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おすすめの映画「THE BATMAN

【この記事はネタバレ全開で書いておりますので、ご注意ください!】

 皆さん、バットマンというと、どの映画を思い出すでしょうか?
 近頃ですと、ノーラン版のダークナイトトリロジーやDCエクステンデット・ユニバースを思い出す方が多いかもしれません。
 皆さんの心の中にあるバットマンが強いだけに、新作を制作すると聞いた時は「ちょっとしーんぱーい」と藤木直人みたいなことを言っていたんですが、予告を観てもう胸のエンジンに火がつきましたよ。

 ちなみに、予告の「ジョーカーの衝撃は序章に過ぎなかった」というのは、果たして合っているのか、最後まで見た今としては複雑です。
 もうね、バットマンが容赦なく悪人をタコ殴りにしていくところを観て、「こりゃあ、正義について考えさせられる系かもしらんな」と分かったようなことを言っていたんですが、実際に見てみると現代の正義だけに留まらない、今の時代を反映した映画になっていると思いました。

 それでは感想を五月雨式に書いてみましょう。
※BGM 櫻坂46「五月雨よ」祝、天ちゃんセンター。


1、水のイメージ

 まず、この映画の中で印象的に使われているのが水です。
 ほとんどの夜の場面で大雨が降っています。
 逆に昼間はほとんど降っていません。
 この水のイメージは何か?
 僕なりの解釈を書くと、悪意です。
 物語の冒頭でブルースは雨に打たれながら、「いや、この街犯罪多すぎますわ。一人じゃどうしょうもないですわ。でも、僕の存在が悪人に恐怖を与えているんですよ」みたいなことを語ります。
 そして、その悪意が大量になって押し寄せてくる終盤。
 そう、洪水の場面です。
 雨のように傘がないと「ちょっと嫌だなあ」と思っていたものが、こちらの手に負えない力と量で押し寄せてくる。当然ですが、アメリカの議会襲撃事件を連想させられます。
 ただ、ここで怖いのはこちらが「悪意」だと思っている者たちは「正義」だと信じていることです。

2、正義中毒

 作中でリドリーは、ゴッサムシティの汚職をどんどん告発していきます。
 なんだ、良いことではないかと一瞬思ったんですが、こいつがしているのは、殺人なんですよね。しかも、無関係な人まで巻き込んで。
 なんなら、ブルースに向けた「父の罪は子へ報いられる」的な発想もめちゃくちゃです。
 ただ、次から次へと事件を起こすことで、リドリーはファンをどんどん増やしていきます。
 やがて「キワモノ好き」が500人ぐらいにまで膨れ上がっていくんですが、こいつらは「俺たちは町をリセットさせるんだあ!」と「真実を明らかにするんだあ!」という「正義」を追い求めるわけです。ただ、やり方が酷すぎる。
 じゃあ、なんでこの人たちはこんな酷いことができるのか?

3、意図せぬ影響


 
 バットマンというゴッサムシティに現れたダークヒーロー。
 彼の姿を見てリドリーは自分と同一視します。
 「意図せぬ影響」です。
 さらに、リドリーの視聴者たちが、リドリーの動画を観てリドリーと自分を同一視します。
 ただ、彼らはみんな「固有名詞」の人物ではありません。
 「リドリー」という仮面を被ることで、初めて「リドリー」という固有名詞になれる。その証拠に仮面を外すと「お前はだれだ?」と聞かれます。
 それに対して、バットマンも仮面を被っていますが、彼は仮面を外しても「ブルース・ウェイン」という固有名詞の人物です。
 この差は結構大きいと僕は思っています。
 同じ仮面でもバットマンのように強固な仮面ではないでく、誰でも作れる仮面。ということは、中身の人間は実は代替可能な存在だということが示されているのではと僕は思います。
 言葉を選ばずいえば「その他大勢」の自分です。
 SNS上でよく有名人の顔やアニメキャラクターの顔をアカウントにしている人がいます。誰かの「仮面」を被ることで世界に触れることができる感覚。いや、これは匿名性も関係してくるかもしれません。
 僕自身も映画や漫画に影響されやすい性格です。
 有名人やキャラクターたちのセリフ、考え方をどう消化するかを自分で考え直さねばと感じました。

4、悪意の洪水の中で

 じゃあ、そんな「その他大勢」の人々が「仮面」を被り(これはSNSのアカウントの隠喩のようにも感じました)、それは悪意の洪水に沈みそうな人に手を伸ばして助けることではないか、と僕は思います。
 「お前は流されてはいけない」と。
 そう考えると、物語の冒頭で顔を半分だけ塗ったあの人物。
 彼は、バットマン側になったのか、リドリー側になったのか、僕は映画の最後まで気になっていました。
 僕らは明日、水に流されるのか、水から引きずり出すのか、どちらでしょうか?

5、その他もろもろ


 真面目な話が続きましたが、ちょっと個人的にツボだったところを。
・ラストバトルで天井から降りてくるバットマンで、思わず「ホォォ!」と小さく声が出ました。
・ラストバトルのリドリー信者たちはどうやってあそこまで入ったんでしょう?
・正直、今度のバットモービルは地味だなあ、と思っていましたが、出現シーンでもう謝りたくなりました。かっこよすぎです。プラモ買います。
・ロバート・パティンソンの青白い肌が「TENET」のニールの時と全く違う印象で最初気づきませんでした。
・教会に車が突っ込んでくるところでも小さく声が出そうになりました。
・バットマンとキャットウーマンが分かれるシーンが曇っていて、ラストシーンは晴れていることから、なんとなく悪意に勝つ希望が見えた気がしました。

 とにかく、素晴らしい映画でしたし、自分を誰かに同一視することの怖さを感じました。何度でも書きますが、僕も影響を受けやすい性格です。誰かの物語を自分の物語にせず、どう自分の物語を豊かに出来るか、ラストのブルースのメッセージから僕は考えました。
 

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