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500キロの移動で、魂のレベルは1つ上がる
最近の本で「人生は移動距離で決まる」というものがある。ちょっと言い過ぎのような気もするが、慣れ親しんだ世界と違う土地に行って初めて得られるものというのはある。
自分の師匠は「500キロの移動で、魂のレベルが一つ上がる」などと言ったりする。500キロというと東京-大阪間くらいであろうか。ユニバに行ってついでに人生レベルアップしていると思うとなんだか悪くない感じがするが、要するにどれだけ自分のコンフォートゾーンを出られたかというのが大事になってくるという話だろう。
天国に行ったとき天界の受付で一番喜ばれるのは「人生で新しい体験をどれだけしたか」の総量が大きい人、と嘘か本当かわからないが聞いたことがある。
評論家のちきりんさんは「年に3回は新しいことをする」と、この間は病院で初めてマイナンバーカードを使ってみたとのことだった。自分のできる範囲でいいので、いつもの領域を広げていくのはきっと、いつか自分を予想外の景色まで連れていってくれる気がする。
さて先日文フリに行った際、復路は新幹線を利用した。35歳の貧血持ちには往復夜行バスはきつい。
米原駅14時発の電車に乗ったところ、平日にも関わらず中はまあまあの乗車率。空席はちらほらありなんとか席を確保して着席。米原駅を出発して岐阜羽島、名古屋を出たところで若い女性が乗ってきて、自分の前の席に座った。
女性は前方から「すみません」と声をかけ、顔を上げると「リクライニングシート倒してもいいですか?」と話しかけてきた。この声がけに、いつもちょっと迷う。
もちろんリクライニングシートは倒してもらって構わない。しかし中には「ええ、どうぞ」というこちらの言葉を大義名分にして、120度くらいの角度で倒してくる輩もいる。「仁美ちゃん、そのプリン一口食べてもいい?」と言って、いいよと返したら一口で半分以上食べていった知人と同じような輩だ。
無論、大抵の人はそんなことはしない。しかし文フリではシステムの余白を突いて利用しまくるような人が隣のブースにぶち当たってしまったせいか、疑心暗鬼が拭えない。そういえば官公庁時代も、こちらの言質をとって鬼の首でもとったかのように自分の権利ばかり主張する人が多かったっけ。
そんなことを思い出し、思わず相手の女性をまっすぐな目で見つめながら「ええ、どうぞ」と威厳を持って答えた。
女性は「ありがとうございます、では失礼します」と丁寧にお辞儀をしながら、わずか2センチほど座席を後ろに倒した。ああ、まともな人であったか。すぐ罪悪感に駆られたが後の祭り。名古屋から東京間、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「奪い合えば足らぬ、分け合えば余る」という言葉があったりする。理不尽な目に遭うと「もうこんな辛い思いはしたくない」と防御体制に入ってしまうが、世の中そんなに理不尽な人ばかりでもないのだ。
移動距離が人生を決めるというのは、それだけ多くの人と関わることで、自分の心を自由にしていくというのが本当の意味なのかもしれない。
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