見出し画像

一切言うことを聞かない後輩が、自分から動いてくれたときのこと

大学生の時は体育会系の部活に入っていた。中高6年間は女子校の文化部におり、不文律のネチネチした人間関係はもううんざりと、ある意味わかりやすい体育会系の部活で青春をやり直そうと思ったのだ。

よく運動部では「奴隷の一年、鬼の二年、閻魔の三年」などと言われるが、私が所属していた部活ではやることさえやっていれば先輩から理不尽に怒られたりすることはなかった。正直「へえ、運動部って意外とちょろいんだな」とさえ思ったりした。

問題は二年生になった時だった。入ってきた一年生が全く言うことを聞いてくれなかったのである。

一年は部活が始まる少し前に来て掃除や支度をしなければならないが、それをしない。とにかく皆ボーっとしていて、こちらがいちいち一から百まで指示しないと動かない。こうなると3年生も「2年生の監督不行き届き」で怒るようになってくる。仕方なくちょっと強く怒るとプイと練習に出てこなくなる。

どうしたら後輩たちが変わってくれるんだろうと悩む日々を送りながらも、私は2年生の夏休みに海外ホームステイに行くことを計画していた。英語力を伸ばすべく、大学に行ったらやってみたいことの一つだった。

アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド・・・
英語圏のどこの国に行こうかと検討していた際、帰国子女の友人に「初めて海外に行くならカナダがいいよ」と勧められた。なぜカナダかと訊ねると、カナダは移民政策を取ってるから外人に寛容だと言う。さらに彼女はこう続けた。

「アメリカは『英語が話せないあなたが悪い』って文化だけど、カナダは『英語を聞きとってあげられない私が悪い』って文化だから、海外初心者ならカナダが良いと思うよ」

この言葉は当時の自分に非常に衝撃的だった。

アメリカとカナダがどうこうよりも「話せないお前が悪い」という視点は、別の角度から見れば「聞いてあげられない自分が悪い」でもあるのだ。
人間、誰だって自分が悪者になんかなりたくない。でもどちらの国に行きたいかと言われれば、間違いなく後者である。実際、この言葉で自分はカナダに行くことを決めた。

この件から自分は一年生の後輩とは、なるべく1:1で「なぜ掃除をしないのか?」「なぜ最近練習に来ないのか?」と穏やかに、そちらの言い分を先に聞くようにした。
すると「実験が長引くことが多く、掃除の時間に間に合わない」とか「うちは父がいないからバイトしないといけない」など、いろんな事情が垣間見えた。

「甘えるな、言い訳をするな!」と言いたくなるのをグッとこらえ「そうかい・・それは大変だったね」と精いっぱい心を寄せるようにそれぞれの事情に耳を傾けた。

するとあんなに言うことを聞いてくれなかった一年生が自然と「今度から遅れるときは前もって遅刻届を出すようにします」とか「来月はちょっとシフトが減らせそうなので、店長に相談してみます」というようになり、自分の主張も聞いてくれるようになった。

子育てyoutuberで有名なてい先生は動画で「子どもが悪いことをしたとき、叱るよりその直前の行動を認知した方が効果的」と言っていた。

たとえば小さい子が牛乳の入ったコップを落としてこぼしてしまったとき。「何やってるんだ!」と怒るよりも「ああ、○○くんはちゃんと牛乳を運ぼうとしてくれてたのにね」と、コップを落とす前のことを伝える。

そうして子どもに「この人は自分のことをわかってくれている」という認識が出来た上で「今度からはテーブルに置くまで、コップの取っ手はしっかり持ってようね」と言うと、こちらの主張を聞いてくれやすくなるとのことだった。

社会に出てからも、出来る上司ほど私がミスをしたときいきなり怒るのではなく、当時の状況や私の気持ちを聞いてくれた上で「じゃあ次からはこうして」と指示をした。
人は相手が自分を否定的に捉えた瞬間、それを察知する。そしてそれ以上攻撃されないように心の箱に入って、自分の声が届かなくなってしまうことを、出来る上司は知っていたのだと思う。

自分の言うことを聞かない人に対して、言ってやりたいことはたくさんあると思う。そんなときほど、一旦自分の感情を横において相手の話をとことん聞いてみると、びっくりするほど相手も自分の言葉を受け取ってくれることが多い。

そうやって誰もが、この世界で魂の修行をしているような気がしている。








人間関係と心の箱に関しては、こちらの本がおすすめです。(案件ではありませぬよ)


今日もお疲れ様でした。
こちらのコロッケエッセイもぜひご覧ください。

書く喜びを思い出す。
10月から文章講座スタートです。

入門編は毎月開催中。


明日も適当にしっかりで参りましょう〜い!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。書き続けます。