96年世代、4人の挑戦者たち
今年の始めに講談社学術文庫で発売された坪内祐三さんの「慶応三年生まれ、七人の旋毛曲り」という本が非常に面白いです。
慶応三年に生まれた夏目漱石、宮武骸骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斉藤緑雨の7人が、それぞれのタイミングで世に出て活躍し、日本の文化にどのような影響を与えていったかを書いたエッセイである。上記の7人だけでなく、明治期を代表する有名人たちが引用される参考文献の至るところに出てくるので、読んでいるだけで明治期の文学史の勉強にもなるので、おすすめです。
僕自身は、大正期から昭和初期の文学が研究対象だったので、自分が研究していた作家たちが学生時代に観ていた憧れていた東京の文学界や、彼らの師匠筋やカウンターの対象にあたる人達の「生き方」を勉強し直せたのが、とても楽しかったです。
さて、読み終わってから、ふと、こういうアプローチをSKE48でするとしたら、どの世代に成立するだろうと思いましてね。
多分、48グループ全体で見ると、91年生まれが重要な世代だと思います。
前田敦子・高橋みなみ・板野友美・柏木由紀・北原里英・大家志津香と、一般の方でも名前と顔が一致するメンバーばかりだと思いますし、それぞれが持つキャラクター性もバラバラですが多くの人達の心を掴みました。
SKE48では、松井玲奈・高柳明音・須田亜香里の3人が挙げられます。
もうこの3人だけで、充分、SKE48に重要な要素を作っているじゃないか、と考えると思うんですよね。松井玲奈の表現力と時折見せる狂気・高柳明音の熱さとリーダーシップ・須田亜香里の握手力と自己プロデュース力。黄金世代であることは間違いないと思います。しかし、この3人でSKE48の中核を語るには、まだ足りない気がします(かおたんが1歳年上なのが非常に惜しかった)。
そこで、もう少し下の世代を見て行きましょう。
僕が注目したいのは、1996年世代。つまり、平成8年4月1日から平成9年3月31日生まれの4人です。
松井珠理奈・古畑奈和・鎌田菜月・青木詩織です。
この4人の共通点は、何でしょう?
それは、彼女たち4人がそれぞれ挑戦者であることです。
彼女たちが48グループ内で置かれた状況は、必ずしも恵まれているとは言えませんでした。「はっ?松井珠理奈とか超推されだろ?」と思われるかも知れませんが、小学生の頃からアンチがワラワラいる、なんなら週末に握手ついでに、あなたの居るところへ会いに来る人生って経験したことがありますか?
「AKB48を超える」、「総選挙で1位になる」そんな途方もない目標を自分だけのものではなく、色々な人から託されるようになったことがありますか?
恐ろしいぐらい高い目標に向けて、全力で走りつづける姿に心動かされた人は多いんじゃないでしょうか?僕もその一人です。
しかし、140キロ以上のスピードを出し続けた車は、ブレーキを踏むと反動で運転手を殺してしまうように、珠理奈は止まらない生き方を選びます。その反動が要所要所に出ますが、2018年ごろにもろに出てしまったのではないかと思います。
以前、「松井珠理奈がSKE48のダンスの基準を作った」と秋元康が公式本の中で語っていましたが、それは別にダンスだけではなく、精神性もそうだったのかも知れません。
今年の彼女は、プロデューサーとしての1面もそうですが、彼女自身の人間性の掘り下げをyoutubeで始めています。電光石火に銀の靴(分かった人は映画ヲタクと見た)のカリスマではなく、親しみやすい一人の女性の姿がいつもそこにはあります。
そう、新しい挑戦を卒業に向けて彼女は始めているわけですね。
松井珠理奈より半年早く生まれた古畑奈和もまた挑戦者でした。
いつもなら、「詳しくはこの辺の記事を読んでね?」と手抜き全開でリンクを貼るところですが、今回はじっくりと書いてみましょう。
珠理奈と比較した時、奈和ちゃんは先を走っていた同期がいました。そして、握手を入り口に表現力が注目され、AKB48との兼任が始まります。二つのグループをまたにかけながら、自分たちの世代で48グループを躍進させたいという夢を持ちます(2015年の総選挙のスピーチなんか特に)。しかし、兼任は解除、ここで彼女は腐らずに次々と演技力を活かした仕事にチャレンジしていきます。そんな彼女の頑張りとは裏腹に、時代の流れは残酷で、彼女が目指していたセンターは次々と同期や後輩たちが獲得していきます。
ファンの方々と総選挙の選抜獲得やソロアルバム発売によって、独自の路線を進みます。SKE48でソロアルバムを出しているのは、2021年2月10日現在、彼女と松井珠理奈だけです。
やがて、満を持してセンターになりますが、それまでどれだけの涙を流したのか、と未だに思います。
松井玲奈とは違う狂気が彼女の中には備わっていて(何かに全力になると危うい感じは755戦争の時に特に感じました)、曲のヴィジュアライズ化という意味でのダンスならば、今の彼女に叶う人はほとんど居ないのではないかと思います。
