【2024.05】その怪文書を読みましたか 展
「梨」。
なし、である。もう最近のネットコンテンツの覇者とも言っていいと思う。雨穴、背筋、そして梨。加えて大森時生。不条理な展開とじっとりとした不穏な雰囲気、メタ的な仕掛けを駆使して新鮮な恐怖を世界に送り込むホラーの名手たちである。その一角を担うのが、梨さん。
私がはじめて梨さんの作品を読んだのはSCP財団の「がきじろ」「ごきずれ」だったと思う。
それから暫く間が空いて、オモコロ杯で受賞していた「瘤談」を読んだ。
語弊を恐れずに言うと、梨さんの作品はいつもワクワクしながら読み始めるのだが、毎回最後には「なんやってん」と言ってしまう。伏線が張られているようでいて、そんなに回収されなかったりするので。かなり強引な考察をすれば回収できなくもないんだけど、強引な考察を考えている間にカタルシスは去ってしまう。それでも不穏な演出は一級品。そういう作家さんだと思っていた。でも今回の展示は最後にきちんと「やられた~」と言ってしまった。
その梨さんがプロデュースした展示。なんでも怪文書が大量に貼られているらしい。私は底意地が悪いので、家の壁に怪文書を貼りまくっている地元のヤバい人のニュースなどを見るのが大好きだ。いそいそと出かけた。
会場に入ると本当に所狭しと怪文書が貼られている。
梨さんの作品には怖い文章がよく出てくるが、共通する特徴として「句点がない」というのがある。文章に息継ぎを与えないのである。かと思うと変なところにスペースを空けたりする。この技法で文章をしたためると、文章の記号性みたいなものが前面に押し出され、反面その文章が持つ本来の意味は奥へ押し隠されてしまう。早い話が呪文みたいに見えてくるのだ。言葉の意味は分かるのに話が通じない、という感覚に陥る。
展示では、順路に沿って怪文書を読んでいくとストーリーが浮かび上がるという仕掛けがあった。怪文書だけではなく、きったない人形とかガビガビのビデオとかもあった。
さっきは梨さんの作品を「なんやねん」と評してしまったが、この展示のストーリーはかなり自分好みだった。伏線もあるし、ある程度奇麗に回収される。なおかつ、未回収の不穏な要素も残されており、きちんと後味も悪い。絶妙なバランスで調味された神経毒のお点前を頂戴した気分だ。
基本的には「読む」という行為が中心の展示会だが、リアルならではの仕掛けもある。自分で怪文書を書けるコーナーもあった。(ストーリーともちゃんと絡んでおり、物語に観客を参加させる仕掛けなのだ。できる仕掛けは全部やる、という気概を感じる。)
でも一般の人は怪文書への解像度がそんなに高くないわけで、まぁ想像通りネットミームを書き散らす掲示板になり果てていた。
私も書いた。周囲のネットミームたちとは違うんだぞという自意識と、ここで目立とうとしてどうすんねん、という自意識が戦って大変でした。こんなことをしているうちにいつか気が狂って本当に怪文書を書くようになってしまうんだ。
グッズもありました。
怪文書が出てくるフォーチュンクッキー。
これをインスタに上げたら、名前が「けいた」の人からいいねが来て怖かった。昔のバイト先の同僚。まだ剝がれてないといいな。
ガチャガチャもあった。怪文書をお土産にできるのはうれしい。
この展示は書籍化されていて、いつでもおうちで怪文書を楽しむことができる。
やっぱりこの作品はあの空間で見るのが一番だとは思うけど、本でも十分楽しめると思います。かなり好きな部類だ。
梨さん、本当に一つのジャンルを確立してしまっていて、一クリエイターとして圧倒されてしまう。後追いをしたいわけではないけれど、あの貪欲にあらゆる仕掛けを取り入れていく姿勢は、文化を作り上げる人のそれだな、と痛感する。
一度でいいから梨さんと一緒に人を不安にさせる仕掛けを考えたい。その時のために性格の悪さに磨きをかけておこうと思う。