話し上手は聞き上手。書き上手は、想像する。
かつて整体ほぐしの会社に勤めていたとき、最初の一年間はお客さんになかなか指名されず、お給料が増えないという悩みがありました。
その会社には業務委託で雇用されていたので、どんどん施術に入らないとお給料がもらえません。
土日は「誰でも良いからほぐして」というお客さんが多いのでまだいいのですが、郊外にある人気のない店舗では、平日は基本的に「このセラピストに会いに来た」というお客さんばかり。
整体や美容院など1:1の接客業では「あなたに施術してほしくて来ました」という指名客が増えない限り、食べていけない仕組みになっているようです。
入社して一年経つと、元気でかわいい女性の後輩スタッフが入ってきました。すぐに指名客がたくさんつき、バックヤードに張ってある売り上げ棒グラフはいつも私がビリ。
「なんとかして指名してくれるお客さんを増やさなければいけない!」
そう追い詰められた私は、自分の施術スタイルを見直すことに。
その店の一番人気のコースは30分の整体コースでした。
私は研修で教わった通り30分コースは全身をほぐしていたのですが、あるとき肩こりに悩んでいるお客さんが最も多いことに気づき、思い切って肩こりが主訴のお客さんには30分中25分くらい肩まわりをほぐすことにしました。このやり方がヒットします。
まずは15分くらい片方の肩をしっかりほぐす。どんなに強固なコリの肩でも、15分もしっかりとほぐされれば、寝ながらでも血が通いだしていくのを感じるようです。そうしてもう片方の肩もしっかり時間をかけてほぐし、残り数分で全身をほぐしていく。
これを腰が辛い人なら腰、足なら足、腕なら腕・・とそのお客さんにとって最もつらい箇所をていねいにほぐす施術をしているうちに
「小澤さんは私の辛いところをわかってくれて、解決してくれる」という認識がお客さんの間に広まったようで、なんとか指名のお客さんをじわじわと増やすことが出来ました。
数年後、私はエステ店に転職します。
整体からエステへ、提供するメニューは大きく変わって苦戦するものの、やることは一緒でした。
目の前のお客さんが今、何が一番欲しいのかを見極めて、自分のできる範囲でそれを差し出す。
エステなので高級美顔器や化粧品の販売も経験しましたが、基本的にはお客さんの話をしっかりと聞き、その解決策として自社の商品をすすめる、その繰り返しでした。
あるトップ営業マンの方がおっしゃっていた言葉で
「自分の成績を上げるための話はひびかない。お客さんの問題を解決するための話だからひびく」というものがあります。
「話し上手は聞き上手」と言いますが、話しがうまい人は相手の言葉をよく聞いてるようです。
文章でも「自分の主張と相手の知りたいところをすり合わせることが大事」と言われています。
文章がうまい人は「私の文章を読みなさーーい!」という自我が強い人よりも「どう書いたら相手はわかりやすく受け取ってくれるだろうか」とか「どの順番で書けば相手の心にひびくか」と、常に読み手のことを意識しているように思います。
読み手を意識する。
そのやり方に正解はありませんが、読み手に寄り添おうとする姿勢や「どう書いたら自分の言葉が届くか?」という問いを持つことが、読者の心に届ける一歩になっているようです。