vol.8 君がみてくれていた

 先日、アカデミー賞歌曲賞、助演男優賞にノミネートされた「あの夜、マイアミで」を観ました。
 1964年2月、カシアス・クレイがモハメド・アリに名前を改名する前夜、友人である活動家のマルコムX、NFL選手のジム・ブラウン、歌手のサム・クックがあるモーテルに集まったそうです。この実話を元に才能がまったく違う4人が、他の才能に刺激を受け、時には自分に足りないものを指摘され口論になりながらも、自分たちの未来について語り合う映画は、残念ながら受賞は逃したものの、衣装デザイン賞を受賞した「マ・レイニーのブラックボトム」と世界観が、ある登場人物が歌う曲で見事に繋がりますし、4人誰もが時代を動かす主役であり、それぞれの活躍を見守る仲間でもありました。そして、だからこそ、結末がとても切ないんですがね。

 この映画に限らずですが、自分の周りにいてくれる人によって、自分の個性や才能が磨かれていくということはないでしょうか?
 ここでいう「周りにいてくれる人」というのは、別に生きている人である必要はありません。本の中にはもう死んでしまっていますが、昨日のことのように熱く語ってくれる先人たちがいます。直接ではなく、間接的に自分のことを高めてくれたり、指摘してくれたりします。

 それはSKE48の中でも同じです。
 アイドルという一般人と比べると密度の濃い1年を毎年送り、同じステージに立つ仲間でありライバルが居て、順位や選抜や売り上げで時には比べられ、自分には無いものも感じ、それでも周りの才能たちに刺激されながら成長していきます。

 なんでこんなことを感じたかというと、鎌田菜月さんのある生誕祭の手紙を読んだからです。まずは、読んでみましょう。

「菅原茉椰さん、お誕生日おめでとうございます。

 とてつもないインパクトのオンザ眉毛で宮城からやってきたチームEの末っ子が20歳、ハタチ。

 昔の『あどけない可愛い』から成人式での姿はもう綺麗なお姉さんでした。本当に本当におめでとう。とっても嬉しいです。

 まーやんのSKE48人生は凄く波乱というか濃いなって、勝手に感慨深くなりながらお手紙を書いています。

 ラブ・クレッシェンドへの抜擢を始め、キラキラとした道かと思えば、SKE選抜への険しい道もあって、そこから続く19歳の1年もなかなかに波乱だったんじゃないでしょうか。

 前に菅原は自分で自分に『菅原は推されなんです』と言い切ってましたね。

 菅原の素直にそう言い切るところが新鮮で。でもただ言うだけじゃなくて、その自覚を持って、お仕事に向かう姿勢をずっと尊敬しています。

 やりたいことははっきり『やりたい』と言えて、悔しいことははっきり『悔しい』って言える。スタッフさんにも面と向かって自分に足りないものは何かとかズバッと聞ける。全部やるにはとても勇気がいることです。

