紅桜讃歌
ネットで『死に様に惚れたキャラクター』という言葉を見つけて、
「そりゃ紅桜に決まっているだろうが!!!!!」
と心が荒ぶったので、紅桜という漢について語ろうと思う。
幼い頃の記憶とネットでの情報が混ざっている上にネタバレ必須なので、そこのところは宜しく頼みたいところだ。
紅桜は老いた土佐犬で、全盛期は闘犬で横綱になったほどの猛者。
だが現在はとある少年の元で闘犬ショーに出ていた。
ある日、一頭の犬と出会う。奥羽に君臨する巨大な人喰い熊を倒すため、仲間を探しているその犬に誘われるも、一度は断る紅桜。
だが、その犬との会話で、自身と少年との関わりに違和感を感じた彼は、少年と別れ、奥羽を目指すこととなる──
ざっくりと話すとこんな感じなのだが、この紅桜と少年のエピソードは、実に奥深いものとなっている。
最初は犬と人でありながらも、相棒という対等な関係だったのが、少年は犬である紅桜に依存するようになる。
少年の親族が手を差しのべようとしても、紅桜の存在を盾に拒絶するぐらいだ。
そんな少年の目を覚ますため、彼は少年に(手加減しているとはいえ)張り手を食らわすことで別れの挨拶とし、老いた闘犬・紅桜として奥羽の軍勢に参加することとなる。
紅桜は少年と別れるときに、故郷とも決別する決意をした。
確かに老い先短い身の上、この闘いに身を投じれば故郷に帰ることはないと思っただろう。
だが老いたりとはいえ土佐犬。そして土佐犬は時に人をも襲うぐらい気性が荒い。その自分が人間に手を上げたのだ。待っているのは処分という死。
そこまで自身を追い込んでも、彼は少年に現実を見るきっかけを与えた。
その少年に届いたのかはわからない。だが、この別れが彼を前に進ませるものになってほしい。
そう願っての一発は、紅桜と少年との永遠の別離の知らせとなった。
願わくば、かの少年に幸あらんことを。
奥羽の軍勢に参加した紅桜は、老兵ながらも闘犬としての経験を生かし、見事に闘い抜いてきた。
だがそんな彼に最大のビンチが襲う。
人喰い熊の部下との闘いで、彼は額に熊の一撃を食らった。それをものともせず気迫で迫る紅桜。
仲間が山小屋でザイルを発見し、それを熊に巻き付けて湖に沈めることを考えつく。
紅桜はザイルを咥え、湖に引き込むことに成功したが、湖に沈む大木にザイルを巻き付けた際に己の足を巻き込んでしまう。
仲間たちは助けようとするが、再び熊が地上で暴れだすのを懸念した紅桜はそれを拒否。
最後まで助けようと残っていた若きリーダーを渾身の張り手で気絶させると(水中でも気絶させるぐらいの威力を発揮できたのだ!)、紅桜は熊と共にその生涯を閉じた。
壮絶。まさにその一言である。
老いた兵は、憎き敵を滅ぼすために文字通り己の命を捧げた。
そこに迷いはなかった。
漢は己が使命を果たした。
そしてその死は、テレビを通して幼い私の心にも焼き付いた。
この壮絶な散り様に、その覚悟に、私は子供ながらに感服した。敬意を払わねばならない。そんな気がした。
さて皆様、紅桜と熊との死闘をもし見ることが出来たのなら、是非とも見てほしい。
誇り高き老兵の覚悟と最後を、その目に焼き付けてほしい。
もしその死を悼むなら、月夜に塩をつまんで酒で、というのもオツかもしれない。しかし私は下戸なので、その儀式は他の方に譲ろう。
かつての闘犬横綱、紅桜。
貴方は確かに強かった。