今年の彼女は、新しくモデル仕事が入ったり、時代劇の仕事が入ったりと、アイドルという枠の中に居ながら少しだけ外に繋がる仕事に挑戦しています。古畑奈和の色が次は何色になるのか、楽しみです。
鎌田菜月は、2013年に6期生としてデビューしますが、当時のSKE48イズムの申し子かというと、そうではありませんでした。
彼女自身がアイドルになろうと入ったわけではなく、あれよあれよと進む審査と自分が置かれている状況に戸惑っていたそうです。
彼女の挑戦は、アイドルになることから始まったのかもしれません。
やがて、SNSを駆使した「自撮り詐欺」や「鎌田を脱がせてみろ」というファン心理を理解した自己プロデュースでどんどんポジションを上げていきます。
ただ、順風満帆かというとそうではなく、彼女自身も「ダンスを覚えるのが得意ではなかった」と語っていますし、同期から遅刻することもあったと語られています。
既に昇格した同期は選抜にどんどん入り、後輩も選抜入りを果たしていく。
そんな中でも彼女は、腐らずに地道に公演に出ながら発信を続けていきます。
やがて、様々な人々の目に触れ、彼女の「趣味」は「仕事」に変わっていきます。
先日、彼女の「趣味」について少しこのブログで触れましたが、将棋関連の仕事で名鑑の表紙になる偉業は、48グループで初であり、誰にも真似できない彼女しかできないことだと思います。
今年も彼女は「趣味」を「仕事」へと繋げていきます。
いや、競馬などを観ていると、「仕事」が「趣味」へ変わるものも出てくるかも知れません。そうすることによって、彼女の宇宙はさらに広がり続けるでしょう。
好きなものを熱く語るという姿はSKE48の二次元同好会の流れを汲みながらも、新しい流れを作り始めていると思っています。あとは、彼女のフォロワーがメンバーから出てくるかが次の注目ポイントだと思います。ここでいうフォロワーとは、スタイルを真似てさらに進化させるメンバーです。
そうすることによって、新しいSKE48の選択肢が出てくるのではと思っています。
鎌田菜月と同期の青木詩織は、静岡からSKE48にやってきたメンバーです。
全員選抜という今回の「恋落ちフラグ」で初めて選抜入りしたメンバーですが、劇場公演で大活躍し、チームK2の愛されキャラとしてファンの皆さんからは親しまれています。
彼女の功績で何より大きいのはやいづ親善大使としての活躍です。
48グループの地方メンバーの魅力の一つとして、ファンが縁もゆかりもなかった土地に対して一つ意味が乗ることが挙げられると思います。「ああ、〇〇ちゃんの出身地なんだ」とか「今度〇〇でイベントがあるから行くか」とかですね。
僕は一度も焼津に行ったことは無いですが、おしりんのおかげで名前を覚えましたし、ゆるキャラの「やいちゃん」も可愛くて、一時期はパソコンの待ち受け画面にしていました。僕と同じように、彼女のおかげで焼津と繋がった人がいるかもしれません。また、様々な地下鉄での広告もインパクトが大きかったですね(詳しくはこちらのリンクをhttps://www.city.yaizu.lg.jp/g08-002/tikatetu_koukoku.html)。
選抜入りしなくても外仕事で活躍し、なんなら地元に錦を飾る。
地方初の48グループだからこそ、土地に新しいレイヤーを乗せられる。
そんな可能性を彼女を始め、どんちゃんやかおたんも示したのではないかと思います。
今、彼女はローカルとはまた違った方向のチャレンジを進めています。
それがtiktokを始めとするSNSです。
「tiktok?そんなもん見るかよ。ぺっ!」みたいなスタンスだったんですが、日向坂46のキュン動画は好きなので、きっと先入観なんでしょうね。youtubeの方も専用チャンネルを作って動画をアップし続けています。
彼女が挑戦しているのは、ひょっとすると僕のような「古い観客」かも知れません。新しい面白さを求めて、今日も新しいアイディアを企画しているかと思うと、本当に脱帽します。
ローカルとグルーバル、どちらも開拓していける強みがおしりんにはあります。
こうして、96年世代の4人を並べてみると、SKE48のこれまでとこれからの可能性が秘められている気がします。そして、様々な夢の叶え方や挑戦の仕方を提示してくれています。
珠理奈と奈和ちゃんの関係は、以前書きましたが、珠理奈と鎌田さんの関係。奈和ちゃんとおしりんの関係。珠理奈とおしりん、鎌田さんと奈和ちゃんの関係、考えてみると、面白い組み合わせがありそうです。
果たして、あと5年経った時に、96年組こそが黄金世代だったと言われるか、それとも全く違う世代が輝くのか。今から楽しみです。
※2001年世代の8人について書いた記事はこちら!
https://oboeteitekure.blogspot.com/2021/02/blog-post_35.html