スター・ウォーズ銀河の政治事情についての概要
個人的にやたら複雑なSW銀河の政治事情の備忘録として作成しました。カノンに基づき出来る限り情報を集めていますが、怪しいところもあるはずなので、何か見つけましたら指摘していただけると嬉しいです。
概況
遥か彼方の銀河では基本的に戦乱・政変が起こっており、エピソード1から9までの32BBY(Before the Battle of Yavin, ヤヴィンの戦いの32年前)から35ABY(After the Battle of Yavin, ヤヴィンの戦いの35年後)までの70年近く、常に政治的な動乱の時代だった。本記事ではこの期間中に、どのように政治思想が展開され、またどのように変化していったかを記述したい。
分離主義危機
分離主義運動
シスによる陰謀であったのはさておき、分離主義運動は銀河で支持を受けた有数の政治運動であったのは間違いなく、1000年続いた銀河共和国で初の内戦を引き起こし、その反動が銀河帝国を生み出した事を見てもそれは疑いはない。
コア・ワールド vs アウター・リム
分離主義運動に最も関連深いのは、豊かなで安全なコアワールドと、貧しく危険なアウターリムの地域対立だろう。分離主義を理念とする独立星系連合(以下CISと呼称)に参加した星系は1000を超えるが、特に「アウター・リムの星系に多い」。CISの首都であるラクサス・セカンダス、国家元首ドゥークーの出身地のセレノ―も含まれる。
経済界 vs 政府
財閥の一種である通商連合、大規模商業ギルドのインターギャラクティック銀行グループなどもCISに参加していた。
しかし、両者は共和国側の元老院にもクローン戦争中に元老議員を派遣したり、場合によっては中立を装うなど上記の地域対立と比較すると強度は低かった。
共和国の行政能力の欠如
地域対立の火種のひとつは、特にアウターリムにおける共和国の行政能力の欠如である。
ナブー危機では
課税に軍事的に抵抗されても元老院で揉めて即座に対応ができない
派遣した法執行機関(ジュディシアル・フォース)が壊滅されてもまともな反撃ができない
上記に加えて加盟国であるナブーが軍事占領下にあり武力衝突がすでに発生しているのに事態の認定すらできない
最終的にナブー政府が自力救済で武力行使をして解決
という目も当てられない結果に終わっている。ナブーは人口が40億と比較的規模の大きいミッド・リムの惑星であり(例えばマンダロアは400万ほど)、ここでさえ法執行能力がこの程度であることを考えると、アウター・リムはもはや実効的な政府が存在しない状態と言っていいだろう。
そのナブーのアミダラ議員は8歳でコルサントの元老院青少年プログラム(Legislative Youth Program)に参加したり、12歳でナブーの首都シードの行政官(Supervisor)務めるなどベテランの政治エリートと言えるが、14歳の女王任期中に奴隷制度の存在をはじめて認知している。アウター・リムに隣接するミッド・リムでさえこの認識であり、ましてやコア・ワールドがアウター・リムをどれだけ把握できているかはかなり悲観的な予測ができる。
そもそもであるが、奴隷売買を黙認しているどころか、ハット・カルテルのようなギャングに領地と課税権を持たれている時点で共和国は相当な失敗国家であり、共和国に加盟するメリットがどれだけあるか疑問である。
ドゥークーは以下のような発言を残している。
ほとんど無政府状態に近いアウター・リムで、普通の政府を求めるのは至極当然に感じられる。
税制をめぐる対立
税制も主要な対立議題のひとつである。元老院のアウター・リムの派閥であったリム・ファクションも課税に反対していた。メリットが見られない状態で徴税のみがあるというのは、アウター・リムからは搾取とみなされただろう。
また、地域対立とは関係のない通商連合も、アウター・リムのフリー・トレード・ゾーンにて享受していた免税措置の取り消しからナブー危機を始めており、共和国の税制への反発が大きな要因であったことは疑いない。
共和国末期では、官僚の腐敗が特に指摘されていた。劇中では明確に分かっていないが、彼らによる腐敗した制度が作られていたことは否定できない。
