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【14】「側」を作っても意味がない。運用した人が、一番偉い #小原課題図書

第14回 #小原課題図書 は以下の3冊。どれも、平易な文章で本質を突いた良書です。また『オウンドメディアのつくりかた』に関しては、本の内容から派生して、メディア人として本のまとめに止まらない考察ができたと思います。


『チームのことだけ、考えた。』/青野慶久

サイボウズ社長・青野慶久さんが上梓した、サイボウズの精神やこれまでの歴史を凝縮した一冊。数多くの先進的な制度を整備する同社は、今でこそ多様な働き方を推奨する企業として広く認知されていますが、かつては新卒社員の28%が翌年に辞めるほど人材流出が激しい企業だったそう。

サイボウズはいかにして“日本一多様性のある会社”になりえたのでしょうか?

サイボウズあるところに、チームワークあり

1997年8月に創業したサイボウズは、2ヶ月後に同社初のソフトウェア「サイボウズ Office」をリリース。翌年3月には月の売上が1千万円を超える絶好のスタートを切りました。

競合の多い市場での生き残りを賭け、事業拡大に応じて人材を確保。瞬く間に成長を続け、2000年には上場します。しかし、急激な成長は社内に歪みを生み出すことに。社内環境が整わないままに人材を採用し続けた結果、組織の一体感が失われていきます。

サイボウズが提供するソフトウェアは、チームが円滑に仕事を遂行するためにある。しかし、チームワークを提供するサイボウズには、チームワークがない--この最大の課題を解決するために、青野氏は全社員に向けメッセージを送りました。

我々サイボウズは、「グループウェア・メーカー」であり、世界一使われるようになりたいのです。グループウェアを作り、それをたくさんの人に喜んで使っていただく。大企業も、中企業も、小企業も。企業を越えても、企業でなくても。グループあるところにサイボウズあり。サイボウズあるところにチームワークあり。世界中によりよいチームワークを創り出す企業になりましょう。それをみんなで実現していきましょう。

チームワークが強いサイボウズには、全社共通の理想がある

「チームワークとはそもそも何か?」という本質に立ち返るため、青野氏は「チームとは何か」を考えた。そこで見出した結論が、「チームとは人が集まっただけの集団ではない」ということ。人が集まっただけの集団がチームになるには、共通の理想が絶対的に不可欠。

そこでサイボウズは「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」ことをミッションに掲げます。そして、全社員がそのミッションに向かうために「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」との考え方に則り、会社のインフラを構築。“チームワークの欠落”が、多様性に溢れたチームを作るきっかけになったのでした。

具体例を挙げると、⑴多様性のあるチームが円滑に業務をするためのフレームワーク、⑵多様な働き方を推奨する人事制度。

⑴は、人それぞれ全く同じ考えを持つ人はいないといった考えのもと、意見のすれ違いや受け取り方の違いによってトラブルが発生しない仕組み作り。曖昧な日本語よりも精度の高い“会社の共通言語”を作ったとも言い換えられるかもしれません。

⑵は、個人が最も高いパフォーマンスで働けるよう個別最適に近い形でワークスタイルを提案するもの。育児休暇を最長6年間取得できるようにしたり、週四日勤務の正社員制度を正式に運用したり。制度の数は多岐に渡ります。

仕組みを「作る」のではなく「運用」した人が一番偉い

先日カメラマンとして同席した産業医・大室正志氏のインタビューで、同氏は以下のようにおっしゃっていました。

「予防医療はノー残業デーに似ている」と私はよく言います。ノー残業デーも予防医療も基本的には良い取り組みなので、誰も反対しません。ですので制度設計をするのは“気持ちが良い”。良いことをしてますから。

しかし大事なのは「いかに継続させるか」という運用の部分です。「特定保健指導」といった制度を作ったとしても、「それを長く地味に運用した人が偉いんだ」といったインセンティブを与えない限りは十全に制度が機能しないでしょう。「AIがおせっかいを焼くようになる」ー産業医・大室正志氏が語る“予防医療の民主化” より引用

仕組みは作ったところで、運用されなければ意味がない。企業の掲げるビジョンも、社員に共有され、全社員が同じ志を持てなければ機能しません。

ビジョンを共有したところで、それに向かって動ける制度がなければどうしようもない。制度を利用できる風土がなければ、利用しようがない。

たとえば育児休暇制度を導入したところで、育児休暇を行使できない社内風土においてそれは意味をなしません。

サイボウズが素晴らしいのは、制度を作り、制度を運用したこと。つまり制度と風土を同時に作ったことです。

多様な働き方を推奨する企業として認知される理由は、推奨するだけでなくしっかりと運用しているからこそなのだと思いました。

『多動力』/堀江貴文

『多動力』堀江貴文氏が著者、「箕輪編集室」で注目を集める箕輪厚介氏が編集を担当した話題の一冊。本書では、従来マイナスな視点でしか捉えられてこなかった“多動”こそが重要な力であり、業種を越境して複数の肩書きを掛け合わせて仕事を創れる人間こそが求められると説いています。

