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五十嵐早香のエッセイは何故、面白いのか?第6回「表現は進化し続ける」

 綿矢りささんの「蹴りたい背中」を読んだことがあるでしょうか?
 あまりにも殺傷力の1行目が有名です。

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。

綿矢りさ「蹴りたい背中」より引用

 小説家の高橋源一郎をして、「20世紀の比喩表現を終わらせた」と評させた有名な比喩です。
 ちなみに、この後、ちぎった紙の山が描かれて、彼女のさびしさが蓄積されていることが読者に示されます。
 このように文章において、登場人物の心情をある時は景色で表したり、ある時は、現実では感じえないもので表現させることで、それを強調することがあります。
 今週の五十嵐早香さんのエッセイは、まさにそんな表現がありました。
 それでは、じっくりと読んで行きましょう。

 まず、1ページ目。
 「緊張のダンス審査」。
 やはり、オーディションを勝ち抜いてきた猛者たち、早香先生も徐々に焦りを感じ始めます。緊張がついに追いついてしまった感じでしょうか?
 そして、ここでまさかの斉藤真木子さん登場!
 そりゃそうですよね。支配人ですしね。
 ダンスの審査でもそれぞれの個性を感じながら、歌唱審査へ。
 
 2ページ目の「面接官と盛り上がった話題は…」に突入します。
 歌は早めに終わり、質疑応答へ。
 なんと、ここでフィリピンでの経験が審査員の方の興味をくすぐったんですね。
 審査員の方からしたら「激レアさん」だったのかもしれませんね。

 もう誰か「フィリピンから正統派アイドルのSKE48になったのに、気付いたら配信動画が300万再生されて、才能が渋滞しているグラビアタレントになっていた人」で紹介してほしい!!

 話を戻すと、長いトークになったのを盛り上がったとだけ受け取らずに怪しまれている可能性を考える早香先生が素敵です。そして、呼ばれたダンススタジオ。ここで、いよいよ結果が分かるわけですね。
 そして、3ページ目に行こうと目をやると、素晴らしいタイトルが!
 「絶望の音」。

 3ページ目はとても丁寧な描き方になっています。まず、部屋の人口密度で本当は暑くなっているはずなのに、部屋の中は緊張感や呼ばれなかった人の絶望で冷たさを帯びていきます。
 そして、ここで出てくる「絶望の音」が聞こえたような気がする表現。
 素晴らしいですね。
 「心が折れる」という表現がありますが、彼女が聴いたのはどんな音だったのでしょう?
 彼女がその後に出す「進撃の巨人」のたとえからは、自分の力ではどうしょうもない大きなものに一方的に選別され、ある者はそこで終わり、ある者はかろうじて生き延びる。
 まるで、オーディションじゃないですか。
 調査兵団のごとく、オーディションを生き残れるか?
 来週いよいよ、結果発表です。

 どうでもいいですが、総選挙で投票してる時、この曲をBGMで流してましたよ。ええ、本当にあの頃はどうかしてました。
 
 今回は皆さん、いかがだったでしょうか?
 もうね、1段階比喩のレベルが上がったというか、パンチラインが各回の中にあるのは、凄いことだと思います。
 あらすじの面白さも勿論、あるんですが、純文学好きとしてはこういう比喩表現のアプローチが凄く好きです。これからも、試しに入れていってくださったら嬉しいです。
 ちなみに、このオーディションの思い出。
 めそめそ人間めそ美さん視点でも読んでみたいですね。
 もし、この時、早香先生を認識していたら、どんな感じだったのかも。
 
 いよいよ日本でのオーディション編も佳境ですね。
 物語も文章のスキルも加速していくはやか先生のエッセイ。
 これからも楽しみです。

※過去回はこちら!


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栄、覚えていてくれ
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