ここで、アウター・リムと経済界での一部で共通の目的が発生したことからも、両者はCISを共同で形成したと考えられる。
まとめると……
共和国の統治をめぐってコア・ワールドとアウター・リムで利害の不一致が発生し、同じく不利益を被っていた経済界の一部とアウター・リムの多数の星系が分離主義運動の支持にまわった。
帝国の時代
分離主義運動に寄って引き起こされたクローン戦争終結後、合法的な手続きを経て銀河共和国は銀河帝国に再編された。帝国は思想として「ニュー・オーダー」をまとめあげ、積極的にプロパガンダを行い、反乱者たちはそれに反対した。
ニュー・オーダー
ニュー・オーダーは、「法と秩序・安定性」などを重視する。このために、個人主義の否定や軍国主義といった、いわばファシズムに近い思想であることが暗示されている。帝国は無力感や抑圧感などの不満を持った若年層などをターゲットとしていたようだ。
14BBYにメディアで放映されたターキン・ドクトリンでは私利私欲の否定が特に重視されている。それは共和国の腐敗や星系ごとの利益、更にコア・ワールドによる搾取と言ったものを指摘し、対比として全体の利益、すなわち皇帝の利益に奉仕することの重要性を説いている。これによりコア・ワールド以外の豊かさの向上、宇宙航路の安全、開かれたアクセスしやすい通信、適切な課税、インフラ整備が行われる、としている。大規模な帝国軍はこの目的のために正当化されるとされた。
このように、イデオロギー上では銀河系全体が脅かされた安全保障や、分離主義運動に結びついたアウター・リムの状態などの「治療」を訴えるような、ある意味ではクローン戦争の総決算のような思想であった。
反帝国の思想
反帝国の政治思想は、ニュー・オーダーへの反対という位置をとる。基本的に個別具体的な帝国の蛮行への批判がメインであって、独自の考えというのが見えにくい。
しかし、モスマ議員は2BBYの反乱軍設立スピーチや、アルダーニ強盗の工作員の一人であったカリス・ネミックの日記などから「自由」が特に重視された概念だったとは言えるだろう。
また、共和国再建のための同盟(以下反乱軍と呼称)の同盟行動規範(Alliance guiding principles)では、ジェダイの書物の4つのコンセプトの影響があると考古学者のコリン・アフラ(Korin Aphra)は指摘している。有名な「フォースと共にあらんことを」の言葉が反乱軍内で常用されていることからも、ジェダイ哲学への親和性、もしくは影響もあると考えられる。
実情―地域格差と種差別
上記の政治思想的な対立であって、反乱軍や反乱者たちはそのファシズムを否定するが、特に問題にしているのは、それがどのように実践されるかである。
地域格差は残った。アウター・リムの治安はグランド・モフであるターキンの出身地エリアドゥなど、限定的な場所でしか向上しなかった。タトゥーインやナー・シャダーの例を持ち出すまでもなく、大部分の場所では変化はなかった。その上、キャッシークにおける強制労働やジオノーシスでの強制労働の上のジェノサイドなど、コア・ワールドによるアウター・リムの搾取は悪化した部分さえあった。
実際、0BBYに人口30万程度のアウター・リムの辺境のタトゥイーンで、政治に疎い水分農夫の息子が「帝国のやっていることは許せない」と言っていることは注目に値する。9BBYのタトゥイーンにおける尋問官によるジェダイ狩りなどがこの言説に影響している面も否めないが、特別明確に搾取などを被っておらず、反帝国思想の影響も少ないアウター・リムの惑星においてこの認識が持たれているのは、ニュー・オーダーのプロパガンダの失敗を意味している。
その上、「種差別」も激化した。ハイ・ヒューマン(High Human)と呼ばれる人間至上主義が銀河帝国では実装された。軍や行政での人事や、上記のエイリアン種族の奴隷労働、特に思想が蔓延したコルサントでは「エイリアン保護区(Alien Protection Zone)」が設けられ、事実上の隔離エリアになっていた。
地域対立の残響?
