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SKE48を「更新」した日


 大学生になったばかりの頃、「これを読まなければサルであるという」帯の必読書150冊が書かれた本をプレゼントしてもらったことがあります。その中にベンヤミンの「複製技術時代における芸術作品」がありました。
 ベンヤミンは写真や録音機などの複製技術が生まれたことによって、芸術作品から「アウラ」(今日、この場だけの1回性)が消えたと語ります。先週読んだ「秋岡教授の音楽学を愉しむ24の扉の中」の「バロック音楽の楽しみ」の章で名前が登場して、おっ、久しぶりに読んでみようと、岩波文庫を探して読んでみたんですが、大人になって読み直してみると、本当にアウラって複製技術で消滅させられるのか、とか、多分、ベンヤミンはこの技術が誕生したことで、アウラが消えることを本当に惜しんでいるだけなのか?とか発見がありました。

 でね、近頃のアイドルシーンって、本当にこのアウラ勝負になっている気がしましてね。現場に行ったり、配信でコンサートを見たりということの重要性って前よりも上がっている気がするんですよ。特に、Youtubeなどの動画系で楽曲のコンテンツが少ない場合は、モチベーションを維持するためには、かなり大事だと僕は思っています。
 雑談やラジオでのおもしろエピソードが好きな方は、いやいや、そんなアウラ勝負じゃないよ、と思われるかも知れませんが、配信を生で観たり、ラ時を生で聴く同期性はアウラと無関係ではないと僕は思っています。

 いや、アウラとかいいじゃない、面倒くさいし、と思われるかも知れませんが、そんな人間はどうなっていくのか?
 多分、プチ老害になっていくのではないかと僕は思います。
 最新の情報を取り入れずに、昔の情報だけで良かれと思って的外れなアドバイスとかして、若い世代の害になってしまう、そんなプチ老害になる恐れが自分にもあると、じわじわ思ってきてましてね。というのも、田舎に引っ込んでから、SKE48のコンサート体験は配信だけになりましたし、新公演も初日は観たけど、そこからは、思入れのあるメンバーの卒業コンサートとかぐらいという、かなり「更新」をおこなっていない状態でした。まあ、推しの卒業からモチベーションがぐっと下がったというのもあったのですが、去年の6月30日の運営発表から「どうやって書けばいいんだ…」という気持ちからSKE48から気持ちが離れていました。そんなやつが、よく1年以上、noteを更新できるなと思われるかも知れませんが、それでもできる奥の深さがSKE48にはあるんですよね。
 ただ、これはあまりよくない状態で、最新のSKE48のことをちゃんと見ていないやつが偉そうに、ああだこうだ書くのって、ちょっと失礼だな、と思いながら、日々を過ごしていたわけです。最新のコンサートや公演をみるという「更新」作業をしていないと、ずっと昔の情報のままで止まってしまいます。そして、気付けば思い出だけが肥大していき、「やっぱり、今よりも昔の方が良いな!」となってしまうかも知れません。「ほら、昔これでうまくいったんだしさ、今の時代もこれでいこうよ」と若手にアドバイスするプチ老害になっている可能性もあります。
 
