創価学会の教義の変遷
陰謀論では、創価学会が公明党を、統一協会が自民党を支配しており、2つの宗教団体がタッグを組むことで日本を政治的に支配していると語られている。(註1)
この説がどこまで正しいかはさておき、創価学会の教義のコアを公開情報から読み解くのは意味があると考えている。何らかの事件が起きた時に、「実は創価学会だった」といった言説がある。「実は浄土真宗だった」とはあまり聞かない。それだけ人数としてみたらレアで、行動に特異性があるからと想定できる。(註2)
宗教を信じるのはなぜか?「良いことや真理を語っているから」ではない。「恐ろしい」一方で「得をする」からだ。
「恐ろしい」についていえば、カトリック信者が免罪符を買った行動を見ればわかる。そしてアナルセックス(ソドミー)、オナニーを行うことを恐れているのも、もしそれをしたら世界が神の怒りに触れ、破壊されて怖いから、である。
「得をする」については、プロテスタントで「あらかじめ神に天国に行くと選ばれている」という発想が該当する。正月に日本人が神社に行くのも、受験の前に神社に行くのも、神様を拝めば得をする、という発想だ。
では、創価学会について、「恐ろしい」と「得をする」の2つは何が該当するか?
実にシンプルで、「恐ろしい」=仏罰、「得をする」=本尊を拝めばご利益がある、である。そして、宗教とは得をするために信仰すべきものであり、この世界では利益が最優先され、最も利益を与えるのが日蓮正宗なのだ、と初代会長の牧口常三郎の「価値論」を戸田城聖がアップデートさせた著作で語っている。
仏罰論は、実にシンプルで、日蓮正宗を信仰しないとガンになり、身体障害者になり、家族に不幸があり、家が燃える、という単なる脅迫である。聖教新聞でも、創価学会を離れたメンバーに対して仏罰が当たると脅しをしているのは日常茶飯事だ。
問題は、戸田城聖がバージョンアップさせた価値論。これが創価学会のコアだ。
ページ数はないが、冒頭マルクス(高畠素之を流用!)が価値に注目してるといったイントロと学術書というか新カント派というかまどろっこしい展開をするので、ちょっと飽きてしまう。だがある読み方をすれば猛烈に面白い。それはおそらく戸田城聖が追加した指導原理としての価値論の部分だ。そこを読んでから遡って読むと、価値論の言いたいことがわかる。
要するに、
真理は静的なもので善悪は社会的なものに過ぎないし美醜も個人の問題に過ぎないが、価値は動的で、誰もがアクセスできるものだから、価値(利益)を産み出してることを最優先で考えたら良い!偉そうなことを言ってる学者は何の役にも立たない、大衆こそ素晴らしい!という思想だ。(註3)
唐突に日蓮を賛美する飛躍が生活指導原理としての価値論で出てくる。
それでやっとわかった。仏罰論は価値論を日蓮宗にスムーズに接続させる為のツールなんだと。
仏罰がある→それを防ぐことが利益/価値であるし、しかも利益を産むことが一番重要だ→そのためには信心だ(真理よりも利益だし善悪よりも利益が重要だから、信仰の対象は一旦利益を産むから正しいとみなせばいい)
ってことだろう。
てな訳で、真面目に価値論を踏まえれば信じても御利益のない宗教は間違いなのだ。でもそこに信心不足だからお前が悪いって理論に仏罰論が使われるケースもあって、結局抜けられない仕組みなんだろう。
池田大作は仏罰論も使うけどそれじゃ道具不足だし怖がられるからフレンドリーな価値をでっち上げなきゃいかんと世界平和やヒューマニズムを志向して色付けしたんだろう。
そしたら肝心の教えがはたから見るとさっぱりわからなくなり池田カルトに見える(し実際そう)なったんだと思う。
日蓮正宗の最大の信徒団体であった創価学会が、日蓮正宗と絶縁したタイミングで、創価学会は日蓮正宗ではない教義が必要となり、それが池田大作の平和思想だったのだ。そうすることでインターナショナルな思想へと変容を遂げた。だが、根底には価値論がある。
もっと言えば、日蓮正宗の信徒に過ぎなかった牧口常三郎が、学校の先生しながら新カント派のパクリで書いた本「価値論」の教義は、ややこしいこと言うんじゃねえぞ!利益があるかないかが重要なんじゃ!という中身にすぎなかったが、日蓮正宗を乗り越えたい池田大作としては、価値論を推し進めることで、教義を偉そうに述べといて金儲けが下手くそな日蓮正宗に見切りをつけてしまったんだとも思う。
でも、日蓮正宗の本尊を自分らの御利益製造マシンとして信者に売りつけてたから仕入先との関係悪化はまずいんで、違う価値観で世界平和とか言い出してワケがわからないカルトになったと言える。いずれにしても利益追求の為に信仰するという姿勢はなかなか世俗的で興味深い。
(註1)例えば、リチャード・コシミズは創価学会と統一協会が共闘してオウム真理教を作り、首都東京を混乱させておき、北朝鮮が日本を攻撃しやすくし、更にCIAもそれに絡んで第三次世界大戦を勃発させる計画があった、混乱後の東京では石原慎太郎が総理大臣になる予定だった、石原慎太郎の四男がオウム信者だ、と語っている。リチャード・コシミズはこの説を一番最初に見つけたのは自分だといった主張をしているが、実はそうでもない。石原慎太郎の息子がオウム信者という説は自民党が撒いた怪文書が元ネタだ。ユダヤ、CIA、北朝鮮が背後にいる可能性は当時の週刊誌報道で既にでている。統一協会(ムーニーズ)と自民党の関係は、副島隆彦が詳しい。ヒラリークリントンたちが民主主義を押し付けるために世界中で戦争をして回る計画(ラージウォー)があったが、トランプが当選して破綻した、という。また渡部昇一も統一協会だったと副島隆彦は語っている。統一協会と安倍晋三のつながりは、統一協会が共産主義へのアンチテーゼとして作った勝共連合がありその頃からの付き合いがあるように思う。「インサイド・ザ・リーグ」という本が統一協会、勝共連合、右派政権の関係を描いている。また、統一協会と自民党の蜜月については、「日本の狂気3」に詳しい。さらに、戦前までさかのぼり、日本の東南アジアで得た黄金が各種右派政権の成立根拠となっている・・という話が「ゴールドウォーリアーズ」「ヤマト王朝」である。シーグレーブとバーガミニ「天皇の陰謀」を元ネタにして鬼塚英昭は「日本の一番醜い日」「天皇のロザリオ」を書いている。
(註2)特に「殺意の時」という元警察官による強盗事件の告白本が良い。筆者は創価学会員なのだが、利益について語っているシーンは本稿の価値論と照合すると論理構造が非常によくわかる。
(註3)創価学会はアンチインテリ、アンチエリートの香りがすごくあるため、西洋の思想とは折り合いが悪いと思われる。マルクスレーニン主義のボルシェビキが大衆を率いる云々とか、ヘーゲルの主人と奴隷の考えとか絶対受け付けないだろう。池田大作のナポレオンやゲーテ好きなのは、この流れで考えると少し違和感がある。