水平産業の時代に、垂直人間にこだわるのはバカ

「多動力」が求められる背景は、“タテの壁”が崩れていくことにあります。たとえば、テレビ業界は“タテの壁”に支配された業界。番組制作から電波の送信まであらゆるレイヤーの業務が垂直に統合された「垂直統合」のビジネスモデルです。

しかしながら、時代はインターネットによってあらゆるものが横串でつながる「水平分業」のビジネスモデルが主流。あらゆるモノがインターネットとつながるIoTが時代の変化を象徴しています。

こうした時代の変化は、一つの分野に特化したプロではなく、あらゆる分野で一定以上のスキル・知識を持つ人間に価値があることを指し示す。堀江氏は一つのことを極めたイチローとキングカズ、サッカー選手と経営者の側面を持つ本田圭佑を引き合いに出し、以下のように表現します。

メジャーリーガーのイチロー選手やサッカー選手の三浦知良選手のように、一つのことを続けることが美学とされる。一方で、ACミランの本田圭佑選手のように、サッカー選手でありながら、経営者をやったり、教育事業を手掛けたりすると、「本業をおろそかにしている」とたちまち避難されてしまう。

別に僕はイチロー選手やカズさんのような生き方を否定する気はない。しかし、繰り返すが、もはや産業ごとの壁がすべて崩壊していくのだ。そんな時代に、イチロー選手やカズさんのような才能を持たない人が、一つの仕事にとらわれてしまっていては、価値あるものは見出せなくなっていくだろう。

ダイヤモンドが高価な理由

堀江氏の言葉を借りれば、ダイヤモンドが高価な理由は「美しいからではなく、珍しいから」。人間にも同じことが言えます。100人に1人の能力を有する人間が、さらに100人に1人の能力を得れば、1万人に1人の人材になれる。

「100人に1人の能力」を「1万人に1人の能力」に磨き上げるのは至難の技ですが、掛け算によってなし得ることはより容易。人間の価値(特にビジネス)は、市場性で決まるため、市場価値が高い人材を最速で目指すのであれば、能力の掛け算によって稀有さを磨き上げるべきなのです。

具体的な方法は、同書第6章「世界最速仕事術」にまとめられています。難産で100点を叩き出すのではなく、サクサクと80点を出し続ける仕事術が複数紹介されています。そのなかで僕が個人的に注目したいのは「即レス」すること。

堀江氏曰く、「ヒマな人ほど返信が遅く忙しい人ほど返信が早い」。この一文に仕事ができる人のエッセンスが凝縮されていると思いました。要するに、「持ち玉を手元に溜めるな」ということです。

複数の肩書きを持つ越境人材は、肩書きの数だけ仕事がある。つまり、めちゃくちゃ忙しい。タイトなスケジューリングを遂行させるには、手元に仕事を溜めてはいけないのです。「いけないのです」というか、そもそも溜めていたら複数のプロジェクトを同時進行することができていないことになります。

人間が持つ唯一平等な権利、「24時間」のなかで次々に仕事をこなすためには、いかに効率的に済ませ、いかに新しい能力を身につけるかが重要になります。実践している人にとっては当たり前のことでしょうが、できることはさっさと終わらせなければいけません。いつだって“done is better than perfect.”な訳です。

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本書では至極もっとも、かつ最重要なことが語られています。ただ、注意しなければいけないのは「多動することこそすべてなのだと勘違いしてはいけない」。

1点の掛け算を永遠にしていても1点の人材な訳で、5点の掛け算を永遠にしていても市場優位性のある人材にはなれない。軸となるスキルをある一定上の水準にまで仕上げ、かつその軸を増やし、掛け合わせる。これがホリエモンの本質的なメッセージなんじゃないかと思います。

『オウンドメディアのつくりかた』/鷹木創

個人でも手軽にメディアを作れる時代になりました。企業も続々と自社でメディアを立ち上げる“オウンドメディア時代”が到来したことで、商用メディアだけではなく自社製品の販促や採用を目的を達成する“手段としてのメディア”が数多くみられるようになっています。