 一緒にご飯を食べに行けばコロコロ変わる表情が楽しいし、ふざける時には全力で街中でも踊ってくれるところが愛しい。

 菅原のお仕事、そしてひとに 対する向き合い方はあなたにしかできないことがたくさんあります。そんな人柄に惹かれて、周りにたくさんの人が集まるんだよ。
 

 そうやって菅原に集まった人達は、私たちは菅原が大好きで、菅原の味方です。何か力になりたいし、菅原にいっぱい笑って欲しいし、笑顔にさせたい人達です。

 このお仕事をしていると色んな人に色んな言葉をかけてもらうことがあると思います。

 きっと発した本人には何の悪気もない無自覚な一言に傷つくこともあると思う。

 その人にとっては何気ない言葉が、どうしようもないくらいに心をあけることもあると思います。

 それを『お仕事だから仕方ない』心に蓋をしてそう割り切ることが正しいと思っていたけれど、違うかもしれないと菅原のおかげで考えるきっけになりました。

 痛いなものは痛い。つらいものはつらい。それでいいんじゃないかな。

 菅原の人を信じられる素直さ、優しさはそのままでいいんじゃないかな。

 家族や周りの人に接するみたいに自分のことも大切にしてあげてください。甘やかしてあげてください。私もい~っぱい甘やかしたいと思います。

 はるばる宮城から名古屋に来てくれてありがとう。

 今年こそ宮城の観光地を案内してもらいたいな。

 またお風呂屋さんやお買い物やご飯も行きましょう。

 お酒も飲みに行かなきゃね。

 一緒にお仕事ももっともっとしよう。

 皆で制服を着てのお出かけも頑張ります。

 本当に本当にお誕生日おめでとう。

 20歳のお手紙を書かせてもらえて嬉しかったです。

 SKEチームE 鎌田菜月より」

 これは2020年1月21日の菅原茉椰の生誕祭の時に読まれた鎌田菜月の手紙です。
 手紙に書かれた一つ一つの思い出から、読んでいるだけで、まーやんのあの眼を細めた愛くるしい笑顔が、僕は浮かんできました。
 でも、それだけではありません。
 きっと近くにいたからこそ、菅原の才能をファンの方々と同じように触れ、きっと舞台裏の機微についても感じたのかも知れません。
 想像力のリーチの長さ、と彼女の素直さを自分の辛いことにも我慢せずに出しても大丈夫だという鎌田さんの優しさが溢れた文章です。
 これは普段からメンバーのことを観ている彼女だからこその手紙だと思います。
 そして、菅原という存在は、実はSKE48というグループの未来を占う上では非常に重要だと僕は考えています。
 一度休養したメンバーが成功していく、というのは、今、休養を考えているメンバーや休んでいるメンバーの安心にも繋がりますし、帰ってきてくれたということが、ファンの安心にも繋がるということを今回の手紙で再認識しました。


 次は、2019年7月23日に書かれた手紙を読みましょう。

「はたごんへ

 お誕生日おめでとうございます。

 多分まさかの人からのお手紙です。

 私なりの、もしかしたら独りよがりになってしまうかもしれない言葉ですが受け取ってもらえたら幸いです。

 はたごんは同期の中ではお姉ちゃんみたいな、先輩といる時は仲良い人にもしっかり気は使う人。んー、後輩といる時はよく知らないです。

 ぽんこつと言われることもあるけれど、実はとてもしっかり者なんだなーと思っています。

 その気遣いが根本にある優しさに皆が笑顔になっちゃって、思わずやらかしても許してしまうんです。

 実はそれを『おいしい』と思っていたりもしませんか?それがまた面白かったりもします。

 実はアンダーに出たのも早いし、ライブのリハーサルがあると事前に誰よりも早く練習を始めたり、SHOWROOM配信を長いこと毎週継続していたり、どんなことにも正面からしっかりと向かっていく姿は皆がやらなきゃと思っていてもやれないことで、はたごんの本当に凄いところです。

 今はたごんの目の前には選抜という1つの壁があるんじゃないかな。

 一緒にご飯に行ったりすると、その話題が出ることもだいぶ前から何度かありました。そのたびに真っ正面すぎるぐらい本気でまっすぐ。ふと思い出してみるとはたごんと真面目なお話をしていて、あまり後ろ向きな発言を聞いたことがないんです。

 そこに溜め込んでないかな。まだ話してもらえる関係ではないのかな。なんてちょっと心配になったりするけれど、それがはたごんの持つ強さなのかなと思っていたりします。

 アイドルとして誕生日を重ねることはちょっと不安になったりします。でもどうかブレないでください。目標がどこかとかでなく、これからもはたごんであることを楽しんで楽しんで貫いていってください。これは私からの勝手なお願いです。

 今年はたごんにとっては選抜へのチャンスになったであろう選抜総選挙は開催されませんでした。それを残念だと、そう言える道をファンの方と歩き固めてきたこと、お祭りみたいなイベントではあるけれど、誰もが多少なり怖がってしまうそのイベントを待ち望めていたということ、頑張ってきたことに無駄なことはなかったと言える、それもまた1つの結果です。

 その頑張りはファンの人はもちろん、スタッフさん、メンバーまでしっかり響いているよ。

 だからずーっといい子でなくてもいいんじゃないかなとも思うの。もうちょっと周りの人に甘えてもいいんだよと。

 それを嫌と思う人はきっといなくて、それくらいはたごんは愛されてる人です。

 はたごんにとって愛あふれる幸せな1年いなることを願っています。

 地元香川の美味しいうどん屋さんにまたお仕事のついでに連れてって行ってもらえることもつよーくつよーく願っております。

 最後に。お手紙を書かせてくださった生誕委員の皆様、私でいいのかと驚いたりもしたんのですが、書かせてもらえてとっても嬉しかったです。素敵な機会をありがとうございました。

