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おすすめの舞台「BLACK SMITH」

 ※最初に僕がこの公演を観られたのは、先月僕が弱った時にサポートをしてくださった皆さんのおかげです。本当に感謝しています。

 劇団壱劇屋さんを知ったのは、去年の「猩獸」がきっかけでした。
 SKE48ファンの僕は、よこにゃんこと北川愛乃さんが出演するということで応募してみました。関西在住のファンだと、なかなか生でメンバーの舞台を観ることはないので、一つ申し込んでみるか、と思いましてね。
 「観劇三昧」で、過去作を観るとめちゃくちゃアクションが凄い劇団で、ストーリーも本当に素晴らしいと思いましてね。
 実際に2回観に行きました。
 

 で、コロナの影響で年をまたいで、2021年についに上演ということで、ワクワク迎えられるはずだったんですが、僕は人生のどん底状態で、チケットを買うか買うまいかギリギリの状態だったんですね。しかし、斎藤工が某映画で言っていた「勝負しねえ奴にできるのは長生きだけだ」という台詞を思い出して、急遽、観劇を決意。
 2月19日の午前3時頃のことでした。
 そこから、ちょコムなる電子マネーをぴあのマイページと連動させて、申し込ました。
 で、翌朝の9時頃に発券。
 西ブロックの3列目4番でした。
 おお、これは良席かも、と期待して京橋へ向かいました。
 JR京橋駅から行く人は、少し歩くので立体歩道橋を使うのが便利ですよ。

 まず、物販の列に並んだんですが、ここはキャストの皆さんの素敵なメッセージが貼ってあるので、ぜひチェックを。僕はエル役の竹下健人さんのメッセージにいきなり泣きそうになりました。

 そして、会場に入ると、4面に客席が置かれて中央には大きな櫓のような物も置かれています。
 西ブロックは少し空席があったんですが、このご時世なので、わりと安心して観られたので、よしとしましょう。

 ちなみに、2日目、3日目も南ブロックは完売していますが、他のブロックでも、キャストの皆さんが全ブロックやってくるので、どこでも楽しめると思いますよ。
 ブログの方は、SKE48ファンの読者の方が多いですが、こちらのnoteは映画ファンのフォロワーさんが多いので、スクリーンだけでなく、同じ空間でエンタメを楽しみたい関西在住の方には是非、おすすめです。
 まだ間に合う。

 【ここからは、ネタバレ全開で行きます。】

 まず、噺家の竹村晋太朗さんが出て来るんですが、もう「待ってたぜ!」と拍手ですよ。竹村さんと言えば、めちゃくちゃアクションが出来る方なんですが、今回はアクションではなく喋りのアクションで魅せてくれます。

 ワクワクするオープニングは、youtubeにも上がってましたが、もうね、格闘技イベントPRIDEの入場みたいでカッコ良かったですよ。

 で、いきなりなんですが、鍛冶の神様ってお話好きなんですよね。で、噺家はずっと振の物語を語ってますよね。天神すらも超越している(なんなら『私の目付』と言っていて彼にしか見えない)、ということは…。というのが、僕の推察です。


 先に、噺家のキャラクターについて書いたので、キャラクター軸で書いていくと、僕が居た西ブロックは名キャラクター達の宝庫でしてね。
 まず、鉄砲鍛冶のお二人なんですが、とにかくカッコいい!
 お互いの銃を投げて片手でキャッチするところも良いんですが、「ジョン・ウィック」シリーズのチャド・スタエルスキのように、ちゃんと敵のふとももとかを撃って、相手の動きを止めてから命中させる説得力。
 台詞や落ち着き具合から、戦いのベテラン感が良いんですよね。
 前半でいきなり殺されて、物語に緊張感を生み出しますが、後半に復活してからが本領発揮。この人達が強くないと、農具鍛冶チームのあのシーンでの絶望感が味わえません。2丁拳銃の持ち方や姿勢もカッコ良かったです。ちゃんと、リロードしてるように見えましたが、あってますでしょうか。是非、これから観られる方は注目を。ちなみに、物語が終わってから舞台を回る時のお二人の笑顔が素敵でした。うーん、ギャップが素敵ですね。

