先行公開「20年代の当事者たちへ」(2022/11/28まで)
※こちらの対談は、現在クラウドファンディングを実施中の「かける人 対談集」から冒頭4分の1を抜粋したものです。
はじめに
まず、対談集に入る前に「かける人 創刊準備号」の初版で、時田さんの記事「当事者の作り方」の中で、重大なぬけがありましたことをお詫びいたします。
次の内容が抜けておりました。今回の対談にも非常に関わる部分ですので、必ずお読みくださいませ。
正直、私のような推し事の仕方はオススメしない。しんどい。今思うと、いや今思わなくてもめちゃくちゃにしんどい。単位落とすぞ。仕事に穴空けるぞ。夢に出るぞ。それでも、同じような茨の道を歩むというのであれば、止めはしない。
事実、報われたと思うような光景を何度も見てきた。
「あなたのおかげで、SKE48ファンになりました」
「あなたの推し事を見て、総選挙乗り切ることができました」
「あなたの推し事を知って、SKE48をもっと好きになりました」
そういう言葉を何度も、何度も頂戴した。心底、やってきて良かったと思った。もし、仮に同じような推し事をしたいと思う人がいれば、一つだけ僭越ながらお伝えしたいことがある。
『ここまで書いた私の真似事は、今後、絶対にしない方が良い』
これは、この言葉の通りである。最近強く思うことだが、これまでのやり方、これまでの私の方法は前時代的な最適解だ。ここ10年のファンの在り方としては、胸を張って最高だったと言える。ただ、それが今のような、もっとアイドルをラフに楽しむ時代には多分適合していない。時代も変われば、『当事者』になる必要があるかどうかも変わる。
残念ながら、私自身もイマにおいて何が正解か分からない。ただ、そんな中で今回このような機会を頂いて、何か少しでもヒントになるかと思い、筆をしたためている次第だ。読者の皆様からしたら、最後の最後で狐につままれたような思いだろう。大変申し訳ない。
だが、そんな皆様に朗報だ。多分、今読まれているであろうこの雑誌が一つの試金石になると私は踏んでいる。今までに無かった、仕事を作っていく推し事だ。これが正解なのか分からないし、もしかしたら夢想で終わるかもしれない。それでも、やってみる価値はあると思った。当事者になるかどうかが変わっているのではなく、当事者への成り方が変わっているのかも知れない、という新たな切り口も至極納得がいった。何より、少しだけワクワクした。それこそ、初めて推し事を開始した時のように。
以上が抜け落ちていた文章です。
「当事者の作り方」のかなり重要な部分が抜け落ちていたことが分かるでしょう。時田さんには、一生頭が上がらないと思います。それでは、本編をどうぞ。
「かける人 創刊準備号」の感想
中村 今日は「二十年代の当事者たちへ」というテーマでやっていきたいと思います。まずは、時田さんからチェックイン的に自己紹介をお願いできればと思います。
時田 時田と申します。あんまり時田という名前で自己紹介することがないんで、あれなんですけど(笑)。栄、並びにそれ以外のアイドルを応援していて、その時の活動のネームとして、「時田」という名前を使用しております。で、栄自体は、もう何年だ? 十一年、十二年ぐらいになるかな、と思います。
ちょっと、空白の時間といいますか、記憶がない時期があるんですけど、今も栄を応援している身でございます。
中村 ありがとうございます。時田さんといえば、動画のイメージが強い方も多いと思うんですが、実は、僕は時田さんの文章のファンでもありまして。
時田 ありがとうございます。
中村 文章の依頼が出来て、一番に読めたというのが、ファンとしては嬉しいかぎりです(笑)。
時田 ありがとうございます。そう言っていただけると、嬉しいかぎりです。
中村 文章も、もっと評価してもいいのに、と動画との評価を比べるといつも思います。
時田 そんなそんな。
中村 さて、それではまず、「かける人 創刊準備号」の感想から伺ってもよろしいでしょうか?
