呑んで喰って眺めて考えて…山形へ行く
一月前の丁度今頃、私は來るべき例の「大型聯休」を外して一足先にお休みを頂戴して旅に出ておりました。
行先は山形縣は天童温泉。行程は2泊3日。
過去に何度かお伺いしている地でありましたが、今回はのんびりとくつろぎ乍ら氣兼ね無く獨自の旅を満喫する事に致しました。
私が概ねどの辺に住んでいるかこの画像から讀み解ける方は解ってしまいますが、折しも驛の名物であるツツジは見頃を迎えていたのでありました。
こうして通勤電車に揺られる事十数分、まずは北への玄關口、上野驛を目指します。
平日に 遊びに出向く 優越感
並ぶ背広に 皐月や來るらん
…とか1句詠む内に、山形新幹線に乗り込む事と致します。
この路線も來年には新型の車輛が登場する豫定であり、そうなるとそう遠くない内にこの車輛も御役御免になる事でしょう。
今回の旅の目的の一つはこの車輛に來たるべき最期の時を見据えて今の内に別れを告げる為でもあったのです。
別に急ぐ旅でもなければ險しい道のりでもないのです。
珍しく普通車の座席に附いているありがたいフットレストに足を乗せておきます。
さて食糧と燃料を用意して、いざ出發進行であります。
旅の始まりはいつも「一番搾り」であります。日の高い内から失礼致します。
先鋒・チキン弁当の次は次鋒・押し鮨です。
辯當の蓋を台にしてそこへ鮨を箸で取り、そこから手で口に放るのがコダワリです。鮨は手で食べる物だと思い込んでおります。
この新幹線は窓が大きいので、それだけ車窓を樂しむ事が出來ます。
五月晴れに新緑。田畑も美しく風景に華を添えます。
たとえ早々と景色が過ぎてしまう無機質の極致・新幹線であっても、ほんの僅かに残った樂しめるところは樂しみたいものです。
いつの間にか肴が中堅・ポテトチップスになっております。
この時期は田んぼに水が入り始める時でございまして、田地や用水池には空が現れるのです。
嗚呼、この防音壁が無ければ…と思うのでありますが、これは仕方の無い事です。新幹線とはそう云う乗り物なのです。諦めましょう。
旅券は友達。大事な旅の供です。
私は酒を呑みつゝこれを眺めて目的地に思いを馳せて汽車に乗るのが好きなのです。
列車は福島驛に到着致しました。
この驛で併結している「やまびこ」と分離します。
解結作業の為、停車時間が有りますのでこうして窓臺に置いた罐で遊んでおります。揺れるとなかなか巧く出來ないのです。
ここからは在來線區間に入り、漸く鐵道の醍醐味を味わえます。
速度は落ち、防音壁も無くなり、車窓はより一層のどかであります。
振動の無い「物理的に快適な」ロングレールを外れ、小氣味の良いジョイント音が鳴る「心理的に快適な」在來線を快走します。
この區間の車窓は大変素晴らしいものです。
窓が大きいからこそ、それを存分に眺める事が出來ます。
残念な事に、新しく導入される豫定の車輛は時速300キロの運轉に對應しているとの賣り文句ですが、側窓が小型化してしまう様です。
窓の外が見えなくなる訳ではありますまいが、新幹線でこの雄大な景色をこれ程に廣く感じて眺める事が出來なくなる日がやってくるのかもしれません。
速さの為なら色々なものを切り捨てていく新幹線。
たとえ「物理的に快適」になろうとも、この期に及んで残り少ない旅情を犠牲にした上に果たしてどこへ向かおうとしているのでしょうか…。
…などと考える内に遂に大将・助六寿司が出てきました。
酒も車販で追加購入しておいた「高清水」を戴きます。
今は今の内に樂しめるものを全力で樂しむのが賢明です。
酒を呑んで、私はその内、考えるのをやめた。
…とか申している内に列車は目的地の天童驛に到着致しました。
やはり將棋の駒が有名な土地です。
驛前に出て參りました。
さて、これからどうしてくれよう?
次回に續きます…。