見出し画像

Event : 『TTP』 by Hayahisa Tomiyasu

12月24日に恵比寿のPOSTで行われた富安隼久さんとホンマタカシさんのトークイベントに参加してきた。
そもそも今回の展示は今年の6月中頃に出版された富安さんの「TTP」という写真集をもとにしたものだ。予約からしばらく経って手元に届き、気に入って何度も見ていた本だったため、期待しすぎず冷静にと思って行ったのだが、とても学びの多い出来事だったので簡単にメモを残したくなった。ということでいつもと違ってちゃんとした投稿。

いきなり商業的な話であれなのだが、この写真集の日本でのディストリビューションを行うtwelvebooksの取り扱いの中でも2018年で一番売れた本ということで、作家初めての写真集にもかかわらずなかなかの売れ行きらしい。
「卓球台」という馴染みやすくキャッチーな題材に、定点観測というストーリーのわかりやすさもあってか、普段アートブックを手に取らないような人も手に取ってくれたのだそう。

そういったわかりやすさとは裏腹に、この写真集は260ページもある。このボリュームを撮るためにはなかなか苦労したのでは?という質問もあがったが、「朝起きて、三脚をセットして、なにかあれば撮る」くらいの気持ちでのんびり撮っていたと語っていた。
たしかに「卓球台」のまわりに流れるゆるーい時間を、そのまま1冊にパッキングしたという感じで見ていて幸福感がある。「誰かに外へ誘われたときに、家から出られない言い訳としても使っていました」というエピソードを聞いたあとにあらためて見ると、思わず写真の「コッチ側」を想像してクスッとしてしまう。

こういった今回の作品に関する話ももちろんだが、写真や芸術についての考え方や向き合い方なども非常にわかりやすく言語化されていたのが印象に残っている。

「なにを見せられているかわからないとか、自分の頭ではうまくカテゴライズできないアイディアだけど、ポジティブなものとして受け入れることができる。観る人がそう感じるようなものを意識している。」
なにを考えて作品を作っているのかという質問に対して、パッと出てきたこの一文には、ああこんな言葉の使い方があるのかと、なんだか動揺してしまった。

作家として自分のことを言葉に出来るのは当たり前なのかもしれないが、あえてそれを口にするのは野暮ったいというような人もいる中で、「芸術は『自由』と言われるがそんなことはなく『ルール』がある。観る人も自由に観ているようで、自由には観ない。歴史の中で自分の作品はどう位置付けられ、どう観られるのか、それを自分の口で語れること。理解してもらうことが大切。」と、語ることを表現の一部として大切にしている感じがとても素敵だなと思った。

ああ、そういえばこの話の中で、ホンマタカシさんでさえ「なに芸術しちゃってんの?」という空気を感じることがある、と言っていたのには驚いた。いまだに芸術=よくわからんもの、芸術家=ぶっ飛んでいる人、みたいな認識があるのはわかるが、そこまで有名になってもそんな目で見られるのだなあ。若い人でも全然そういう人いるし、教育の大事さというかなんというか。

モヤっとさせられるところも含め、とても濃いトークイベントだった。写真集もぜひ手に取ってほしい。

僕自身、なんのために写真をとるのか?と問われても、なかなか言葉にできず悩むことも多いので、このままずるずる撮り続けつつも、言語化は諦めずにしていこうとあらためて思う。

ところで、このトークイベントのあと『アンダー・ザ・シルバーレイク』を観にいったのだが、まさに「なにを見せられているかわからないとか、自分の頭ではうまくカテゴライズできないアイディアだけど、ポジティブなものとして受け入れることができる」映画で、内容もあいまって、なんというかとても不思議な体験をした。おすすめ。


いいなと思ったら応援しよう!

O.Y.
こつこつと写真をあげていこうとおもいます。