夏は奥歯がうずき出す
「感じてねぇだろうけどよ。罪悪感なんて感じるな。感謝してやるよ。」
あれから5年。僕も少しは大人になった。恨んだあいつに、今は感謝できるようになった。ただ、あの夜の帰り道に頬を押さえながら食べたラーメンの味を教えてほしい。味なんてしなかったんだから。
ココロ踊る
先日「夏の匂い」について先輩芸人と話をした。今年はどんよりするほど雨の日が続くが、それでもその日は連日続いた降水日の記録が途絶え、ほんの少しお天道様が顔を覗かせ"夏の匂い"がジリっとした。人間の五感の中で嗅覚が1番優れていると言われる。僕は夏の匂いを感じ、5年前のあの夏の記憶が蘇り舞台の出番前の先輩に話し始めた。
【2015年 8月某日 夕刻 晴れ】
浜松町駅、18時くらいだっただろうか。よく晴れたその日はうだるような暑さで、ただ立っているだけで汗が吹き出るほど。まだ日が出ている外はとてもじゃ無いけどじっとしているのは苦痛で、改札を抜けてすぐの券売機の横のひんやりとした壁に背中をつけて芸人仲間を待っていた。辺りを見渡すと浴衣を着た若い男女が多くいる。恐らく行き先は僕らと同じだ。間も無くすると、仲のいい先輩芸人2人と同期の芸人1人が改札の奥から僕を見つけこちらに向かってくる。僕は3人に「おざすぅ、おざすおざす」と、超高速のおはようございますを3回言った。若手芸人はなぜか皆こう挨拶する。僕だけじゃない、あるあるだ。「いやぁ楽みだねえ〜、夏感じちゃう?」という先輩に「ダセェなぁ!」と突っ込む僕と同期芸人。僕らは港へと歩き出した。
東京湾納涼船。
浜松町駅から歩いてすぐの竹芝客船ターミネルから大型客船が出航し、お台場のレインボーブリッジの下をくぐり2時間かけて東京湾を遊覧するという田舎者の僕からしたら華やかすぎるイベントが毎年夏期に行われている。しかも乗船料込み、フリードリンク付きで2600円というリーズナブルな価格な上、ステージが設けられオーディションで選ばれた浴衣美女ダンサーズのパフォーマンスなど盛り沢山のイベントなため、サラリーマンやOLはもちろん大学生や家族など多種多様の多くの人で船内は溢れかえる。さらに、浴衣で来ると1000円引きという、考えた人を胴上げしたいほどの内容となっている。駅にいた多くの浴衣を着た人達の行き場はここだったわけだ。そんなドリームクルーズに僕らは乗り込んだ。貧乏若手芸人の僕らからしたら、この夏1番のビッグイベントにココロを踊らせた。
ノリ遅れ
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