時田 感想って言うのもそうですし、元々このお話をいただいた時にですね、一番最初に思ったのが「まあ、すげえことをやるな」というのが正直なところです。「すごい」っていうのは色々な意味があって。考えつかないことはないけれど、それをやるかやるないかっていうのは、なかなかこう、博打的な部分もあるなと最初に聞いた時感じました。
うーん、まあ、本当に形に出来るのかなっていう部分もあってですね。色々と心配ないしは、不安な部分っていうのはあったんですけど。最終的にこうやって仕上がって、ちゃんとしたものとして上がってくるっていうのは、凄いなあと思います。
後は中身の内容でいうと、ちょっとごめんなさい、全員分まだ私も拝見できていないんですけど。同じ熱量を込めるという意味でいうと、やはり共通する部分があったりとか、あとは逆に応援する媒体の違いによって、全く違う部分もあるな、というのは読んでいて非常に面白いなあと。
中村 ありがとうございます。ちなみに、印象に残っている記事はありますか?
時田 そうですねえ、やはり、私自身が同じものを応援しているという意味で、週刊中坂さんの記事なんかは、まあ、なるほどなと。特に中坂さんを応援している身としては、ずっと存じ上げていた存在だったので、その裏面を知れたっていうのは、色々と面白かったです。
中村 時田さん、週刊中坂さん、共通して言えるが、潜り方というか(笑)。
時田 はいはいはい(笑)。
中村 そこまで潜るのかっていうぐらい、潜られてまして。ある方の感想なんですが、「時田さんの変態的なところを知れて良かった」というのがありまして。
時田 (笑)。
中村 あのモバメ( ※1 )の量の話を読んだ時に、そこまでやらないと、本質には近づいて行けないんだな、というのを感じました。私はどっちかというと、アメーバブログ( ※2 )であるとかSHOWROOM配信でのコメントとか表層的な研究が多いので。そこは「いやあ、敵わないわ」と思いました。
時田 いやいや(笑)。
( ※1 ) モバメ
栄を始めとしたアイドルグループで行われている有料のメールサービス。正式名称は「モバイルメール」。毎日三通届くメンバーもいれば、月に一回のメンバーもいます。内容も心の動きから朝の挨拶までメンバーによってさまざまです。放置するとメールボックスが大変なことになりますよ!
( ※2 ) アメーバブログ
かつては栄の選抜メンバーのみに書くことを許されていたメディアです。今は、誰でも書けるようになりましたが、無料で読めるわりには、書くメンバーが減っています。ちなみに、某よこにゃんのアメブロを一年間読み続けたおかげで、先日、Gダムのプラモを静岡で作りまくっている財団B主催のプラモのコンクールに未経験の僕でもアイディア勝負で入選しました。キミも読め!
大きな物語の喪失
中村 次に僕らが推しているグループに関する質問です。「大きな物語の喪失」とどう向き合うかということについて聞けたらなと思います。以前、時田さんの動画の中で「終点の欠落」っていう…。
時田 懐かしいですね(笑)。
中村 そういうワードを使ってらっしゃってて。あのワードを見た時に、「うわっ、やられた!」と思ったんですよ。自分の中で凄いモヤモヤしていることを言語化された、と思って。それって、ひょっとしたら、今も続いてるのかなっていうのが、私の感想なんですが。
時田 そうですね。あの動画自体を作ったのはかなり前の話ですけど、「終点の欠落」って言葉自体が風化したり、もう終着点が見つかったかというと、まだやっぱり、そうではないと言えるのかなと。
中村 それに関して、連動してくるかも知れないんですが、原稿の中で「ラフに楽しむ時代」という言葉が出てきたと思うんですが、この表現について聞いても良いでしょうか? さっきの質問の解像度がより上がるかな、と思いまして。
時田 「ラフに」という書き方をしたのも実体験の部分が非常に大きいところがあるんですけど。うーん、なんかこう、総選挙があった時っていうのは、「終着点」とは言わないにせよ、「到達点」というものがところどころにあって。それに向けて熱量を上げて行く、「推し事」をより進化させるっていうようなイメージが強かったと思います。
もう多分、今はそういう時代じゃないのかなと。それもまあ、色々と外的な要因があります。それこそコロナなんかが一番分かりやすい例ですけど、何もしなくてもどんどん疲弊していく中で、そういう応援の仕方が適切なのかなとは思います。
特に私は先ほどもお話した通り、一時逃げた時期があります(笑)。居なくり、逃亡し、(ファンとしては)一回死んでいるので( ※3 )。だからこそ、死んだ時の経験も含めて、同じやり方っていうのはもうそぐわないのかなと強く思う次第です。
( ※3 ) 一回死んでいる
時田は、2016年3月頃に一旦栄のアイドルから離れており、本人はそのことを一度目の死がきたと揶揄しています。本人としてはピッタリの表現だと思っていますが、周りの反応はイマイチとのこと。なお、2019年4月にひょんなことから息を吹き返し、現在に至ります。
中村 どこまでお話できるか分かりませんが、今、「死んだ経験」とおっしゃってましたが、その時は、まだ総選挙はやっていた時期ですか?
