主人公は住所不定無職・其之弐
かの有名な國民的RPGで「勇者」と呼ばれている人達は目的である「竜王」なり「邪神」なり「大魔王」等を倒した後、一軆どうやって生活しているのだろう……と云うのが子供の頃からの疑問でした。
その後について言及されていればまだ良いのですが、世界的脅威を排除する目的の下「テレビの前の君」と一緒に苦樂を共にしてきた主人公達もエンディングを迎えたら「ハイそれまでヨ」となってしまう辺り、植木等先生よろしく、なんとなく寂しい氣分になるものでした。
一應、第1作目の勇者は姫と一緒にその後もやる事は多いかと存じます(少なくとも100年以内に本家の他、分家を2つ作らなければなりません)
第2作目の主人公達も王族なのでこれから先も國を治める立場ですから、やはり色々あるでしょう。特に王女は國を再興しなければなりませんので大変です。
第3作は…………とりあえず子孫を残した後に實家に戻れたとしても當分は親御さんと一緒に暮らすか仲間と一緒に近所に在る「出会いと別れの酒場」に入り浸る(確か設定上16歳だった筈ですが……)のでは…と思います。
尤も王様等から破格の褒美を與えられている事は想像に難くないので悠々自適な生活をしているのではなかろうかと存じますが、何か「生業」を持たなければ長い人生何かと不利益かと存じます。
その他、数多の作品が「勇者」と云う抽象的かつ便利な言葉で表現しているあの「主人公」達ですが、私の如くヒネクレたプレイヤーはつい現實的で余計な感情移入をしてしまうのです。
斯くしてそんな極めていい加減な立場であるゲームの主人公に厳しい作風になってしまったツクール作品ですが、前回の續きを致します。
前回、遥々やって來た江戸の町で「住所不定無職」の無宿人として役人に捕らえられてしまった主人公は江戸湾内石川島に在る「人足寄場」に収容される事となります。
一應、主人公は農村出身なので農作業に従事する事になりました。
史實の人足寄場は職業毎に作業所が設けられており、収容者の技術に應じて職業訓練を施していった様です。
特に技能の無い者は輕作業や土木工事に従事させていた様ですが、懲罰ではないので働いた分はきちんと給金も出していたとの事です。
しかも、その内一定額を積み立てて出所の際の支度金に充てたり、更に仕事の道具や住まいも用意する等の体制も整っていました。
福利厚生の面でも節句の為の菓子や酒を支給されたり喫煙が認められていたり冬場は炬燵が用意されていたりと、なかなか恵まれていた環境だった様です。
また仕事以外にも學者や神職、僧侶等からの講義・講話もあり、精神道徳面に於いて社會復帰に重要な役割を担ったばかりか中にはその内容に涙を流す収容者も居たとの事です。
東の果ての小さな島国であった日本ですが當時の世界的にも非常に先進的な「自立支援施設」を運用していたのです。
そんな人足寄場ですが一度入ると仕事を身に附けるか身元引受人が來る迄、出られません。それはゲーム内でも同じです。
この船着き場から江戸市内への舟が出るのですが當然今の主人公は乗れません。
仕方が無いので、とりあえず寄場の中をうろついて何か聞き出してみます。
町に「住所不定無職」の者が溢れると治安が惡化します。
その解決策として「職業支援をする」と云う方向へ舵を切ったのは當時では画期的であったかと存じます。
今の世にも或いはこうした寄場の様な機關が必要なのではと思います。
そんな中でも何やら興味深い内容も…。
事實、町方役人でも輕犯罪者を情報収集の目的で手下に持つ同心等は居た様です。
収容者からも話を聞いてみると、どうやら無宿人は誰かから唆されて江戸にやって來た様子が伺えます。
寄場内の人の話の筋を整理すると、江戸には「堺屋」と云う大店が存在していて、その店の仕事を斡旋している口入屋が品川に存在する様です。
そして、そこには澤山の無宿人が堺屋での仕事を求めて出入りしているとの事です。
無宿人を取り締まる立場の役人も恐らくはこの「堺屋」と例の口入屋の事を知っている筈です。
現時点では主人公に關係無い話題ですが一應、江戸の町の様子として覺えておきましょう。
一通り寄場内を廻ってから自分の作業場となっている畑へやって來ます。
そこでも何やら氣になる話が…。
主人公も浪人なので浪人同士何か良い事があるかもしれません。會ってみましょう。
「劔を取っては日本一に、夢は大きな中年剣士」と赤胴鈴之助も眞っ青なオジサンが居ます(イマドキの子には解らないかな…)
元々北國の生まれですが、當節流行らない剣客氣質で閣僚化の著しい武家社會を見限り己の劔の腕を磨くべく出奔して江戸に來た様です。
當人の話を聞いていると、やはり主人公と同じく江戸の町を定職にも就かずにブラブラしていたらここに入れられた様です。
飄々とし乍らも前向きな性格の好人物な様です。
今のところ仲間もおらず一人っきりの主人公ですので何かと頼りになりそうです。
そんな會話の最中に…
どうやら主人公に面會人が來た様です。
突然の呼び出しですが、果たして何者なのでしょうか…?
今回はここ迄と致します。
續く…
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