 次に農具鍛冶チーム。
 一番近くで観ることが多かったんですが、二人の関係性がなんとも素敵でしてね。特に色雀が撃たれるシーンと、そこからの伝七の本気がめちゃくちゃカッコいい。もう、この辺りでマスクの中は涙でぐちゃぐちゃでしたよ(1回使ってみたかった表現)。
 山本貴大さんの出てきた時は、本当に気の良い農業の人感から、一気に戦士の表情に変わるところが最高でした。色雀を演じたのが、元NMB48の上枝恵美加さんだったとは!後で、キャスト表を見て気づきました。本当に素晴らしい演技で、彼女の魂が伝七に語りかけるところとか、もう涙がね。

 大工鍛冶の大工廻さんなんですが、アグレッシブに動いてましたね。貫地谷さんをライバル視しているんですが、ナンバー1を目指すが故に、わりと強敵と戦っているイメージでしたね。彼だけ四方のブロックで単独ですしね。
 目標である貫地谷さんが亡くなったと知った時の演技が凄く胸に来ました。そこまでのシーンの坂口修一さんのワイルドな喋り方があったから、あのシーンが凄く印象的でした。

 同じく北ブロックの鍋鍛冶のコンビは、よくこちらのブロックにも来てたんですが、まずムラキちゃんの声がカワイイ!こんなにカワイイ声だったのかと元NMBの谷川愛梨さんの役の作り込みに驚きました。
 闘う場面でも小さい鍋のヌンチャクみたいなので、大活躍してましたね。
 散髪屋さんのシーンで、丁度僕のいる辺りにムラキさんがアクションモブの方の髪を切りにくるんですが、どうみてもジワジワと鍋で攻撃しているようで(多分、髪を切っている)、笑いをこらえるのに必死でした(アクションモブの方もちょっと痛そうにしてましたしね)。こういう楽しみがあるので、どこのブロックでも「自分だけの目撃」が出来るので良いですね。
 

 そして、多々良さんですが、まず演じる日置翼さんの背中がカッコいい。
 彼の背の高さもあるんでしょうけど、西ブロックではよく彼の背中をみたんですが、どんどん頼もしくなっていくんですよね。最初は名刺を渡す為に曲げていたり、落ち込んでくずれていた背中がピンとしていく過程が、たまらなかったです。
 それから「狐のマークでお馴染みの」のところがおちゃめでしたね。
 

 東ブロックの鋏鍛冶の親子なんですが、これがまた泣けるんですよ。
 まず、母良さんの子供への想いが、一つ一つの台詞から、ガンガン伝わってきましてね。「良いところを本人の30倍知っている」という台詞だったり、腕を食べられても「大丈夫だから」と言ってたりしているところがもう涙でしたよ。
 鬼の人達も差別せず、鍛冶師たちの鬼たちへの見方が変わったきっかけになる人でもあるんですよね。カテゴリーに縛られないこの人の温かな視線があったからこそ、物語は徐々にもう一つの視線を獲得していきます。
 本当にこの親子の関係はほっこりしますね。

 紅粉谷を演じる藤戸佑飛さんですが、西ブロックから観ると、東ブロックに佇む様はまさに女性でしたね。
 愛に対して疑念を抱く感覚とか、向こうが我慢していた分、今度は自分が頑張らなければと暴走するところは、もう観ていて自分を重ね合わせて泣きそうになりましたよ。
 はさみという二つの刃が親子の関係のようで、彼の手から離れた時に「共依存」ではない本当の信頼関係が出来た気がしました。ちなみに台本で観ると東ブロックのエンディングも良さげなんですよね。

 そして、東ブロックの金細工師&銀細工師コンビ。
 まず、金雷吉さんはもう、武器が反則クラスですよ。
 アクションシーンが本当に面白くて、高低差を活かしたものは特に良かったです。良い意味で狂気を感じるんですが、天神に牙を剥くところが良かったですね。
 少しだけ出てくる彼らの過去の回想のようなシーンが、ただ単に悪い人ではなくて、おそらくこうなるまでの物語があったんだろうなと、ここでも泣いてしまいました。

