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アイスかホットか。秋のコーヒー好きは揺れるよ

珈琲好きの人間にとって、夏から秋にかけてのこの時期、アイスにするかホットにするか悩ましい問題が起きる。

酷暑だった今年の夏、自分はアイス珈琲一択だった。冷房がキンキンに効きすぎるカフェというのも最近はずいぶん少なくなってる気がする。暑い日に冷たくて苦いアイスコーヒーが喉を通る心地よさったらない。

たまに「夏でもホット、ホットがないなら氷抜き」という方と出会うと、尊敬のまなざしで見つめてしまう。

単純に冷たい飲み物がダメなのかもしれないが、自分など真夏は氷をガラガラ入れたドリンクを飲むのが楽しみの一つなので、暑い熱い日でもホットドリンクを頼んでいる人を見ると、なんだか才色兼備な同級生と廊下ですれ違うときのような心持ちになる。

さて先日、大好きな喫茶に行った。
カフェでも喫茶店でもなく、喫茶。あえて例えると茶室に近いものがあるかもしれない。皆、そこにはおしゃべりではなくその静かで凛とした空間に浸りにいく。
センスのいい女性の店長さんが珈琲を豆から炒って、丁寧に淹れてくれる。運が良ければ特製プリンとも出会える。

その日はちょっと蒸し暑く、アイスかホットか散々迷って、ホットにした。やはり珈琲の味を堪能するならホットだろう。

ホットを注文ししばし待つ。すると隣の人のところにアイス珈琲が運ばれてきた。三角錐をさかさまにした、どこか外国製と思われるセンスのいい器に入った珈琲は、「隣の庭は青く見える」効果もあいまって、ひときわ美味しそうに見える。

そうこうしていると、自分のところにもホット珈琲と特製プリンが運ばれていた。プリンと一緒ということもあってか、珈琲はちょいと苦め。でも深いコクと豊かな香りでなんたる至福、という気持ちに。

記念に写真を、と珈琲とプリンをスマホで撮影し、静かな店内にシャッター音が響いた。
すると珈琲フィルターを手縫いしていた店長さんがハッとこちらを見たので、私は思わず「すみません、(撮影)ダメでしたか」と謝ると、店長さんは申し訳なさそうに目をふせながら「なにぶん、音が響く造りでして」と、まるで歌の一小節を口ずさむようにつぶやいた。どこかの物語に登場しそうな方だ、と思った。

この店では珈琲以外にも、果汁100%のジュースやノンカフェインのハーブティーなども用意されていて気になる。でもやはり店長さんが心をこめて一杯ずつ淹れてくれる、ホット珈琲をいつも注文してしまう。

会社員時代、夜遅くまで残業して食べるソイジョイや、時間がないときは腹につめこむうように冷たいおむすびや、やたら甘いチョコを食べていた。あれは食事というより空腹をごまかすためのものだった。

そんな日々が長かったせいだろうか、今でも「焼きたてパン」や「一杯ずつ淹れる珈琲」などに弱い。

丸亀製麺にいくと、肉うどんは一人分ずつちゃんとフライパンで生肉を焼くところからやってくれる。自分は釜揚げうどん好きだが、あの作り置きではなく出来立てを食べられるところに付加価値を感じる人も多いのではないだろうか。

たまに食べたことのない味を冒険してみたくなるし、隣の芝生は青く見える効果で、誰かが食べてるものは美味しそうに見える。
でも誰かが、もしくは自分が心を込めて作ったものを、出来立てすぐに頂きたいという願望が自分はとても強いらしい。

次はホット珈琲以外にしてみようと帰るときは思うけど、またあの敷居を跨いだら、きっとあの炒りたて珈琲豆の香りに負けて、また頼んでしまう気がする。

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小澤仁美|1/19文学フリマ京都さ-17
最後までお読みくださり、ありがとうございます。書き続けます。