時田 えっと、まだやってました。名古屋勢が上位決めた総選挙の時よりも前に、私、一回居なくなっているので。でも、確かに、そうやってつっこまれると、「なんでそのタイミングだろうな?」っていうのは、ありますよね。
中村 そうですね。コンスタントに動画を作ってらっしゃったので、そこからちょっと、しばらく制作期間が空いたっていうので、素朴な疑問としてなんでなのかなというのはありました。
時田 うーん、「死んだ」理由でいうと、私自身の熱量が落ちたというのもあるんですが、なんかこう、周りの人達、特に握手会やトーク会に集まっている人たちが楽しくなさそうに見えてしまった時期があって。
雑誌にも書かせていただいた通り、私、当時はメンバー以上にファンの動きだったり、ファンの考え方だったり、ファンの熱量に敏感に身体がびくびくしちゃう人間でした。それもあって、トーク会とかを見た時に、現場がどんよりしているなと。
中村 うーん。
時田 一人一人の顔を見ると、一時に比べるとあんまり楽しくなさそうだな、と思った時期があって。そこから急に熱を失ってしまったんですよね。
中村 現場の温度感ってやつですかね?
時田 そうですね。逆にどうです?
そういうのを感じられた経験とかタイミングとかってありますか?
中村 僕はどっちかといと、逆で。皆さんが楽しそうな時はあんまり楽しくないんですよ。ドキュメンタリー映画の「アイドル」が公開された時とか。なんでか分からないですけど。あとは、だいたいその時に推しが卒業しているという個人的な理由もあるんですけど。
時田 まあまあ、それはしょうがないですよね。
中村 現場に出なくなったというのもあるんですけど。なんでしょうね。これは多分、公演が楽しい人、握手会が楽しい人、楽曲が好きな人、総選挙が好きな人、で、もっと長い視点でメンバーの成長を見たい人。色々分かれると思うんですが、僕は圧倒的に総選挙好きな人だったんですよ。
時田 はい。
中村 「今日、この子の運命が変わってしまうかも知れない」、そう思わせてくれるイベントであると。で、今考えると残酷なゲームじゃないですか(笑)。女の子に順位を付けて。その為にファンも頑張ると。凄く趣味が悪いと思うんですが、人のギリギリのところを見たいというか。追い詰められて成長していく、乗り越えて行くというか。
だから、栄の十二周年の時に、十二公演やりますっていうとんでもないチャレンジがあったじゃないですか?
