舞台 「放課後戦記」は人間の業を肯定する
舞台「放課後戦記」の名前を知ったのは、僕の推しである五十嵐早香さんが2024年の12月に出演した舞台のタイトルからでした。
「放課後戦記2024~血塗られた首謀者を探せ~」。
舞台と謎解きゲームの融合という斬新な切り口のこの舞台。
行けるものなら観に行きたかったんですが、四国の果てに住んでいて、資金的にも仕事のスケジュール的に余裕がなかったので、ただただSNSに流れてくる感想を「いいね、いいね、それいいね」と呟きながら観ていたんですね。
しかし、ふと気づいたんです。
あれ、これ前に上演された舞台が、配信で観られるぞ、と。
そこで、U-NEXTにある2017年に上演された「放課後戦記」の再演バージョンを拝見しました。
作品概要を少しだけ読むと、学園内で部活同士でバトルロワイヤルをしたら勝ち残る部はどこか、ということが書かれていました。
バトルロワイヤルやデスゲームものというと、国内では電子書籍のマンガ、世界的にはネットフリックスの「イカゲーム」の大ヒットが記憶に新しいところです。デスゲームものの魅力は極限の状況に置かれた人間たちの生き残りたいという欲望と誰かを死なせたくないという理性とのせめぎ合いにあると僕は思っています。
なので、この作品でもそういう展開があるかな、と思っていたんですね。
結論から書くともちろん、それはありました。
ただ、いい意味で騙されました。
この作品はそんな薄いレイヤーの作品ではなかったと。
最後まで観ると、僕が何をいいたいかが、よく分かると思います。
いや、なんなら、最初の3分で実は重要なシーンが描かれていたんだと2周目を観ると分かると思います。
まずは、配信で再演版を観てみてください。
あと、通販で2020年版、2021年版、2022年版、2024年版も購入できるので、是非!
【ここから先はネタバレありです】
生きる力に気づいたとき
いやあ、見事に騙されました。
そして、泣きました。
主演の市川美織さんは、AKB時代はもちろん、NMB時代も活躍を存じていました。しかし、この舞台を鑑賞すると、演技も歌声もダンスも全部、凄くて、市川美織像を更新させられました。
序盤は、様々な部活のメンバーたちに光が当たるように少し引いた演技をされているのかな、という印象だったんですが、徐々に彼女の存在感が増してくるんですよね。
華養子の首を絞めるシーンは「殺す」というよりは、自分を現実世界から養護していた人格との「別れ」のようで、とても切ないシーンでした。
その後で、一つ一つの人格がそれぞれの背負っている感情や欲望を告げていくシーンでは、物語の冒頭ではとても恐ろしく響いた言葉たちがとても優しく響きます。
この作品って、最初あらすじだったり、ポスタービジュアルを観た時は、今年42歳になる僕には無縁の青春アクション群像劇なんだろうなあ、と思っていたんですね。ところが、これは全ての人間に関係する物語でした。
観終わって最初に思ったのが、この物語は「業の肯定」ではないかと思いました。舞台のオープニングで語られる人間のポジティブな面とネガティブな面が、すべて生きていくためには必要なものだったんだ、と。時には秩序を求めますし、時には色欲が生まれれば、支配を臨んでしまうこともあります。しかし、それを全部殺していくと、生きづらくなってしまうのではないか。一つ一つが羽のように折り重なり、翼になるから前に進んでいける。そう感じました。
なので、舞台のオープニングで市川美織さんが歌う挿入歌には、なんかアイドルのミュージカルってこんな感じなのか、と少し面食らいましたが、ラストで流れた時は、もう涙が流れてきましてね。
同じ歌のはずなのに、全く違って聴こえるんですよね。
そして、自分の内面にいる色々な感情や欲望って、ちゃんと肯定できれば、生きる活力になるな、とも思いましてね。
最後に門脇瀬名が病室で叫ぶ言葉、たぶん、違う人が言うと説教臭く聞こえるかも知れません。でも、彼女が置かれた状況、これからの人生を考えると、観客であるこちら側が彼女の発見というか決意を祝福したくなるような言葉でした。
舞台を観た前と観終わった後で全く違う自分になっていたという意味では、完全に「放課後戦記」にやられてしまいました。たまに「またあの子たちに会いたい」と思わされる作品になりました。
そして2024年版へ
さて、ありがたいことにある方に2024年版の「放課後戦記」のDVDを送っていただきました。ちょっと2017年の版の余韻を味わいたくて、少し間を置いてから観ることにしました。
そして、2024年版への期待もありまして、どこかが変化しているのでは、と予想もしました。
僕は、最後の門脇瀬名が、自分の内面の感情たちを肯定していくところが、彼女自身ではなく登場人物が語りかけるという感じになっているかもと、予想していました。
そして、満を持して2024年版を観ました。
まず、感じたのが「深化」している!!ということでした。
校歌のようなリズムで始まった曲がまるで、お経のようにかわり、やがて、ロックな感じの曲に変わっていくのに驚かされました。
そして、歌詞もこの物語の解像度がまた上がる感じになっていましてね。主演の市川美織さんも似合っていたんですが、阿部凜さんの歌声が凄く良かったです。
ラストのセリフや動きも変わっていて、より門脇瀬名さんの決意が伝わってきました。
「深化」していたのは、演技やセリフだけではありません。
照明や衣装もより豪華になっている!と感じました。
2周目を観る時は手元にスマホを置いて、2017年版と照明を見比べながらみました。また段差の使い方や小物が増えていたりと、大きなところから細かいところまでブラッシュアップをされている舞台だ、とまた感動しました。知っているはずの物語なのに、また新しい発見がありました。
観ながら、このシーンは2017年版が好き!とか、この役は2024年版の人がハマってるな、とかそれぞれの良さを感じられました。
あとは、この物語の核になる部分がより明確になったなと思いました。
2024年版があったからこそ、上記の感想を書くことが出来ました。
これからへの期待
この「放課後戦記」、キャストの方のお名前を観ていると、今大活躍されている女優さんのお名前が沢山出ています。たとえば、2017年のキャストの中では、尾碕真花さんのお名前が!特撮好きの方にも、朝ドラ好きの方にもお馴染みの方になりましたよね。
2024年版では元乃木坂46で既にグラビアなどでも活躍中の相楽 伊織さんのお名前がありました。きっとまた数年後にキャスト表を観た時に、「あの人も出ていたのか!」と発見することもあるかも知れません。
気が早いですが、もし、2025年に再演があるとしたら、僕の推しの五十嵐早香さんは、出演する可能性はあるんでしょうか。もし、あるとしたら、どの子の役で出るのか、など妄想が広がります。
舞台と脱出ゲームの融合作。
ストーリーを観ただけでも面白そうなので、もし、参加された方がいたら、是非、感想をnoteに書いてくださったら嬉しいです。いったい、どんな話になったのか。あっ、でも謎解きの要素もあるから、あんまりオープンにしない方がいいのか。
そうなると、いつか自分も参加せねば、と思います。
もし、舞台の再演があれば、そちらも。
でも、東京まで行くのに10万近くかかるド田舎に住んでいるので、配信とかあったらありがたいな、と思います。
「放課後戦記」、本当に面白かったです。是非、日本国内だけでなく海外の方にも観て欲しい作品でした。果たして、どんな反応になるんでしょう。自分の中にいる様々な業を肯定しながら、厳しい状況でも明日へ一歩踏み出そうと勇気はきっと万国共通だと思います。
門脇瀬名が、物語の最後に翼を手に入れたように、この作品が時代も場所も超えて、これからも羽ばたいていきますように。