 はたごん、改めてお誕生日おめでとう。

 チームE 鎌田菜月」

 まず、鎌田さんのはたごんの「ぽんこつ」に対する視線の鋭さが流石ですね。
 それだけでなく、努力家であることもきちんと観ている。
 この辺りは同じメンバーでないと分からないことですよね。
 総選挙と選抜との関係も当事者の立場でありながら、冷静に分析できているのも流石です。
 更に選抜への壁は、かつて自分が突破した壁だからこそ、分かるものがあるのではと思います。彼女自身もそう簡単に手に入れた場所ではないからこそ、苦しさが分かる。
 はたごんは、この約半年後に選抜になります。

 上記の簡単には越えられない選抜への壁。
 それを感じる手紙があります。
 次は2018年1月13日の手紙です。

「谷真理佳さんへ

 お誕生日おめでとう。

 この1年で私たちの周りではたくさんのことがありました。

 こうして今周りを見てみるだけでも去年とだいぶ顔ぶれが変わったと思います。仲良しのメンバーやずっと支え合ってきたメンバーが続けて新しい道へ進んでいく姿に寂しさや不安、色々なことを考えさせられました。

 谷さんにとってはきっと名古屋での家族みたいな人たちばかりで、そのたびに涙が枯れないと言いながら泣く姿に胸が痛くなりました。

 卒業公演などでは泣くからと、最初からアイメイクはしないという荒業にはビックリさせられました。

 その空いた穴をその人たちの変わりにと埋めることは私たちにはできません。それくらいその人たちは特別だし、きっと大切な存在だったと思うんです。

 だけれど、忘れないでほしいです。谷さんが思っている以上に周りの人は谷さんのことが大好きです。

 今年の誕生日に『こんなに連絡をくれるなんて思わなかった』、そんなことを言っていたけれど、そうなんです。それは谷さんの面白いところはもちろん、無自覚かもしれないけど、谷さんの何気ない優しさに集まった人たちです。もっともっと自分を好きでいてあげてください。そして、周りの人を頼ってみてください。私含め、嫌な顔する人は誰もいないよ。

 『意外にマンゴー』のMV撮影があるとなんとなく聞いた夜に電話をかけてきてくれたこと、その数日後にガシガシとマンゴーを一緒に食べたこと、懐かしいです。あの時、誰かに電話する勇気が私にはありませんでした。電話越しに隠しちゃったけれど、私も泣いていたんだよ。あの電話があったから気持ちを整理して折れずに、進むためにと前を向けました。

 今回の選抜のことも凄い早さで連絡をくれてビックリしました、いつも私が怖気づいて動けない時に谷さんはそっと連絡をくれたり、動いてくれます。本当にありがとう。

 ずっと最初の癖が抜けなくてさん呼びだったんですが、これを機に『まりかちゃん』とか『にーたー』とか「まりか」って、どれかしらで良かったら呼ばせてください。(中略)

 そして、SKEで期ごとに集まる時はドカーンと6期のところに是非来てください。みんなで待ってます。

 これからも自分らしく、自分だけの、谷さんだからこその道を是非開拓していってください。道を作っていくのは本当に大変なことだし、ときどき疲れちゃう時もあるかもしれません。そんな時はまたブラっとご飯でも行きましょうね。いつでもどこでも鎌田はとんできます」

 それまで選抜に入っていた谷が選抜から落ち、選抜への階段を登っていた鎌田さんも手が届かなかった。
 過程こそ違えど、選抜には届かなかった二人。
 そんな二人の知られざる物語があったとは。
 そして、「穴」を消して埋めることは出来なくても、自分たちのやり方で盛り上げていく。
 2021年4月末現在、谷は選抜に戻ることは出来ていません。しかし、事務所所属、ソロDVD発売、知多メディアスや「お宝ちゃん」といったレギュラー番組、FM AICHI「今夜も大騒ぎ!!」もあります。2018年頃から谷のラジオ出演に外れなしみたいな感じですが、それが更にレギュラーに繋がっているのは流石です。
 選抜という目標も大事ですが、この人の場合、独自の道で選抜メンバーを凌駕するような活躍をしていくのでは、と最近思っています。
 鎌田さんの手紙の中では一番好きな手紙がこれです。