時田 我々ぐらいじゃないですか? あんなに沸いてたの(笑)。
中村 温度で言ったら我々二人凄かったですよね( ※4 )。「待ってたぜ」みたいな。それでいうと、今、凄くマイルドになっているというと語弊があるかもしれません。メンバーにとっては良いことだと思うんですけどね。メンバーの負担も減ってますし。
時田 はいはい。
( ※4 ) 温度で言ったら我々二人凄かったですよね
時田さんは煽り動画衝突を作り、栄、覚えていてくれは公演までの毎日ブログ更新を行った。はっきり言って、今、考えるとむちゃくちゃなことをお互いしたと思いますが、それぐらい熱くさせてくれるイベントでしたし、メンバーの熱も伝わってきた素晴らしいイベントでした。
ラフに楽しむ時代
中村 でも、やっぱエンタメなんで、どっかで非日常がみたいなと。それが時田さんの記事の中で出てきた「ラフに楽しむ時代」というのと、ひょっとすると違う意味で受け取ってるかもしれませんが、普段着の感覚で栄を楽しむ。毎日のSHOWROOM配信や公演やSNSから見つけていかなければいけない。運営さんから「楽しいよ~」と与えられるんじゃなくて、自分たちで作って行かなければいけない。二十年代はそういうフェイズに来ているのかなと思った時に、ちょっと栄が面白くなりました。
時田 なるほどね。まあ、普通の人はそこまで噛み砕かないですし、噛み砕こうとも思わない。勿論、噛み砕こうと思わないこと自体は決して悪ではありません。ただ、今のやり方とはそぐわないような楽しみ方しか出来てない人とかをみると、ちょっと勿体ないなあ、とは思いますよね。
中村 そうですね。動物的に、本能として「かわいい」からスタートするのって全く悪くないと思うんですが、じゃあ、「なんでかわいいのかな?」、「なんで楽しいのかな?」と噛み砕いて考えるのも良いんじゃないかなって思うんですけどね(笑)。
最近、時田さんが動画を作ってらっしゃらないと言ったらあれですけど、なーやんとかの動画( ※5 )を作ってましたけど。
( ※5 ) なーやんとかの動画
スタイリッシュで凄く好きな動画の一つです。たとえば、なーやんの朝、夕ときて、みっちゃんの月と来る順番も好きですし、いずりんのところのフレーズとか、なかちゃんの首を縦に振るところとか、いつもどっから見つけてくるんだ、というぐらいメンバーの素敵なところを捉えて形にされます。あの限られた時間と音楽のリズムという制約の中で、作るセンスは本当に嫉妬します。
時田 あれも全くもって反響が無かったんですよね。
中村 えー! 僕はすごく好きですよ。
時田 私個人としては、凄くいいものが出来たなっていう部分が非常に多くて。今まで止まってた部分、技術的に止まってた部分があって。そういったような部分をアップデートできた動画だったので。ましてや、題材が外向けのライブに向けてのものだったので、まあ、いいかなあと思ってたんですけど。まあ、鳴かず飛ばずでしたね。
中村 これは繋がる話になるか分からないんですけど、僕もブログ書いてると、栄全体の話をするより、ある特定のメンバーのちょっと良い話をした方が圧倒的に読者が増えるんですよ。
時田 読者が増えるっていうのは、ブログの…。
中村 そうです、そうです。閲覧数が増えたりとか。ただ、僕のブログを横断して読む人は実は少なかったり。最新の時田さんの動画を観ると、凄いスタイリッシュなんですけどね。
時田 あれも結局、熱量っていう部分にどこまで費やすかだと思うんですけど、「ラフに」っていう考え方を自分で解釈した時に、まあ、今までの動画って暑苦しかったわけじゃないですか(笑)。
中村 そこ好きですけどね、僕は(笑)。
時田 私もそれが良かったと思っていて。じゃあ、自分がラフに楽しまなきゃいけない、それを推し事に転化していかなければいけない、となった時に、ちょっとああいう煽りⅤというのはもう違ってくるのかな、と。
特にね、火種がないところで無理矢理煽ろうとしても……そういうところから違和感って、露呈してくると思うので。だから、色々と試行錯誤して、ちょっと違う方向性でってなった時に出てきたのが、この前の作品だったんですよね。
そこをスタリッシュって言っていただけるのは、私が意図するところをくんでもらっているので、非常に嬉しいところではあるんですけど。まあ、それがひっかからなかったということは、別のベクトルを考えて行く必要があるのか。やり方自体がそもそも違うのか、っていうのをもうちょっと考えなきゃいけないな、と思いました。
中村 うーん、そこは凄い難しいところですよね…。楽しみ方のチャンネルをどう増やしてもらうか、かもしれないですし。相手が求める時田さん像が固定されているのかもしれないですし。まあ、相手にああだこうだ言うのは違う気もしていて。でも、あの動画が、そうか、反響少なかったと聞くと勿体ない気がしますけどね。
時田 それこそ、今、出していただいた話の中で、特定のメンバーを対象にしたブログの方が読者が増えるというのがあったと思うんですけど、それはえっと、ごめんなさい、もう凄く直接的な言い方をすると、人気なメンバーと人気じゃないメンバー、それぞれ取り上げた時の差っていうのはその中でもあったりしますか?