反乱軍の多くは、確かにアウター・リムから出現している。
表1. 主な初期反乱運動とその活動領域
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\begin{array}{|c|c|} \hline
ベイル・オーガナのレジスタンス運動 & コア・ワールド\\ \hline
モン・モスマの反乱分子 & コア・ワールド\\ \hline
アトリヴィス・レジスタンス・グループ & アウター・リム\\ \hline
フェニックス戦隊 & アウター・リム\\ \hline
マサッシ・グループ & アウター・リム\\ \hline
スペクターズ& アウター・リム\\ \hline
\end{array}
$$
人口の割に確かにコア・ワールドの初期反乱運動は少なく見える。これをアウター・リムとコア・ワールドの地域対立として見ることもできるだろう。しかし、モン・モスマの反乱分子のルーサン・ラエルのアクシス・ネットワークが引き起こした5BBYのアルダーニ強盗の例でも分かる通り、コア・ワールドの反乱分子であっても警備が薄い僻地を狙って活動しているとも言える(厳密にはアルダーニがアウター・リムかどうか現時点ではわからない)。その証左に、新共和国時代には帝国の残党は主にアウター・リムで活動している。そのため、この初期反乱運動の地域の方よりは地域対立として見ることは出来ないかもしれない。
まとめると……
地域対立の末の内戦という最悪の状況に、帝国は銀河全体をファシズムによって統合するというアイディアを実行した。しかし、その試みは反発を招き失敗した。
新共和国の時代
新共和国末期の政治的対立は元老院でもはっきり確認することができた。それはセントリストとポピュリストの派閥対立である。かつての共和国末期の地域対立にプレイヤーは似ているように見えるが、帝国を一部評価する勢力と、帝国を全否定する勢力の対立である。
セントリスト
セントリストは「中道」ではなく「中央主義者」との意味であり、新共和国の中央集権化、軍拡などを支持するグループで、比較的帝国やニュー・オーダーとも親しみがあった。
すなわち、ニュー・オーダーを一部再評価するもので、帝国時代の平和と安定の維持や、各星系の関係の緊密化を評価し、それらを継承すべきだと考える派閥であった。
しかし最終的にこのグループは新共和国を離脱し、ファースト・オーダーを「設立」したことからも、事実上の帝国復興派のような機能を果たした。
ポピュリスト
ポピュリストは「扇動者」のような意味ではなく「民衆派」のような意味であり、自由と惑星の主権を重視する考えを支持するグループだった。
これは、帝国やニュー・オーダーへの強い否定に基づくもので、派閥内派閥の一部は元老院の解散や、重要議題を元老院ではなく国民投票で決するというような直接民主政を提唱していた。前者は皇帝と同じ政策ではあるもののの動機は真逆で、中央政府への根深い不信で説明できるだろう。
情報操作と政治介入
このように帝国やニュー・オーダーへの態度が主な議題ではあったが、情報操作や政治介入といった側面は見落としてはならない。
帝国と反乱軍が戦った銀河内戦は銀河協定の締結によって終了したが、この時一部の帝国残存勢力は、コア・ワールドとインナー・リムの領域内に駐留することを要求され、「残存銀河帝国(Inner systems' Imperial remnant)」のようなものになった。しかしこの星系たちはすぐにこの「残存銀河帝国」から新共和国に鞍替えし、多くが後のセントリストの主導的立場になった。その後、29ABYにはセントリスト支持の星系は新共和国を離脱し、ファースト・オーダーを「公式に」設立した。
これらの動きの裏には、アンノウン・リージョンのファースト・オーダーなどの帝国残党が新共和国への政治介入をセントリストを通して行ったという事実もあった。
地域対立はどうなったのか
この「残存銀河帝国」の領域の影響で、コア・ワールドやインナー・リムの惑星が主なセントリストの構成惑星の一部になっていたのも事実である。
また、セントリストの一部は「加盟惑星が抱える問題や災害は新共和国ではなく自力で解決すべきである」との考えを持っており、これは中央集権化の信念と矛盾しており、おそらくコア・ワールドに有利な考えであって、セントリストの地域特性を説明するものにも思える。
