ジャスティンミラノは乗り方次第で勝てたのか?(日本ダービー2024)
スタート後、1コーナーに向かう各馬の動きを見ていて蘇ったのは、2014年のダービーの記憶。
②ワンアンドオンリー横山典弘。
皐月賞では1枠1番ながら道中最後方18番手からの競馬。
当然ダービーでもゆったり構えて末脚に賭けると考える方が自然だったが、なんと横山典は抜群のスタートから少々手を動かし気味に先行争いに参加し、1-2コーナー中間で早々と絶好のポジションへと収まった。
そして1列前の外側には、同年の皐月賞馬である1番人気⑬イスラボニータ。
結果はご存知の通り、ロスなく運んだ②ワンアンドオンリーの勝利。皐月賞馬⑬イスラボニータは2着に敗れた。
さて本日の日本ダービー。
⑤ダノンデサイル横山典はまたも、好スタートからやや促しながら先行争いに参加し、簡単に好位のインを確保してしまったw
そして外を回らされる、皐月賞馬の1番人気⑮ジャスティンミラノ。
相手陣営のことも気遣ってか、横山典という人間は勝利騎手インタビューにおいて、基本的にライバルに関する質問には表情が曇り(機嫌が悪くならないか視聴者がヒヤヒヤするアレ)、自分の馬の競馬に徹した結果だと答える。
でも実際にはそんなことはないだろう。明らかに、最も強い馬を倒すための乗り方をしているから。
そもそもご存知の方も多いと思うが、ダービーはCコース替わりの初週に行われるので、間違いなくインコースを通った方が有利。これは紛れもない事実。ダービーの1コーナーは紛れがあるけれど。
芝の状態も良いので、余程の実力差がない限りは極端な追い込みは決まりにくく、2.3列目のインがベストポジション。この傾向はもう長年変わっていない。ダービーというレースはこのベスポジを奪い合う戦いと解釈しても良い。
昨年2023年のダービーは、中団のインを確保した9番人気54.9倍ベラジオオペラがあわや馬券内のハナ差4着。
一昨年2022年は2番手のインを確保した7番人気24.7倍のアスクビクターモアが、ドウデュース・イクイノックスらの怪物相手に食い下がっての3着。
穴をあける馬はみんなこのポジションをとっている。
毎年似たようなことを繰り返しているのだ。
もっと言うと、ワンアンドオンリーが勝った2014年の3着に突っ込んだ③マイネルフロストもまた、同じく中団のインを確保しての12番人気108.0倍での激走だった。
そして今年も同じことが起こった。ダービーデーの馬場状態をフルに活かした最高の乗り方を、本番の1発勝負で出来る横山典というアスリートがシンプルにすごいのだけれど。
で問題は、⑮ジャスティンミラノは横山典さんにこれをやられた時点で勝ち目がなかったのか?戸崎は悪くないのか?という話。
公式ラップ(これは実はあまり正確なものではないのだが、便宜上使う)の残り800mは 11.3 - 11.1 - 11.2 - 11.5。
その前から11秒台には突入しており、文字通りのロングスパート合戦、持続的な脚力勝負になった。
この勝負を制するために重要なことは何か。
それは、残り1000mを迎えるまでに、出来るだけ消耗を抑えること。
言い換えれば今日のダノンデサイルのように"無風"で勝負所を迎えること。
⑮ジャスティンミラノにとっての最初の誤算は言うまでもなくこの枠の並びなのだが、レースに関して言えば、まずスタートだろう。
特別スタートが速いタイプでもないが、いつも五分程度には出る。今日はゲートが開く直前に隣の⑭ゴンバデカーブースが立ち上がった影響もあってか、後肢に体重が乗った状態でゲートが開いてしまった。
すでに一完歩目を踏み出せている⑤ダノンデサイルを含む内枠各馬との差は歴然。
さてここからどうするか。判断が問われるところだが、ジャスティンミラノの最大の武器と言っても良い特徴が、騎手が促してもほとんど引っかからない操縦性の高さ。
戸崎は出遅れた分を取り返すように先行集団へと取り付いていった。これは共同通信杯も同じ要領だった。
ジャスティンミラノの穏やかな気性あってこその判断だと思われるが、そもそも今日は戸崎の中で、ある程度のポジションを確保して進めたいという明確な予定があったように思う。
言い換えれば、道中どこを通るか(内外)よりも、何番手を走るか(前後)の方に最初からプライオリティがあったと思われる。