中村 ありますね。
時田 そこはあるんだ。
中村 特に、人気じゃないメンバーを取り上げた時の方がコメント数や熱量は多いですし、まだ研究生の子とかもそうですね。逆に、人気のあるメンバーを書くと閲覧数は増えますし、勿論フォロワーの方は増えるんですが。なんていうんですかね、あのぉ、ちょっと言葉を選びますけど、なんとなくこれ書いたら読んでもらえますよね、とか、これいい話だから書いた方がいいですよねっていうのが、きっとあると思うんですが。あんまり冒険のし甲斐っていうのは無いですよね。平均で八十点は取れるけど、百二十点は取れない、という感じはありますね。
時田 なるほどねえ。そうかあ。いやあ、でも、ブログで個人の人間を指した内容の方が読者数が伸びるっていうのは、意外っていうと語弊がありますけど、うーん、なんでだろうなあ。
中村 別の角度から考えると、これが先ほどの十二周年公演とか、総選挙とか大きなイベントの話になると、増えるんですけど。イベントじゃなくて、これからこうしたいよね、こういう特徴あるよね、みたいな話になると少なくなりますね。もっというと、楽曲の解釈とかは、欅坂の曲について書いた方が伸びます。
時田 あっ、そうなんですか!
中村 坂道書いた方が圧倒的に伸びます。なので、noteでは映画とか本とか特に映画のことを書いた方が効率は良いんですね。
時田 他の方が多いんだ。私、てっきりそこは逆だと思ってました。
中村 やっぱ母数ですかね。
時田 まぁ、おっしゃる通り、母数っていうのはあるし、単純な比較をするなら比率とかで見た方が良いんでしょうけど。私の勝手な固定概念として、栄のオタクはそういう楽曲のことを語るのも好きなイメージが凄く強くて。そうか…そうじゃないんだ。
中村 そうですね、勿論、昔から固定でそういうのがお好きな方もいらっしゃるとは思うんですけど。たとえばYouTubeのコメント欄でも、坂道のファンの方の方が曲に対する考察のコメントは多いですね。
時田 なるほどね。結局のところ、私もそうですし、えっと、中村さんもそうですけど、発信をする以上は、ある程度、需要を捉えないといけないわけじゃないですか。そうすると、相手の層をとらえなきゃいけないわけじゃないですか。そこズレてくると、キツイですよね。
中村 そうですね。そこは凄く感じますね。
時田 特にそのさっきの動画の話じゃないですけど、最近そこにズレを感じることが私も多々あって。だからこそ、動画を作れてないということが現状で。勿論、今までの動画も自分が作りたいものと、受け入れられやすいものの乖離はあったんで。そこは切り捨ててはいたんですけど。とはいえ、どういうものが受け入れられるかっていう根底がズレ始めたっていうのが、感覚的に多くなってくると、どうしたもんかなって思いますよね。
中村 そうですよね、正確な時期は分からないですが、僕も一年か二年前からモヤモヤしているところではあります。
時田 やっぱりズレたなって思うことあります?
中村 ありますね。特に新曲とか出ると歌詞のこととかMVのこととかじっくり考えたいですし、数字だけ見るとあんまりそれは求められてないのかなと。多分、これは載せられないと思いますが、〇〇ちゃんが次は選抜だから期待してますよ、とか、〇〇ちゃんもセンター狙えるみたいな記事の方が、ニーズがあるというか。
時田 へええ。
中村 でも、それって僕が書かなくても、誰かがツイッターで呟いてるんじゃないかなって、思いもあるんですよね(笑)。
時田 そうですね(笑)。
中村 それをわざわざやってるというのは、毎週更新して、ある程度習慣化してもらうという意図があります。逆に最初は読者いなかったけど、少しずつ増えていったコーナーもありまして。六期生のなっきぃさん。彼女を知ろうという月一連載とかがそうですね。確か、そこの第一回にも書いたんですが、僕、凄い彼女苦手だったんですよ。
時田 あの、最初ねえ、「大嫌い」とは書いてないけど、ほぼほぼそれに近しい、「全然興味ねえよ」ぐらいの感じの書き方だよなあ、と思いながら読んでました(笑)。
中村 でも、最初は読者数も少なかったんですけど…。
時田 あっ、最初少なかったんですか?