しかし、以下は現在判明しているポピュリストやセントリストの惑星であるが、明確な地域の傾向は読み取れない。
表2. セントリストの惑星
$$
\begin{array}{|c|c|} \hline
コルサント & コア・ワールド\\ \hline
クアット & コア・ワールド\\ \hline
ヘヴリオン & インナー・リム\\ \hline
ライオサ & インナー・リム\\ \hline
オリンダ & ミッド・リム \\ \hline
コムラ & ワイルド・スペース\\ \hline
アケニス & アウター・リム \\ \hline
ダクサムⅣ & アウター・リム \\ \hline
\end{array}
$$
表3. ポピュリストの惑星
$$
\begin{array}{|c|c|} \hline
ガタレンタ(Gatalenta) & コア・ワールド\\ \hline
ロネラ & インナー・リム\\ \hline
ナブー & ミッド・リム \\ \hline
サラスト & アウター・リム \\ \hline
フィリサー(Fillithar) & 不明 \\ \hline
\end{array}
$$
まとめると……
ニュー・オーダーの解釈が原因で、セントリストとポピュリストに元老院は分断された。両者は結局妥協できず、セントリストは新共和国を離脱、ファースト・オーダーを形成した。
仮説と意見
対立軸移行仮説
よく見てみると、帝国の登場によって、長い間くすぶっていたコア・ワールド―アウター・リム軸の地域対立は、政治対立として影響力が薄れ、帝国―反帝国の軸が主な政治的な対立軸になったのではないだろうか。
意見:帝国死すとも……
帝国―反帝国軸の問題点は、帝国がアウター・リムの問題への対処として中央集権化・軍拡をニュー・オーダーとして掲げたことが原因で、中央集権化・軍拡といった選択肢が帝国やニュー・オーダーと結び付けられてしまったことだろう。
これによりアウター・リムの問題を政府の行政能力の拡充によって解決する、という必要そうである選択肢は帝国―反帝国軸の帝国側の極になってしまい、ファシズムや搾取のイメージがつきまとうようになってしまった。ポピュリストはこのイメージを激しく嫌い、セントリストは他の帝国的・ファシズム的政策と一緒に支持してしまう。
アウター・リムの住民にとっては、悪く言えば搾取してくる帝国主義者のセントリストと無法地帯を放置するポピュリストという悲惨な選択肢を突きつけられることになる。イデオロギー・建前上はアウター・リムの利益を代表した分離主義運動のような、「自分側の極」が無くなってしまったのだ。
シークエル・トリロジーや『マンダロリアン』などで見受けられる新共和国の問題点は、この帝国―反帝国軸という尺度の有害さで多くの説明ができると思われる。
アウター・リムの無法状態の放置は前述の通りであるし、モスマ議長の後のポピュリスト的な軍縮についても、軍事力が帝国―反帝国軸の帝国の極に配置されてしまったことから引き起こされたと考えられる。
結論を言えば、帝国―反帝国軸を忘れて一から銀河の分断を修復する方法を探る必要性があるように思われる。間違いなくあの銀河の基本的権利(我々の世界で言う人権)に最も影を落としている問題はアウター・リムの窮状である。
しかし、あの銀河では帝国の惨禍があまりにも身近である。過去の過ちを繰り返すことを恐れて国家が適切な行動をとれなくなることはよくあることであり、銀河帝国という非常に重い過去を背負って30年も経っていない状態では、限界があるのかもしれない。更に、セントリストから離脱した後のポピュリストのみの新共和国元老院では、特にそうであっただろう。
その場合、「各星系独自の軍事力に訓練と資金援助を行う」という新共和国が選んだ政策は、中央政府の軍備強化を嫌うポピュリストをなんとか納得させつつ、各星系の行政能力を支援することができる、新共和国で唯一政治的に可能だった解答と言えるかもしれない。
しかし、これによって生じた「大規模な常備軍の不在」が原因で34ABYからのファースト・オーダーによる侵攻に新共和国政府が適切な対応がとれず、民兵・市民兵主体の悲惨な戦闘が繰り広げられたことは留意したい。