どこを通るか(内外) < 何番手を走るか(前後) 。
それだけ、ジャスティンミラノであれば少々外を回り続けても能力でカバーできるという計算が戸崎にはあったと思うし、実際私もそれくらいには他馬とは差があるだろうと思っていたし、この枠でも最終2.2倍まで単勝を買った世論としても同じだっただろう。
横から見ると、さほど無理もしていないように見えてしまうが、前から見ると1頭だけ外から追い上げている状況。
1コーナーに入るところで、⑤ダノンデサイルと同じく2列目・内から3頭分外 というポジションに収まった。
こんなスローペースで前に誰もいない状況で折り合いがつくこと自体すごいことなのだけれど。
以後、2コーナーへと同じポジションのまま進めていく。
このまま進む。
3コーナー手前で①サンライズアース池添が捲ったのに連れて⑪シュガークン武豊がやや前へと進出。
ここでようやく、内から2頭目の位置へ潜り込んだ。
池添・武豊の動きもあって、最終的に4コーナー手前で2〜3列目の内から2頭目に潜り込めた戸崎だが、時すでに遅し。当然ここで馬群に入れたところで、このあと通るコース上のメリットはほとんどない。皐月賞馬の鞍上が先に手を動かす結果になった。
戸崎本人に聞かないと本当のところはわからないけれど、映像を見る限りは今日のジャスティンミラノの折り合いはいつも通りに見えたし、馬群にはほとんど入れれなかったものの、道中行きたがっているようには見えなかった。
戸崎にとって次に大きかった誤算は、⑤ダノンデサイルが想定以上に強かったことだろう。
いくら最高の形で残り800を迎えたとはいえ、11.3 - 11.1 - 11.2 - 11.5 のロングスパート合戦を全く脚色衰えることなく走り切るのだから、通ったコースの問題だけでは片付けられない。単純に勝ち馬はすごく強い。
ラスト200mの最速はおそらくルメールの②レガレイラ、次に⑬シンエンペラーだと思われるが、勝ち馬⑤ダノンデサイルも前にいながらほとんど同じレベルの脚を最後の100mまで持続した。
もしもルメールが⑮ジャスティンミラノに乗っていて今日のスタートだったらどう判断しただろうか。
1つパターンとして考えられるのは、2コーナーを回ったところで⑱エコロヴァルツ岩田から横の距離を取りながら先頭まで進出し(併せ馬になるとエコロも反応してしまいペースが上がるため)、逃げの手に出ること。ちなみにこれもよく横山典が取る戦法。
途中からでも逃げる目的は、ペースをコントロールするためではなく、3コーナー以降インコースを通るため。
ただ今日のダノンの強さを考えれば、それでは勝てなかっただろう。ジャスティンミラノは地力を示しつつも少々最後垂れて、⑬シンエンペラーと際どい2着争いをするようなレースになったと想像する。
もう1つのパターンは、出負けした段階で好位は諦めて、潔く後方まで下げる方法。これも目的は同じで、出来るだけ内埒に近いところを通るためだ。
これまで五分のスタートから好位まで取り付いて競馬を進めることを覚えてきた馬にとって、スタート後に鞍上の意図で下げることはそう簡単ではないが、ジャスティンミラノの操縦性の高さからすればこれも不可能ではなかったはずだ。
ただ今日の1000m通過は1:02.2。
こちらは完全な悪手になっていただろう。レガレイラと4~5着争い。
ここで最後にもう一つ、戸崎にとっての大きな誤算が浮かび上がる。
メイショウタバルの出走取消である。
この馬が出走していれば全く違うレースになっていた可能性が高い。
本当に戸崎は運がなかった。こういうキャラがまた愛されているところなのだけれど。
総合的に考えると、今日のメンバーと枠順とペースであれば、どんな乗り方をしても、ダノンデサイルよりも速くゴール板を通過することは難しかったと見るべきだろう。
これで戸崎は2018年のエポカドーロ、2019年のダノンキングリーに続いて3度目のダービー2着。
もっと言えば、オークスでは2013年エバーブロッサム、2015年ルージュバック、2016年チェッキーノ、そして先週の2024年ステレンボッシュと、4度の2着に泣いている。
東京2400の重賞勝利にここまで縁がないトップジョッキーも珍しい。
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