中村 はい、一回目と二回目はコメントしてくださった方は多かったんですけど、少なかったです。
時田 なんか、ワード的にフックが強そうだなと思ったんですけどね。
中村 そうですよね。自分でいうのも何ですが、結構自信あったんですけど、あんまりで。むしろ、彼女で色々と妄想してみようとか、思い出を語ろうとかの方がみんな楽しめるというのがあって、数字も良いですね。じゃあ、何なの? この労力って思うことはあります。
時田 確かに。前置きがいらなかったんじゃないかって、話ですよね。
中村 そうですね。嫌いだった人間が学んでいくというのに意味があるかなと思ってたんですが。そこは難しいところではありますね。
時田 うーん。やっぱ純粋なんですかね。我々が思っているよりも。
中村 ううむ、難しいですね。「純粋」っていうのが、欲望にストレートという意味なら、そうかもしれないです。
時田 なんかこう、皆さん大人なわけじゃないですか。酸いも甘いも経験してきてるわけじゃないですか。そういう大人たちのはけ口っていうと言い方悪いですけど、唯一ストレートに出せる部分っていうのが強いのかなあ?
中村 どうなんでしょうね。その辺りは難しいところですよねえ。なんか、大分オタクの細分化が進んでいるところがあるな、と思いまして。もっと若い子の層はテキストと静止画中心のメディアのTwitterを見てないんじゃないかなと思いまして。
時田 その気はありますよね。
中村 ただおっしゃる通り、ある程度の人生経験をしてきたのであれば、スポーツ選手を応援される方々が、人生の一部をその選手やチームに投影するように、色んなことを考えたり楽しんだりする素養というか、フォーマットはあるはずなので。そこは、勿体ないなというのはありますよね。上から目線に聞こえるかもですけど。逆に、一部のファンの人たちは、もっと読みたいといいますか、考えたいといいますか。そういう方もまだかろうじて居るので、そういう文化はもっと残ってもよいかなと思っています。
まとめサイトとの別れ
中村 あの、ちょっと話題が変わるかも知れないですが、僕もうまとめサイトを見るのを止めたんですね。この三年ぐらい。
時田 あっ、私もね、全く一緒です。読まなくなった時期は違いますけど、もうホントここ二、三年はほぼほぼ読んでないですね。
中村 昔のまとめサイトってもうちょっとちゃんとした議論があったと思うんですね。「一日一人に対して真面目に討論」みたいなスレがまとめられたりしていて。僕、二〇一二年ぐらいに栄が好きになりまして。あの頃ってまだエンクラ( ※6 )があったじゃないですか?
( ※6 ) エンクラ
伝説の栄系まとめサイト。二〇一四年三月三日に更新が止まりました。この記事の為に、久しぶりに見に行ったら、コメント欄がまだ生きていて、最終コメントが二〇二二年十月十一日。
時田 ありましたねえ(笑)。懐かしいなあ。
中村 僕、エンクラのあのスレのまとめが好きで。
時田 本当に昔の2ちゃんですよね。エンクラって。
中村 まさに、集合知というか。そこからエンクラさんが更新を止めて、まとめろぐさんになるじゃないですか。何か2ちゃんねるの規制が入って、一時期、寄稿を求めてたじゃないですか、あれが凄く面白くて。文章の上手い下手に関係なく、「あっ、こんなこと考えてるのか」という発見があったり。
でも、だんだんそれもなくなってきて。で、もっというと栄の人気に下降と共に母数が減ったというのもあるんでしょうけど。似たようなことばっか考えてる人達が集まってる印象になって、情報はTwitterで終えるしなあ、というのはありますね。
時田 なるほどねえ。今も掲示板から引っ張ってきたりするんですか?
