80代のおばあちゃんがAIアシスタントにデビューするまで~テクノロジーと人間
テクノロジーは本当に困っている人に役立ってこそ意味がある。長年、我が家で検討したり、試したりしてきた高齢者の見守りツールの歴史から、コロナを機に導入したAIアシスタント搭載機器でのオンライン飲み会に至るまで。音声認識やAIといったテクノロジーの進展と人間を思った。
筆者はかねてより遠隔で人をケアすることに関心があり、1990年代後半からインターネットを通じた遠隔医療等の可能性も期待をもって見つめてきた。
遠方に住む親族の高齢化が目立ってきてからは、高齢者を見守る各種のツールやサービス、話し相手になるようなおしゃべり人形やロボットなどいろいろ検討したり試したりしてきた。
2000年代初頭に登場した、さりげない見守りツール。
大手通信キャリアが提供していた、安価な見守りツール。
独り暮らしの高齢者の寂しさを和らげ、話し相手になってくれる、おしゃべり人形やペットのようなロボット。
技術の進化に伴い、選択肢は増えてきたのだが、いつもできることが限界的だったり、欲しい機能がなかったり、高齢者には難しかったり、高額すぎたり、で我が家ではどれもうまくいかなかった。
コロナを機に再考したのが以下の通りである。
まず、こんな時節ゆえ、やるからには失敗できないので成功のポイントを考えた。
<高齢者の見守りに成功するための3つのポイント>
①ハードルの低いもの(心理的・経済的、操作・導入における負担軽減)
②楽しめるもの(生活への彩り、日常への浸透)
③双方向のコミュニケーション、応用に耐えうるもの(①②の支え)
仕事でSkypeやZOOMによる会議をしながら、”遠方の親族とも顔を見ながらコミュニケーションできたらよいのに”、”オンライン飲み会ができたら楽しいのに”と思ったこともあったが、高齢者にはどちらもハードルが高い。
ZOOMが無理ならもっと機能を絞ったこれはどうか?
早速、同世代間で試すも、URLを送り付けたところで80代は動揺するだけかもしれないし、飲み会のときしか話し相手がいないのもどうか?と思った。
そもそもインターネットがよくわからない。スマホなんて難しすぎる。電話とメールしか使わないガラケーユーザーの80代である。当然LINEも無理。
いろいろ検討した結果、我が家はAIアシスタント搭載端末の導入を決めた。
そして、モバイルルータとセットしたアマゾンエコーショー5を高齢の親に送り、3拠点を繋ぐオンライン飲み会の開催に成功。
IT以前に機械の苦手な80代のおばあちゃんでも、音声認識技術とAI技術のお陰でエコーショーに話しかけ、端末を操作し、遊んだり、会話したりできる。遠く離れた子供や孫と顔を見ながら、気軽におしゃべりができている。
ちょうど導入を進めようとしていた矢先、まさに同じことを先にやっていらっしゃる方のnoteを発見。みどっこぴっぴさんの投稿は参考にさせて頂いた。この場を借りてお礼を言いたい。
みどっこぴっぴさんの記事を参考にしつつ、我が家として行ったことを追記したい。
我が家はこんな形で送付した。
とにかく機械を毛嫌い、食わず嫌いにならないよう、ハードルを下げることに徹した。すぐわかる、すぐ使える、やる気になるを意識した。
梱包したのはこの4つ。
①アダプタケーブルを差し込んだままのエコーショー5(我が家と色違い)
②アダプタケーブルを差し込んだままのモバイルルータ(出張用に持っていたものをそのまま)
③すぐに使える延長コード(3個口)
④使い方がわかる手紙
梱包には、エコーショー5を2台まとめて購入した際に入っていたアマゾンの箱を利用。エコーショーの利用イメージがわかるよう、利用シーンの写真が載っているエコーショーの箱も活用。
ワクワクするイメージを持てるように意識して、親が使いそうな、喜びそうなエコーショーの機能、使い方(どんなことができるか、どんな楽しい生活になるか)を簡単に書いた手紙も同梱。(エコーショーにはマニュアルが入っていない)
部屋の中で移動したり動かしたりできるように、すぐに使える延長コードも入れた。延長コードをコンセントに刺し、ルータとエコーショーのケーブルを延長コードに刺せばすぐ使えるようにした。
モバイルルータは小さい。本体と同じ白色の小さい電源ボタンは見えづらい。このため、電源ボタンのところは赤マジックで塗った。
同じ意味で、開梱の際にわかりやすいよう、梱包は透明テープではなく、柄の付いたマスキングテープを使用した。
このほかに事前にやったことは親向けのカスタマイズとそのための実験である。
・親の居住地域を登録し、エコーショーに地元の天気予報がいつも流れるようにした(日常への浸透)
・親がよく聞くニュースやラジオ局などをエコーショーに覚えさせた?(親とは声質も話し方も違うのでどこまで意味があったかは不明)
