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リズム感0の私、日本舞踊を体験してみた
子どもの頃さまざまな習い事をしてきたけれど、大人になってから新しいことを始めるのはなかなか難しいもの。時間はすべての人に平等と言いますが、お休みの日はゴロゴロして「何もしない贅沢」と言い訳していたのは私のことです(汗)
今春、博物館スタッフの紹介で地元佐野市で日本舞踊の体験に行ってみることになりました。「日本舞踊って何?」「ダンスは無理無理!」の状態から少しずつわかってきた日本舞踊の魅力をレポートしたいと思います。
佐野市の若柳緑日本舞踊教室へ
体験お稽古を受け入れてくださったのは佐野市を中心に活動している若柳緑日本舞踊教室の若柳緑(わかやぎ みどり)先生。直派若柳流寿慶会師範(じきはわかやぎりゅうじゅけいかいしはん)でいらっしゃいます。
子供からシニアまでさまざまな年代の生徒さんに指導したり、ご自身でも国立劇場、浅草公会堂、日本橋劇場等の舞踊会に出演されているすごい先生。
厳しかったらどうしよう・・・と不安を吹き飛ばす優しい笑顔で出迎えてくださいました。
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そもそも日本舞踊とは?
知識0で体験レッスンに参加するという、今思うと失礼極まりない生徒ですが、日本舞踊とは一体どんな芸能なのでしょう。
はじまりは歌舞伎から
日本舞踊は歌舞伎の中の舞踊のパートから派生した芸能と言われています。舞踊の得意な歌舞伎役者(主に女形とよばれる男性)が登場したことにより、徐々に一つのジャンルとして確立されました。その後「舞踊の得意な歌舞伎役者」から、舞踊をメインに活動する舞踊家(=振付家)が誕生します。これにより広く市井の子女にも日本舞踊が習い事として普及したのだそうです。明治や大正時代に歌舞伎から独立し、昭和期には女流舞踊家や芸者衆が活躍しました。なんとなく女性の習い事のイメージを抱いていましたが、歌舞伎時代は女人禁制。現代においては男性も女性もたくさんの舞踊家が活躍しています。
華道にも草月流や小原流など流派があります。踊りの世界でも五大流派とよばれる「西川流」、「藤間流」、「花柳流(はなやぎりゅう)」、「若柳流(わかやぎりゅう)」、「坂東流」を中心に、大小あわせて数百の流派があると言われています。お稽古が習熟してくると「名取(なとり)」「師範(しはん)」などの階級試験を経て、師匠から弟子へと技術や心構えが継承されていきます。まさに「道」の世界です。
三味線音楽をベースにしつつも、新しい表現も
踊りなので、音楽にあわせて表現します。日本舞踊の音楽は三味線音楽が基本です。「長唄(ながうた)」「清元(きよもと)」「常磐津(ときわず)」という日本の三味線音楽を伴奏に踊ります。
はじめて三味線音楽をじっくりと聞きましたが、BPM※のような均等なリズムではなく独特の間合いがあります。最初はその「間」を感じることからスタートするそうですが、不思議とその間合いを心地よく感じました。DNAレベルで調子が刻まれているのかもしれません。
近年では西洋音楽をBGMにしたり、アニメ作品の舞踏舞台が作られたり、流派の垣根を超えた共演もあるそうです。日々ダイナミックに変化しています。令和の日本舞踊は伝統を大切にしながらも時代にあった新しい表現が生まれてくるかもしれないですね。
※BPM・・・Beats Per Minuteのことで、1分間に刻まれる拍数、またはテンポのこと
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いざ、体験!