中村 じゃないですかね、多分。
時田 じゃあ、ファン同士のやりとりは乗っかってきてるのか。なんで、でも、私見なくなったんだろう。まあ、でも確かにね、今まで知的好奇心がくすぐられていた部分が無くなったら、見なくなりますよね。
中村 そうですね。あとは、どんどん自分で物が考えられなくなってしまう、耳年増を増やしているだけな気がして。凄く生意気な良い方ですが「こいつらと付き合ってても仕方ねえな。自分で考えた方が早いわ」というのがあったかもしれません(笑)。多分、これ、載せられないですけど。
時田 いや、いいですよ、載せましょうよ。
中村 いやいや。
時田 ダメですよ、たまにはそういう刺激物も載せないと。
( ここからちょっと、現在引退されたまとめサイトの管理人さんに取材しようとしていた話をしますが、掘っていい話か微妙なので割愛 )
中村 多分、まとめサイトが作ってきたムーブメントというのもあったと思うんですよね。ポジティブな意味の。たとえば、ナゴヤドームのオレンジのサイリウムの海とか( ※7 )。かおたんを面白がる文化とか。特に初心者の頃はありがたかったんですけどね。こういう文化があるのかと。ただ、二〇一九年以降、まとめサイトから新たなムーブメントって生まれたのかな?っていう疑問がありまして。もう役目を終えたんじゃないかな、というのが僕の分析です。
( ※7 ) ナゴヤドームのオレンジのサイリウムの海
二〇一四年二月二日に行われたナゴヤドーム単独公演二日目のアンコール時、オレンジのサイリウムで染めようという企画。暗闇の中で山火事のように燃えるサイリウムの海は、あんなにこの世からふわりと浮いた感覚はあの時、一度だけです。
時田 まあ、それでいうと、今までが変というか、特殊でしたよね。本来だったら、ああいうまとめサイトから、文化が起きるってあんまり無いじゃないですか。ネット上で完結することが基本じゃないですか。そこからリアルに物事が繋がるっていうのが、あんまりないですよね。
私なんて特に、他のアイドルをつまみ食いしてた時があったので、あの文化って凄かったなあ、より感じることがあって。当時はまとめサイトを見ればなんとなく流れが分かりましたし。特殊であり、かつ、時代を作ったものの一つですよね。
中村 そこから、本能的な欲望に進み始めているな、というのと、後は蛸壺化が進んでいるなと思いまして。僕も栄がしんどくなった時期がありまして。
時田 それってだいたいいつぐらいの話ですか?
中村 二〇一九年、二〇二〇年ぐらいですかね。
時田 じゃあ、わりと最近ですね。
中村 そうですね。何故かその時期しんどかったですね。このしんどさの正体は僕もつかみきれてないんですけど。
時田 それは言語化ができない感じですか、それともなんとなくこうなんだろうな、というのはある感じですか?
中村 うーん。まずは、非日常性が無くなってしまったと。総選挙とか、リクエストアワーとか、じゃんけん選抜とか。というと、僕が凄い順位つけるのが好きな人間みたいに思われますけど(笑)。
時田 いや、でも、そういうもんでしょ(笑)。
中村 なんか、戦が無くなったといいますか。だから、急に明治維新が起こって、これからどうやって生きていけば良いんだ、みたいな。
時田 なるほどね(笑)。武士が刀の置き場所を無くして、どうすんだよ、これみたいな感じですね。
中村 あとは、僕メンバーのブログとかが好きなんで、圧倒的にみんなアメブロとか書かなくなったんですよ。総選挙とか無いと。
時田 言われてみたらそうですね。
中村 凄く失礼なんですけど、追い詰められた人間の文章って、やっぱり面白いし、こころに来るんですよね。伝わってくるものが凄いんですよ。
時田 いやあ、ありますよねえ。
中村 それは多分、いっぱいモバメを取っている時田さんの方が分かるんじゃないかと思うんですが。
時田 モバメも勿論そうなんですけど、ある意味、表向きの文章じゃないですか、ブログって。それが切羽詰まった時の楽しさってありますよね。
中村 そうなんですよねえ( しみじみと )。
時田 メンバーにとってモバメって不満のはけ口の一つでもあるんで。まあ、常時、流れてくるわけですよ、不満が。一方、ブログってもっと表向きな文章じゃないですか?
そこに切羽詰まってきたの時の臨場感と、リアル感と、人間の本来持つ一番汚いところが出ると、文章として一番面白いですよね。それはなんとなく分かる気がします。
中村 飾らない生の声というか、人間味があるんですよね。だから、僕、速報出る日が楽しみだったんですよね。
時田 (笑)。そうですね。懐かしいな、このワクワク感も。
※ やっと違和感から問題が見え始めたところですが、ここまでで約12000字。全体の4分の1です。ここから、いよいよ我々の前に問題の本質が立ち上がってきます。そこに辿り着くまでの我々の話がこれでもかというほど掲載されています。
続きは是非、クラウドファンディングの対談集で。
こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。