 で、このままでは、SKE48を楽しいと感じている人に対して、今のSKE48をちゃんと分かっていないのに、偉そうに過去の記憶とかだけで書いていくのは、良くないぞ、と改めて思い(本日2回目)、DMMでチームK2「時間がない」公演の岡本彩夏さん生誕祭を見ました。いや、もっと早く観ろよ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、忙しかったんですよ。この1年。デビュー作を書きながら、クラファンで雑誌作ったり、毎日ラジオ収録したり、転職したり、note創作大賞に応募したり、起業の勉強したり(なんなら、今もこの記事書きながらAI走らせてイラストの生成もしています)。
 昨日、台風が直撃した影響で色々と仕事関係が止まってしまって、2時間ぐらい生活の中で謎の空白時間が出来たんですね。普段だったら、ネットフリックスで映画かドキュメンタリーみよう、「僕らを作った映画たち」最高!となるんですが、ふと、SKE48見てみようか、となりました。しかも、あえて、自分が知っている公演を。そう思って、「時間がない」公演をDMMで観てみました。
 率直な感想を書くと、「これ、観て無かったら、大分『時間がない』公演やK2のメンバーの解像度が低いままだったぞ」です。メンバーもSKE48ファンの方もこの公演の楽しみ方をちゃんと押さえていて、ものにされているという印象を受けました。1曲目から荒井優希さんの造形の素晴らしさはシルエットでこそ輝くと思いますし、2曲目の「時間がない」での鈴木愛來さんの美しさ、そして、3曲目の「ドント・ストップ・ミュージック」のファンもメンバーもこの音の波を楽しんでいるノリノリ感。4曲目の「君は未来に試されている」でのメンバーたちの伊藤実希さんの頼もしさ。もう、この人、選抜でいいでしょ。外で戦うには絶対にこの人いりますよ、と思いました。
 書き出したら切りがないんですが、どんどん、メンバーや公演がくっきりはっきりと見えてくるんですね。MCのあーーやの木刀とすいか割りのエピソードも最高でした。
 ユニットに関しては、今の「プレシャス」のメンバー仕上がりすぎてないですか?と聞きたくなるぐらいの表現の力強さと美しさ。特にこの日の主役のあーーやはカメラで抜かれることも多く、彼女の持つ柔らかさと「ワンピース」の効果音が飛び出してきそうなメリハリのある動き。
 そして、「空の青さに理由はない」を水野愛理はこんな感じで仕上げてみせたか、という驚きもありました。伝えるべきところは伝えつつ、観客を煽ったり、パートナーの青木莉樺さんとのやりとりも良くて、本当にこの才能があと一ヶ月ぐらいしかSKE48で観られないのかと思うと、切なくなります。先ほどの「君は未来に試されている」での指差しとか、めちゃくちゃ絵になっていました。先ほど、挙げた青木莉樺さんも笑顔の表現、シリアスな表現、どちらも良くてですね。この人をどこまで連れていけるかは、これから同じキャリアの新人を入れる時の指標になるのでは、と元岡田美紅推しの人間としては、思いました(タイプは違いますが、実は通じる点があると僕は思っています)。

 「Over the Top」も「We Don't Have A Time!!」も知っている曲のはずなのに、今のK2メンバーで観ると、とても新鮮な曲に感じました。そして、アンコール明けの「いいね、それいいね」でまた、この公演のノリ方をメンバーもファンの方も分かってらっしゃるなあ、と感じる場面が何度かありました。ちなみに、ここではふゆっぴとさあやの楽しさと美しさが融合した表現にやられました。9期生、どんどん面白くなってきてますね。
 生誕祭ブロックでは役者としての表現者あーーやへの期待を感じさせるスピーチでしてたね。個人的には、今、国内だけで閉じるよりは何らかの海外へのアプローチは持っている方が良いと思っているのにで、日韓共同製作のドラマで日本だけでなく韓国にもファンが増えるといいなと思います。PD48でファンが増えたメンバーのように、外にアプローチできるチャンスがあるのは、嬉しいことですよね。
 
 公演を観終わって、僕は「明日もう一回観るか」とふと思いました。
 複製技術の発達によって、確かに生で観る時に感じる「アウラ」は消滅したかもしれません。でも、やっぱり複製でも、遠くから配信で観る観客からしたら、どこかに「アウラ」を見つけると思います。それは生誕祭だったあーーやの特別な日という要素だったり、水野愛理から感じる残り時間だったり、これから成長していく鈴木愛來さんから感じる瞬間だったり。「いまここ」という一回性は、確かに感じられたのではないかと僕は思います。

 現在、僕はSKE48との関係は「マタギドライブ」状態で、マタギのように様々なカルチャーを周遊しながら、たまに山里におりてきて、「こんな珍しいものが山にあったんですがどうですか?」とSKE48ファンの方々に投げかける感じだったんですね。それがSTU48の週もあれば、自分のデビュー作の準備が忙しくて、山や森から降りてこられない日もありました。でも、僕のアイドルファンとして一番長く過ごしたところは、間違いなくこのSKE48です。毎回の公演には「アウラ」の気配があり、それを感じ取る楽しみがあります。それに触れずにいると、どんどん成長していくメンバーたちと公演、そして、ファンの方々に置いて行かれます。そう感じるぐらい、僕はSKE48に対する「更新」を怠っていたなと反省しています。
 かつて僕は、SKE48を「更新」するのが楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。ところが、ある時、つまらないと思ってしまうようになりました。それは、推しの不在だったのか、自分が拗ねたのか、それとも推したい物語性がもうなくなったからか。僕にはわかりません。一番最後に書いたことは、やっと何か今年の夏ぐらいからまた動き始めた気がしています。もし、そうだとしたら、SKE48から離れたファンの方々もゆっくりと戻ってきてほしいなと思います。昔と比べて変わってしまったのは、わかります。でも、悪くなったとは思えません。昔と比べて競合も増えて、公演も技術も進化し、あとは、また好きになれる何かなんだと思います。
 岡本彩夏さん生誕公演を観て、そのヒントになるものが「更新」されました。
 来週はチームSかチームEを観てみようかと思います。
 
 

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栄、覚えていてくれ
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