 

 ここまでは鎌田さんが仲間たちに宛てた手紙を紹介しましたが、今度は鎌田さん宛ての2019年9月6日の手紙を読んでみましょう。


「なっきぃへ

 今回手紙を任せてもらえるって聞いた時は『ついに来たか!』と喜びました。それぐらいあなたに手紙を書けることが心から嬉しいです。

 なっきぃとは素直に何も考えずに気を使わずに話せて、仕事の合間や休日にわざわざ会って、美味しい物ものを食べたり、そしてまさか温泉に行って裸の付き合いをするような関係になれたことにビックリしています。

 そして、こんなにどうしてこうやって仲良くなったんだろう。最初に出会った時、私がご飯誘っても毎回のごとく断られた思い出が懐かしいです。誰かわかったかな?
 

 なっきぃと一緒にいると楽しくて、顔を見ると安心するし、落ち着きます。いつもありがとう。

 なっきぃはこの1年もの凄く頑張った1年だと思います。

 私から見て、いつもなっきぃは落ち着いているように見えて、実は誰よりも一番熱い。そして知的で真面目でしっかりしてるって思えばドが付くほどの天然です。何もないところで派手にコケて怪我するし、方向音痴だし、おまけに雨女だし、見ててヒヤヒヤします。だけどそこが愛らしいです。きっとファンの皆様も同じ気持ちだと思います。

 ただ、弱音を吐かないのがとても心配になります。特に6期生はSKE48を引っ張立ち位置として毎日特別なプレッシャーを感じてると思います。

 その中でも選抜としてその位置にいること、この位置を守ること、とても大変だと思います。

 何かに選ばれた人は何かを残さなくちゃいけない。なっきぃもよくわかっていることだと思います。

 きっと迷うことも、悩むこともあると思いますが、その中でも選抜としてアイドルとして一人の人間、鎌田菜月として輝いている姿を見れてとても誇らしいし、本当にかっこいいです。

 これからも鎌田が鎌田らしく、ファンの皆さんに笑顔を届けてね。

 一応ほんの少しだけ先輩で、ほぼ同期なそんざいですが、いつでも相談してね。

 改めて23歳のお誕生日おめでとう。

 23歳いっぱい笑いましょうって

 谷真理佳より」

 
 「何かに選ばれた人は何かを残さなくちゃいけない」。

 もう、2年前の言葉ですが、彼女は自分の言葉通りに内外で「何か」を残していきます。

 外仕事では将棋での藤井聡太王位・棋聖との対談や競馬仕事や漫画関係の仕事、普段、SKE48に触れない方々への「入り口」になっています。

 そして、内の仕事では、やっぱりセンターですよね。

 9年目の公演全体曲センター。
 でも、「出遅れ組」の彼女がセンターに立つというドラマは、今、伸び悩んでいる後輩たちにアドバイスする言葉にも説得力が宿ると思います。


 更に、誰もが脇役ではなく物語の主役になりうるのだ、その自覚があるものだけが、自分のいる世界を豊かにできるのだという映画「TENET」の終盤を思い出すようなドラマが素敵です。
 別に鎌田さんだけではありません。
 まーやんも、はたごんも、谷も、それぞれの進む道で主役として活躍しています。4人とも「若手」というよりは「中堅」のポジションです、なんなら「ベテラン」に入れた方が良いメンバーもいるかも知れません。
 でも、今日も物語は続きます。
 シングル選抜について考えることが僕は多いんですが、「チーム」という仲間の大切さを痛いぐらい今回の4通の手紙から感じました。
 嬉しいことだけでなく、辛いことや苦しいことも分け合い進んでいく。生まれた場所も歩んできた道も違うけれど、SKEのチームEで出会った。
 この才能が違う4人が、いつか選抜に集結するドラマも見てみたいですが、「チームE」の組み合わせの奇跡を感じながら、今回は終えたいと思います。

 


こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。