白髪
先日の話だ
うちの奥さんに
「肩をモメ」
と言われたので、仕方なしに揉んでいたところ、ふと頭の中に白い輝きが見えた。
「白髪やん」
「トッテ」
「抜くと増えるって言うよ」
「いいからトレ」
「ぷひぃ」
こんなやり取りがあり、僕はそっと、奥さんの頭にあった白髪を一本、抜いてあげた。
奥さんに渡すと、
「へぇ〜」
と言って、ゴミ箱に捨てた。
なにが「へぇ〜」なのかがさっぱりわからなかったが、うちの奥さんも30歳である。あれ?31?32?多分そのくらいなのだが、まあ、白髪も生えてきますよね、という年齢ではある。
出会った時は、確か奥さんは21か22歳くらいだったと思う。あまり記憶していないが、もちろん、白髪なんてなかった。お肌もピチピチな感じだった。
今がカサカサ、なんて言うつもりはないが、やはり皺というか、そういう抗えないものは、あの頃に比べれば、当然ながら増えているように思う。
僕もまだ、かろうじて髪の毛は生き残っているが、やっぱり様々な箇所の皮膚は弛んできた。目の下のクマみたいなものは消えなくなってきている。腹も出てきた。みっともない体型である。
でもそれで良いんだと思う。
髪の毛が消え失せても、白くなっても、腹が出ても、皺を刻んでも、それがその人の生きてきた歴史なのである。
変に若作りをしても、なんか僕はちょっと気味が悪くなってしまうし(なんかごめんなさいと一応謝っておく)、自然体が一番なんじゃないかと、最近の僕は思うのだ。
年相応、というのが、一番美しいような、そんな気がしている。
けっして
「いや、もう歳だから!だから腹が出てきても仕方ないのよ!髪もさ、ほら、抜けても!仕方ないのよ」
と、言い訳のために言っているのではない。
「わたしは時の流れに抗わぬ…流れに身を任せているのだ…」
そう、かっこつけて、このみっともない体型の弁明をしようと思っている。
…なんの話だったっけ?
あ、奥さんの白髪の話だった。
奥さんの白髪はその一本だけで、他はもう、若々しく、真っ黒でございました。