体験レッスンに参加したのは4月。日常的にヨガをしているので自分の呼吸に合わせて姿勢をとることは得意ですが、音楽という他人のペースに巻き込まれるのは大の苦手。根っからのマイペース人間なのでダンスの類は避けて生きてきました。ですので博物館の先輩にお声がけいただいたときは「どうしようぅぅぅぅぅぅ」と若干のパニック。でも一度やってみなきゃわからないよね、の精神でまずは一歩踏み出すことにしました。
第一関門は浴衣。日本舞踊のお稽古は浴衣で行うそうで、10年以上クローゼットに眠っていた浴衣を引っ張り出すところからスタートです。経年劣化による変色やシミは気になるけど、気軽に洗えるのが浴衣のいいところ。洗濯して軽くアイロンがけして持参しました。
挨拶もほどほどに、まずは足袋と浴衣を着方を教えていただきました。こはぜがついた足袋なんて履いたことがなかったので、サイズを間違えたか不安になりました。しわを伸ばすようにひっぱりながら履くのがコツだそうです。
「最初のうちはお稽古に来てから浴衣を着るのでもいいですよ。」とおっしゃっていただいたので体験当日は先生に着方を教えていただきました。浴衣の着方もコツをつかむと意外と簡単。成人式の時は何枚もタオルを入れ、何枚も服を着て重たいイメージでした。けれど踊りのための浴衣は動きやすさも大切です。気崩れた時に直せる術を知っていればいいと先生がおっしゃるようにがちがちに固めるのではなく動きやすく、直しやすい踊り用の着方を教えていただきました! もともとは湯あみ着だった浴衣。動けないほどにきれいに着る必要もないですね。
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それぞれの物語を紡ぐ日本舞踊
今回のお稽古では「京の四季」という唄にチャレンジしました。京都の舞妓さんが主人公で、四季の移り変わりが素敵な歌詞です。基本姿勢を維持しながら、振りを入れようとすると今度は基本姿勢が崩れて・・・の繰り返しですが、初心者にやさしいゆったりとした動きだったので楽しく体験を終えることができました!
苦手意識のあったダンスは音楽に合わせて体いっぱいで表現するイメージでしたが、今回習った「京の四季」では歌詞をそのまま動きとして表現しているので覚えやすい印象です。お芝居に近いと感じました!同じ曲でも踊り手が違うと全然違うものになるそうです。
また踊りを通じて見ている方と心を通わせることができるのも日本舞踊の楽しさの一つです。同じ情景を押し売りする必要はありませんが、見ている方もまた踊りを通じてその人の物語を感じてもらえるように心がけるとよいと教えていただきました。
短い曲ではありますが、少しずつ進捗していくのもやりがいです。「おうちで練習しなくていいからね!逆に変な癖がついてしまうかもしれないから。」と仰っていたのでうずうずしながら練習動画を見返すくらいにしています。先生も幼少期、その教えがあったから長く続けられたのかもと笑って教えてくれました。
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「守破離(しゅはり)」という言葉をご存じでしょうか。修行における段階を表す言葉で、師匠の教えを忠実に守り身に着ける段階、さまざまな教えから良いものを取り入れ、心技を発展させる「破」の段階。そして最後は独自の新しいものを生み出し確立させる「離」の段階を経て修行の道を歩みます。最初は先生の動きをよく観察して真似るところから始まるけど、生徒さんの個性になる部分はあえて指摘せず、取っておくそうです。同じ曲でも年齢や性格によって見え方は全然違うものになるのも楽しみ方のひとつなのかもしれません。
大人になって新しいチャレンジはなかなかハードルが高いですが、「今日が1番若い!」の精神で始めてみると思った以上にウェルカムしてくれるもの。文化活動コーディネーターとしてみなさんのはじめの一歩を支援できたらうれしいです!
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佐野市民文化振興事業団 ミレニアル世代対象講座
忙しい日常に余白を・・・日本舞踊体験講座
9月14日(土)13時より
第一酒造株式会社ぎゃらりー酒蔵楽にて開催
🌟 公益財団法人佐野市民文化振興事業団
佐野市大橋町2047(佐野市郷土博物館内)
🌟 公式Instagram ディスカバーサノブンカ
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