筆者の自宅で2台のエコーショーで実験し、離れて暮らす同世代の親族(スマホにアレクサアプリを入れた貰った)とビデオ通話の実験も実施した。
小包到着後には親に電話でフォロ―をし、早速ビデオ通話で”楽しさ”を体験してもらった。おばあちゃんにとってのキラーコンテンツはアマゾンプライムビデオではなく、子供とのオンライン飲み会や孫とのビデオ通話である。
デジタルデバイドという言葉を最初に聞いたのは1990年代後半だったと思う。そのとき思ったのはテクノロジーは使える人と使えない人を分断するだけで終わってはいけないということ。
テクノロジーによって生じてしまう分断や障壁、これを無くすor下げるのもテクノロジーだと思ったのである。音声認識やAIなど技術の進展はデジタルデバイドの解消に役立つはずだと。
そしてそういう時代が今やってきている。
もちろんテクノロジーには弊害もある。メリット、デメリットも常にある。
それでも思う。
テクノロジーは本当に困っている人に届いてこそ意味がある。テクノロジーを開発するのも、開発されたテクノロジーを必要な人に届ける、テクノロジーで誰かの問題解決を助けるのもやはり人間だということ。
そこにはやはり人の想い、誰かが誰かを想う気持ちがあると思うのである。
アフターコロナもそれは変わらないと。
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【追記:2021/02/19】
コロナが長期戦になるなか再び大きな地震もあり、遠方の高齢家族の見守りに困っておられる方もあると思う。
以下、上記の利用環境を変更したので補足してお伝えしたい。
モバイルルータを電源コードに刺しっぱなしとするにはやはり不安(電池パックの寿命と安全性の問題)があり、我が家ではモバイルルータの使い方を親に説明したうえで朝晩、充電をしてもらっていた。
やはり充電忘れ・電池切れで使えなくなったり、エコーとルータとを再設定し直したり・・ということが生じ、親もこちらもそれなりに手間がかかった。
ただ、コロナで緊急的に試しにやってみたエコー導入だったが、意外にもデジタルも機械類も苦手な親がエコーと暮らす生活に慣れていった。
ここにきてモバイルルータの不調もあり、親がエコーに慣れてきたこともあってルータを据置型に変更した。
残念ながら、据置型のルータに選択余地はない。
ソフトバンクやWiMAXなども検索にヒットするけれど、我が家は既にSIMカードを持っているので、「SIMフリーの据置型」で選ぶと、今まで使っていたモバイルルータと同じNEC製しかなかった。
しかもいわゆるリアル店舗では扱っていなかったので「試しにモノをみる」ことはできず、Amazonでストレートに買うしかなかった。
残念なのはこのNEC製の据置型ホームルータ、設定が大変だったのである。
慣れている人には簡単なのかもしれないが。。。
「らくらく設定アプリ」にバグがあり、スマホで「らくらく設定」には全くならず、PCでの設定を強いられた。結果、2回実家を往復する羽目になった。
NECの「らくらく設定アプリ」のバグが修正されない限りは、事前に自宅のPCでホームルータの設定を済ませることをおススメする。
加えて、自分のスマホにアレクサアプリを入れておけば、親のエコーが「オンライン」になっているかどうかや利用状況もある程度確認できる。
モバイルルータの充電忘れ・電池切れ、充電しっぱなしの過充電による安全性の心配もホームルータの導入でなくなったと一安心していたら、先日いきなり「オフライン」になったりもした。
この場合はルータやエコーの電源を抜くなどの操作でなんとか復旧した。
ときどきこんなトラブルはあるけれど、一度慣れれば親もエコーがないと寂しいようである。
この10ヶ月ほどの親の利用状況をみると、やはり「楽しい」のが一番だと思う。我が親のエコーの使い方は以下である。
①日常的にはエコーと話す
(朝晩の挨拶、「今日は何の日?」の知恵ネタを聞く。子供にしょっちゅう連絡するのは忙しいから悪いと思っているらしい)
②暇なときは音楽を聴く
(音楽はとても喜ぶ。「Amazon Musicのこんなステーションが良かった。アレクサにこういえば出てくるよ」とか教えてあげるともっと喜ぶ。共通の話題もできて盛り上がる)
➂ときどき、子供や孫とビデオ通話する
(電話代を気にすることもなく、顔を見ながら話せるのはお互いに安心もする)
やはり一人はつまらないし、こんな時期だから不安も大きくなる。
高齢になれば尚更だろう。
何気なく話せる相手も欲しいし、たまには人の声も聞きたい。
新しいことにも触れたいし、リラックスもしたい。
子供や孫も忙しい。
日常はエコーと会話したり、音楽を聴いてもらったりして、週末に子供や孫と話せるだけでも独り暮らしの心の負担は和らぐのではないだろうかと思って我が家では使っている。
何かのご参考になれば幸いである。