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私たちはなぜ音楽を聴くのか

生活に浸透し、とても身近な存在である音楽。
人間を他の動物と隔てているのは、文字の使用よりも音楽を楽しむ能力の有無であると言われています。ヒト以外の動物は、霊長類でさえ音楽に喜びを見出す感性はありません。

好きな音楽を聴くと、私たちの脳内では快楽伝達物質であるドーパミンが大量に分泌されます。好きではない音楽を聴いた場合には、ドーパミンの分泌は活性化しません。

ドーパミンは、おいしいものを食べたり、金銭など好ましい「二次報酬」を得たりした際に分泌される脳内物質です。
アルコールや麻薬、覚醒剤などでも活発になりますが、主には食事や性交渉など生命に関わることで活発になります。
ヒトの生存本能と深い関係があると考えられています。

音楽があらゆる社会で好まれ、個人の楽しみや文化として受け入れられている背景は、この「報酬」によって説明ができます。
しかし音楽は抽象的なものであり、必ずしも生存に不可欠というわけではなく、そして「二次報酬」的なものでもありません。

私たちの脳は音楽を聴きながら、常に「次に何が起こるか」を先読みし続けているといいます。この”先を読む”という行為により、脳の異なるエリアが互いに働きあい、脳内報酬系ホルモンが放出されます。

音楽を聴いて鳥肌が立つタイプの人の脳をスキャンすると、そうでない人に比べて、聴覚皮質と感情を司る部位をつなぐ神経繊維が太いことがわかっています。そして、脳の前頭前皮質も発達していました。

この前頭前皮質は思考、創造、感情のコントロールなど、人を人たらしめる脳の最高中枢であると考えられています。歌詞を深く理解するときにもここが働きます。
また、前頭前皮質の領域が大きい人ほど、ネガティブな出来事をポジティブに受け止め、感情に受けるストレスから身を守りやすい性格である傾向も明らかになっています。

音楽という実体のないものがドーパミンの分泌を促すことについてはまだ解明されていないことが多くあります。
しかし、好きな音楽を聴く、そして音楽の先を読むという行為がドーパミンの分泌を促していることは証明されています。
そして音楽をより感情の深いところで受け止めることと、楽観的なものの見方にも相関が認められています。

経験や訓練を通じて脳の体積を変えることができると研究者は話しています。脳を訓練して前頭前皮質の体積を増やすことは、感情的苦痛を和らげるクッションを作り出すことができることを意味しています。

音楽は今この瞬間の喜びとしてだけではなく、人生全体の幸福を底上げするツールとしても、私たちにとって必要不可欠なものなのかもしれません。

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