MORE FUN VALUE
シド・ミードをご存知でだろうか?
「ブレードランナー」や「ターンAガンダム」というと、ピンと来る人も多いかも知れない。
現在、蔦屋書店奈良店で、シド・ミドー展が行われている。そのことを僕が知ったのは、たまたまこのお店に入ったからだ。
ぼんやり、展示をみようと思ったが、いきなり、昔の「スターログ」を見つけて、びっくりする。
「うおっ、これが高橋ヨシキさんやRHYMESTERの宇多丸さんが、毎月心を踊らせていたやつか!」と静かに目を見開いていると、「昔、僕らはお小遣いをはたいて、なんとかこれを買ってたんですよね」と声をかけてくださる方がいた。
シド・ミドーカルチャーを研究されていて、今回の展示の主催者である松井博司さんだった。
そこから僕は、4時間、松井さんを一人占めさせていただいて、年代ごとのシド・ミドーの作品や彼の人柄についてのエピソードを聞いた。
彼のデザインがいかに世界のSF界に影響を与えたか。そんな影響力のある人なのに、年齢に関係なく平等に創作者へのリスペクトがあること。
それまで番組や映画のテロップでしか知らなかった彼が、一人の人間として立ち上がってくる。
そして、作品の創作の過程やメッキへのこだわり、そして、「一流の人に習う」ことや「同じアイディアを使わないこと」、松井さんがシド・ミドーから聞いた話をお裾分けしていただきながら、僕は彼の仕事への誠実さを感じていた。
そして、いたるところに遊び心が隠されていたり、未来へのヒントが隠されていることも感じた。
「ブレードランナー2049」の後半の砂漠になったラスベガスのデザインに関わっていたことも初めて知った。彼の「ブレードランナー」に対する思いやこの「2049」を手繰り寄せるまでのエピソードも。
他にも宇宙戦艦ヤマトのリデザインも工業製品のデザイナーだからこそ、本当に戦艦として運転していけるか、ちゃんと暮らせるか、という現実に即して作っているのが、印象的だった。
そして、ターンAガンダムである。
このガンダムのデザインは、歴代のガンダムを並べた時にかなり異質である。そして、明らかにガンダムのデザインをアップデートした。
昔、ターンAガンダムのマスターグレードを組み立てながら、疑問に思ったことがある。なんで、このガンダムはこんなに後から見たときと、前から見たときの印象が違うんだろう、とその答えが今回の展示で謎が解けた。工業的なデザインやアイディアが後ろ側に沢山あったのだ。
また、ターンAが女性ガンダムだという話は、もう凄まじかった。更にターンXが左右非対照であることや胸のX型のへこみについての話も。
まだ、展示中なので、是非、確認しに行って欲しい。
「これはなんですか?」と聞くと、松井さんにシド・ミードが送った手紙のちょっとしたところに書いた絵だそうだ。
下の方に「MORE FUN VALUE」と書いてある。「自由に想像のバルブをもっと緩めろということですかね」と松井さんは教えてくれた。
それから僕らは、展示スペースを何度もぐるぐると回りながら、一つ一つの作品についてじっくりと楽しむことが出来た。
気づけば21時を過ぎていた。
ふと、松井さんが「好きなことから目をそらしたらダメですよ」と言ってくださった。松井さん自身、自分の夢を形にするまで頑張ってこられたと思うと、今の自分について語ろうと思った。
自分のこれからやりたいことや、今、悩んでいることを話した。松井さんは、これからのことを真剣に聞いてくださり、「書くこと」についての仕事も紹介してくださった。
最後に「ここからが始まりだと思っています」という言葉も印象的だった。お互いの目標を決めて別れた。
最後に「ワンアンドオンリー、自分にしかできないことを見つけることです」とアドバイスしてもらった。松井さんにとっては、シド・ミドーとの日々や知識。
じゃあ、僕は何だろう?
ただ、自分のやりたいことの期限を決めた。
胸が熱くなった。
「ワンアンドオンリー」の作品を作る為に、自分の中にどんな材料があるだろう?
考えながら走っていると、家につく頃には、汗が出ていた。
こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。