 銀風吉さんは更に狂気を感じましてね。
 食欲が全面に出ると、こうなるのか、と。
 分かりやすいけれど、だからこそ、怖いというのがありまして。
 自分の身体に電流を流してパワーアップという「仮面ライダークウガ」もびっくりのシーンが印象的でしたし、母良の腕を食べた時は「うわっ、一線を越えた!」と思わせる印象的なシーンでした。
 ここが無いと、紅粉谷の怒りが引き立たないですもんね。
 物語が終わった後の笑顔が、爽やかでした。

 一番人気の南ブロックのブリキ鍛冶コンビ。
 まずは、よこにゃんこと、北川愛乃演じるオーブ。
 良い意味で予想を裏切られました。
 もうね、「ぐるぐるぐるぐるどっかーん」が最高ですよ。
 あと、オープニングで「よこにゃんビーム」してくれてましたよね?
 暴走してから、エルのお腹の辺りを突くような姿勢も、美しい。
 ロボット演技もしっかりとしてて、電源が切れる感じとか、喋り方とか新しいよこにゃん像が楽しめたと思います。ロボットだからこそ、人間味が見えた時に嬉しくなる。
 ロケットパンチは、ああなるのか!と驚愕しました。
 南ななこさん版が果たしてどんなオーブになるのか、観に行かれる方は、是非、違いも注目してみてくださいませ。

 そして、オーブを生み出したエルさんですよ。
 もうね、竹下健人さんが良すぎる!
 一つ一つの台詞の喋り方、佇まい、もの凄く引き込まれました。
 エルへの想いの熱さも素敵なんですが、リセットキーを発動させた後の台詞ですよ。もう、涙が(何回目?)。
 実は愛する人を失っていて、愛する人のことしか見えていない危うさはあるものの、あの世界ではわりと話が通じそうな人でしたね。

 で、鬼サイドなんですが、右醍、左醍コンビは、それぞれ武器や戦い方に個性がありますし、二人とも黒の衣装がセクシーなんですよね。特に飛んだり走っている姿がセクシーでした。
 左醍は、いきなり出て来て銃鍛冶を殺すという、「鬼こええええ!」と僕に印象付けましたし、右醍はわりと南の方みたいな関西弁が心地良かったですね。鬼にも方言あるんだ、と少し多様性を登場シーンで感じました。
 最後のシーンで、最初の印象とはまた違う感じなんですよね。お弟子さんの頭をポンポンしてるとことか。

 酒呑童子の小林嵩平さんは、めちゃくちゃ良い声してますよね。
 「暴」のシーンとかでの暴れっぷりや師匠の貫地谷さんの思い出を語るシーンも凄く良くてですね。彼がいるからこそ、振に師匠の想いが伝えられるんですよね。
 刀が折れている状態での戦いも良いんですが、「実は被害者だった!」という衝撃を語る時が印象的でしたね。
 終演後にポスターを見ると、まったく違う印象を受けます。

 師匠の貫地谷さんなんですが、回想シーンがほとんどなんですが、一つ一つの言葉が良いんですよね。演じる岡村圭輔さんは実年齢よりも上の役だと思うんですが、物凄く伝わるというか響く語り方をしてくれるんですよね。あと、振が語る時の表情と酒呑童子が語る時の表情がそれぞれ違っていて、それも良かったです。終盤のゾンビみたいな感じで出てきた時は、僕の心が折れましたよ。「ああ、まじかあ!」と。凄いふり幅でした。

 そして、師匠とコンビを組んだ一ノ瀬さん。
 とにかく、声が雅やか。
 ああ、これは上流階級の侍だわ、と感じました。
 衣装の着こなしも含めて、為房大輔さんが素晴らしかったです。
 侍というものに縛られてしまって、迷いつつも結局は封建制度に縛られてしまうというのは、泉鏡花の小説を思い出しましたね(タイトルを忘れましたが、多分医者の話)。だからこそ、最後に信じていたものに裏切られるのが悲しかったですね。 

 そうそう、中央と言えば中御門ですね。
 人間の弱さを井立天さんが見事に表現されていましてね。
 自分も同じ状況で、天神に聞かれたら、同じような答えを言ってしまいそうな、「分かる分かる」という答え方でした。
 お茶目な感じなんですが、最後の最後で怖さを見せるところも印象的でした。台本を読みながら、「こいつはこの時、どんなことを裏で考えていたんだ」と推理しながら読むのも楽しそうですね。
 

