見出し画像

グレショー第16回公演「鬱憤」感想

グレショーこと「THE GREATEST SHOW-NEN」(朝日放送テレビ、毎週土曜日深夜放送)の第16回公演、音楽劇「鬱憤」を最後まで見た。作・演出の藤井颯太郎さん(27歳)はAぇ! groupのメンバーとほぼ同世代で、これまでのグレショー公演の中でも特に「いま現在」の空気を反映した作品だったと感じた。
(※以下、「鬱憤」のネタバレと、劇中の台詞の引用等を含みます。)


「鬱憤」は、ヒノワというウイルスによる感染症に翻弄される若者たちを描いている。書店員の佑理は、同棲していた恋人の優弥を2年前に感染症で亡くしている。佑理が同僚の工藤や清水らと働く書店は経営に苦しんでおり、幸運にも開催できることになった人気作家のサイン会では多数の感染者を出してしまう。清水の大学の友人の峠は、怪しげなヒノワ関連グッズを売って大儲けするが、カモにしていた顧客の1人が幼なじみの村上だったと気づく。村上は父親の事業が行き詰まったため、大学を退学しようとしている。

表に出てくる形は違うが、みんないろんな形で感染症に影響を受けている。そして、サイン会の直前に高熱を出し、発症が疑われた清水の台詞「症状より責任のほうが重いんですよ、今は!」が示すように、正解のない2つの道から選択を迫られたり、各人の価値観がぶつかり合ったりする。

そんな中で、個人的に心に響いたのが、佑理の「でも、清水くんも工藤さんも花岸先生も、元気でいてほしいよ」という言葉だった。これは最後に明らかになる、2年前に優弥が入院先で残した留守電の「ご飯食べて、元気でいてほしい」というメッセージとリンクする。恋人たちが同じ表現をしているのは偶然なのか、それとも優弥の口癖のようなものだったのか、どちらにしてもグッときた。大切な人に、ずっと元気でいてほしいというシンプルな願いが、前よりも難しくなってしまったからかもしれない。

ところで、ヒノワとは何なのか。記憶の限りでは、劇中でヒノワの詳しい説明はなかったと思う。登場人物の言動からわかるのは、感染力が強く、対策としてソーシャルディスタンスやマスクが推奨され、発症したら高熱が出て、命に関わるケースもある感染症ということくらい。もちろん、いま見ているこちら側は、嫌でもコロナと重ねるし、それぞれの経験を思い出すだろう。でも、それはこちらが勝手に感じているだけで、劇中の感染症はコロナではない。この案配がものすごく巧いし、ちょっとずるいとさえ思う。さらに言えば、ヒノワは日輪にもつながり、この国を表しているとも解釈できる。もっと社会批判寄りの内容にもできそうだけど、描かれているのはあくまでも日常生活の実感を伴った鬱憤で、だからこそ多くの人にとって受け入れやすいものになったのだと思う。

「鬱憤」のオリジナルは、幻灯劇場さんでKyoto 演劇 フェスティバル U30支援プログラム作品として上演されたものだという。グレショーver.でも、25歳の佑理をはじめ、登場人物はみんな若者だった。Twitterに上がる感想では世界観に共感する人や、こんな人たち身近にいる!と言っている人たちのツイートをいくつも見かけたが、個人的には世代が違うせいか、正直言って共感が難しいところがあった。でも、いまの世の中を生きる、若い世代の感情に着目した作品だから、それでいいのだろう。

雑誌「STAGE SQUARE」vol.61に掲載の、藤井さんからAぇ! groupメンバーへの温かいコメントでは、優弥のあの言葉が祈りのように繰り返されている。

「鬱憤」最終回配信は3月11日深夜まで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?