聞く姿勢” も変わるように思えた。
要は、“どう見えるか”ということだ。そのわずかな可能性すら綿密に計算したのではないかと。
ミキの思いを聞いて手紙を作成したのはよねだ。だからよねが代読してもいいはずだ。
だがよねは冷静に考え、轟に任せる決断をしたのではないだろうか。
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よねと轟の事務所がこうなるとは予想もつかなかったことだ。
勤めていた “カフェー燈台”を、マスターが亡くなったことで戦後、占有し始め、轟法律事務所を開設した。よねは法曹資格がないにもかかわらず、戦前から “よろず法律相談” を開くなど、当初からグレーな面は否めなかった。
一念発起して法曹資格を得て、憲法第14条を信条とする山田轟法律事務所としてあらたに進み始めることになり、原爆裁判で、国と対峙するまでになったのだ。
そんな中でも変わらないことはある。よねも轟も常に依頼者のことを考えている。彼ら彼女らが次の人生に進めるよう、寝る間も惜しんで最善の策を考え、行動しているのだ。
そんな強い決意をもって臨んだ原爆裁判なのだ。
裁判官、記者、世間……そして、国をも動かす力があると信じている。
「虎に翼」 9/5 より
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