映画「ハウ」感想(後半はネタバレあり)
久しぶりの映画鑑賞で、映画「ハウ」を見てきました。ものすごーーく朝早い回だったこともあり、なんと観客は私一人。おかげでどっぷりと作品の世界に浸ることができました。
突然ですが、私は昔から、期待したり、相手に喜んでほしいと思ったりしている人が裏切られたり悲しい結果になったりすることがとても苦手です。自分もそうだけど、そうやって傷ついたりがっかりしたりする人を見ることが辛い。リアルの世界でも虚像の世界でも。そんな私の書きたいことだけを書いた偏った感想だ、ということを前提にしていただけるとありがたいです。
婚約者に捨てられどん底に落ち込む赤西民夫(田中圭)。そんな彼に上司の鍋島(野間口徹)と妻の麗子(渡辺真起子)が紹介してくれたのが、保護犬のハウ(ベック)だった。前の飼い主に声帯を切られ、ハウっとかすれた声しか出ない犬を民夫はハウと名付けて一人と一匹の幸せな日常が始まって。だけど、民夫の不注意からハウは遠く青森に行ってしまい、そこから民夫にもう一度会いたいという思いで民夫のいる横浜を目指し、ハウの旅が始まる、というお話。
民夫といるときのハウ、ハウといるときの民夫、この一人と一匹がときおり目と目を合わせるときの表情がとてもよくて。お互いがお互いを好きで必要としていることがヒシヒシと伝わってくるんです。圭さんとベックの絆がそのまま作品にも表れているんでしょうね。実は、実際に見てびっくりしたのは、この幸せな時間が作品全体で見てすごく短いこと。短いけどかけがえのない時間。だからこそ、なんであそこでリードを離したの民夫!と苦しくなるし、民夫じゃないのに「もしあのとき…」「あそこでこうしたら…」ともしも、の展開を思い描きたくなる。
ハウが偶然から青森に運ばれ、海を見ながら民夫を思い出す、そして歩き出すシーン。あの海を見つめる背中、そして悲しそうな瞳。「民夫に会いたい」というハウの気持ちが想像できすぎてここで号泣(プラス嗚咽)。
旅の中でハウはいろいろな傷ついた人たちと出会い、その傷を癒していく。
福島の帰還困難区域から避難してきていじめに会っている麻衣(長澤樹)
シャッター商店街で傘屋を営む夫を亡くしたばかりの志津(宮本信子)
夫のDVから逃げて修道院のシェルターに身を寄せるめぐみ(モトーラ世理奈)
もう、この旅の中でのハウの演技が素晴らしすぎて。改めてこの映画の主役はベックなんだ!と。表情があるんですよ。民夫を思い出しているとどことなく遠い目になったり、麻衣や志津を心配そうに覗きこんだり。志津の側で眠っているシーンとか本当に可愛くて癒し。もちろん、本当にそう思って演技してたのかは分からないけど、こちらがそう受け取れるような表情ができることにびっくり。
みんなハウと出会って、抱えている問題が解決はしないけど、ちょっとだけ前へ歩み出して。志津さんのとことか修道院とか、そのまま居着くことができそうな場所もあったと思うけど、どこにも長居をしないハウ。最初の頃は聞こえていた民夫の声が聞こえなくなってきても、やっぱり民夫に会いたくてたまらなかったんだろうなあ。
監督さんも脚本家さんもパンフレットでハウのことを聖犬だったり、人を癒す使命をもった犬だったりと述べられていますが、ハウ自身はただ人が大好きで、人の笑顔や優しさが大好きなだけなんだろうなぁ。癒さなきゃって思っているわけではなく、ただ笑っていると嬉しい。民夫に会いたいけれど、旅先で出会った人たちや前の飼い主もみんな好き。誰のことも恨まないから、過去にひどいことをした相手も傷ついていれば助ける。あのDV彼氏を助けたあとのハウの佇まいの迫力がもう。あの彼氏からはそう見えていた、ということでしょうね。
みんなハウに憧れる、そうなりたいと思ってもなれない、というパンフにあった言葉にとても納得しました。
〜ここからネタバレ〜
私は民夫を演じる田中圭さんが好きなので圭さんの役に感情移入して見ていることが多いのに、今回に関しては最初からかなりハウに感情移入していて。たぶん、番宣などでベックの可愛さにめろめろになっていたのと、あと、結末を大まかに把握してから見ていたのとがあると思うんですが。可愛いハウがこんなに頑張っているのに、最後は結局一緒に暮らせないんだよね…って思いながら見ていたということです。だからもう、ハウが出てるシーンはほとんど泣いていたんじゃないかと思うほど。胸が苦しくて苦しくて自分でもびっくりするくらいの感情でした。
ハウがいなくなるきっかけの野球のボール、あれを拾いに行ったから、なわけですが、あれさっと走っていったわけじゃなくて、一回寝ている民夫を見るんですよね。「とうちゃん行ってもいいの?」って問いかけるように。子犬なのでそこで我慢はできずに行っちゃったんだけど。あそこも胸がきゅーっと苦しくなった。
極め付けが、ハウがやっと民夫と住んでいた家に戻ってきたら、民夫はいなくて今の飼い主の男の子とお母さんが引越しをしていたシーン。ここがもうだめで、実は思い出すだけで今書いていても泣いちゃう。私にとっては、前述した期待して裏切られる、の最たるもので、家に辿り着きさえすれば民夫に会えると思っていたハウにとってあの瞬間はどんなものだったのかな、って。民夫にはもう会えないと悟ったのかな、それとも待とうと思ったのかな、そこは想像でしかないけど、一つどころに長居しなかったハウがあの男の子との日常を過ごしていたということはそういうことなのかな、と私は思いました。
最後の民夫にもう一度会えて、全力で飛びつく場面は、ハウよかったね、と思ったし、ちゃんと民夫と会えて、民夫の言葉で「さようなら、ありがとう」というようなことを言われたうえでの別れだから、私は温かさを感じました。ハウの表情も悟るというより納得したのかなと思って、ここから少年とハウとの物語が始まっていくのだなと思えて、そこはよかった。あそこで民夫がハウを取り返してしまうのはあってはならないと思うので。(でも欲を言うなら、本当のことも話してたまに会いに行くなんて未来もあってもよかったかな…でもそれだとハウが戸惑うかな)
ハウはきっといろいろな人と物語を紡ぎながら優しさを届けていく役目を背負って生まれてきたのかもしれませんね。まだ心の狭い私はその事実を受け入れるのに少し時間がかかりそうですが、いつかは…。
民夫と桃子の物語はとても好きでした。生きることに不器用な人同士、手探りで関係を深めてお互いの支えになっていく様子にほっこりとしました。圭さんの普通の人っぷりはさすがとしか。あんなにかっこいいのに、どこにでもいる公務員にしか見えない(しかも気弱)ってほんと好き。そしてハウといるときのくしゃくしゃの笑顔もよかったな。民夫が引っ越したことによりハウとすれ違ってしまった事実はやはりやり切れないのですが、民夫が成長した結果なのでね、それも運命なのかもと思います。「悲しみはなくならない、上手に戸棚にしまえるようになる」と桃子に伝えられた民夫の言葉に、人生はいろいろな出来事や思い出を戸棚にしまって、ときどき出してみながら進んでいくものなのかなと感じました。
長々と独断の偏った感想を読んでいただきありがとうございました。最後に、私はペットと暮らした経験はありませんが、ペットと共に暮らす人には「リードは絶対に離しちゃだめだ」という民夫の言葉を胸に、責任をもって暮らしてほしいなと思います。