しかしながら、メディア運営における具体的な仕事の中身はなかなか知られていません。企業によっては、未経験の人材が編集長を任されるケースもあり、目的のみえない…つまり効果をなさないメディアが誕生したことも事実。そうした背景から、Engaget日本版編集長であり、各社のオウンドメディアの立ち上げに従事されてきた鷹木創氏が文字通り「オウンドメディアの作りかた」をまとめたのが同書です。

そのため、そもそも同書は「オウンドメディアをつくる」前提で話が進みます。オウンドメディアはあくまで目的に対する手段にすぎませんが「本当にオウンドメディアが目的に対する最適解なのか?」という議論はされていません。メディアを立ち上げるまでの方法は同書に詳しいので、その後の運用論に対する意見をまとめてみたいと思います。

(8月23日に開催されたライティングコミュニティ「sentence」の読書会に参加したので、その際に議論された内容も含んでいます)

“コンビニ化”するオウンドメディア

メディアが立ち上がったとして、その後適切な運用をしていくためにはコンテンツ…つまり企画が必要になります。側が作れたとしても、中身がなければ、オウンドメディアが目的を達成する手段になりえないからです。

優れたオウンドメディアには、目的を達成するための優れたコンテンツがあります。極端な話、優れたコンテンツが多いことが良いオウンドメディアの証です。逆をいうと、情報だけを引っ張ったサイトは、本当にそのメディアがやる理由が一つもありません。情報を積み重ねただけのサイトが昨今見向きもされなくなる例を見れば、一目瞭然ですよね。

僕が知っている限りでも、自社サービスへのコンバージョンを目的にし、集客を狙った記事を量産しているオウンドメディアがあります。文脈が全く違う記事であってもおかまいなし。「とりあえず呼べば、何か買うだろう」といった具合の「コンビニエンスストア」状態になっています。

ある一つの商品を買ってもらうことだけが目的なのに、わざわざコンビニを作る必要があるのか?その議論を一旦すっ飛ばしてしまうオウンドメディアが非常に多い。

繰り返しになりますが、オウンドメディアは手段。大上段に目的があり、オウンドメディアがその最適解であるから効果をなします。そして、その「仮最適解」を最適解にするには「優れた企画」が必要なのです。

では、どのように企画を立てればいいのでしょうか…?

「情報」と「企画」は違う

結論を出すことはできませんが、まず知るべきは「企画と情報は違う」と認知することではないでしょうか。

優れた企画出しができる人材の視点をトレースすることで、感覚を磨くことはできます。しかしながら、それでは属人的になってしまう。「XXとYYを掛け合わせれば優れた企画になる」というフォーマットがあれば企画出しは容易ですが、なかなか難しい。

(自戒を込めて)企画出しが苦手な人の多くは「情報」と「企画」を混同しがちです。たとえば「〜に美味しいオムライス屋がある」は情報にすぎず、オムライスが好きではない人にとって価値はありません。

企画を立てるには、「情報をどういった視点で捉えるか」が重要。企画は、サービス(もしくは商品、人、情報…)を社会とつなぐために、知らない人に認知してもらうためにあるものです。

オムライスに興味がない人に、どうしたらそのオムライスを知ってもらうかを考えなければいけません。たとえば、そのお店の内装に特別なこだわりがあるかもしれないし、シェフが和の鉄人かもしれない…。分からないですけど、単一の情報が社会とより多くの接点を生む工夫が必要になります。

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議論の大半を占めた「企画」についてのお話ですが、結局のところ正解のフォーマットはでてきませんでした。ただ「情報と企画は別物」であることを知れば、一段階レベルアップができるのではないかと思います。

「企画とはなんなのか?」を理解していないまま企画出しをしても、その時点でアウトプットのクオリティは決まってしまっている。レシピを知らないままオムライスは作れないですよね。

企画に絞ってまとめてしまいましたが、まずは「本当にオウンドメディアが最適解なのか?」を入念に考えた上で立ち上げることが大切。立ち上げ後も難しいことは多く、その最たる例が企画出し。側ができても、中身が見すぼらしければ意味がない…というか、むしろ逆効果かも。

ところで、僕が好きなオウンドメディアは土屋鞄製作所のインスタグラム。

「鞄屋なのにカエルの写真?」と思ってしまうかもしれませんが、土屋鞄が持つ「鞄は生活の一部(推測です)」というメッセージが伝わってきます。販売しているのは鞄ですが、鞄を通じて、理想とする「本質思考のライフスタイル」まで提供する。そうした意図があるんじゃないかと。

それが、鞄とは一見全く関係のない、季節の風物詩を投稿しても、高いエンゲージメントを獲得できている理由なのではないかと考えています。



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オバラ ミツフミ
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