 で、天神ですよ。
 赤星マサノリさんの演技が、最初は神秘的で徐々に本性を見せ来る感じで良かったです。神様がもつ無邪気さと無慈悲さを同時に感じさせられるような演技でした。
 あの鳥居技は、「どうやったら勝てるんだ」と見ながら思いましたし、徐々に精神的にメンバーを追い詰めて行くところとかも、怖かったですね。あくまで遊戯としてやっている感じが。
 凄まじいラスボス感でした。

 いよいよ、主人公の振ですね。
 まず、声の演技で魅せられますよね。
 「師匠」という言葉の使い分けや「今もです」の言い方で、まずこの主人公を好きになりました。
 そして、猪突猛進だし、時には間違えるし、落ち込むし、でも頑張って成長していくという、観ている観客の人生の中に必ず共感できるシーンがある主人公だと思いました。
 特に「負けるな!」と叫ぶシーンは、もう涙なしには観られなくてですね。なぜか、観ている僕も励まされているような気がして、本当にありがたいと思いました。
 最後に彼女が師匠と同じセリフを言っているところも、ちゃんと受け継がれていく感じがして良かったです。
 主演の西分綾香さんの演技と声には、本当に力をもらいました。

 最後にアクションモブの方々、いやあ、人間の力でこんなものまで発生させられるのか、という驚きがありました。また、時には人間、時には鬼と様々な役を演じ分けているところが本当に凄くてですね。
 一番印象的だったのが、髪を切るシーンで中央でメインの会話がされている中、ずっとファッション雑誌で髪型を選ぶ演技をしている方がいて、ただのわき役じゃなくて一人一人の人生のワンシーンをちゃんと演じているんだなあと、感動しました。

 次に、ストーリー軸で書いていくと、まず、細かくわけると8組も鍛冶屋が居て、さらに主人公たちや中央政権サイドもいるという複雑なキャラクターたちが、それぞれの関係性を壊されながらも再生していくところが良くてですね。
 生きていると「神様なんているのかな」と思うことがあると思うんですが、神様の悪戯って、時には残酷なんですよね。理不尽なことがあったり、人間関係が悪化してしまったりと。なんで自分だけが、ということもあって、鬼の皆さんなんか、まさに謂れのない差別を受けるハメになったわけですしね。金銀コンビもひょっとしたら、生まれた環境が違っていたらとも思いますしね。
 主人公の振も師匠が裏切者呼ばわりされ、世間から叩かれて髪が白くなってしまいます。苦しい現実から逃避せずに立ち向かう姿勢には、勇気をもらいましたし、僕らの人生のどこかには居たような人だからこそ、共感できました。
 一つ一つの設定、人物の造形、心に響く台詞と物語、これを生み出した竹村さん、凄すぎです。特に着想したのが、コロナ禍よりも前の段階なのに、2年経った今でも通じる、なんならリンクするこの物語の強度を感じました。ひょっとすると、数百年後に再演しても人々に響くクラシックになるかも知れません。そういう意味では、時代を遠くにしているのも良いですね。次は竹村さんが、暴れるところも観てみたいです。
 物語が終わり証明が全部消える時に、「ああ、現実に戻る」ともっとあの世界に居たいと思わされました。

 物凄く私事なんですが、1月ぐらいに僕は一度人生を完全に諦めて、職もお金も全部失って、人生を諦めました。何度も神様を呪いながらゆっくりと衰弱していきました。なんで、助けてくれないんだと(幸いギリギリで気づいた家族に助けられましたし、読者の皆さんに支えていただきました)。
 でも、今日の「BLACK SMITH」を観て、文字通り力をもらいましてね。地面に足を着けるという感じで。そうか、「負けるな」だよなと。登場人物たちがそれぞれの喪失を体験しつつも、立ち上がっていく。だから、もう一度、僕も新しい環境で頑張ろうと思いました。
 よくTwitterでお話する方が「声の力、言葉の力を信じている」と僕に伝えてくれたことがあります。僕は言葉では心もとないから文章にして表現します。しかし、今日、舞台を観てこういうことか、と実感しました。関西から離れる前に、最後に本当に良い舞台に出会えて良かったです。
 遠く離れても、今日の体験を思い出して、負けずに生きていきます。

※昨年、上演された「猩獸」の感想はこちら!

こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。