「死ぬまでに一度は」という夢があっけなく叶った日
3年前に都会の真ん中にある支社に異動となった私は、ホテルオークラの目の前を通ることが増えた。
通勤経路ではないのだが、ちょっとしたおつかいや外出でホテルの前を通ることが多くなり、物腰の上品そうなガードマンさんや、洗練された雰囲気の玄関を目にするたびに私のオークラへの憧れは少しずつ増していった。
会社での隙間時間ではこそこそとオークラ画像検索をして、憧れの眼差しでオークラの写真を見ていた。
広々とした空間なのに、木材を多用しているせいかぬくもりを感じるように設計されている。ロビーの椅子は上から見た時に梅の花が散っているように見えるよう、ロビーの方が常に微調整しているらしい。いやーおしゃれ!
次第に「人生で一度でいいからオークラに行ってみたい」と思うようになったが、着ていく服も靴もないしなあ・・となかなか勇気が出ず、いつも遠巻きにオークラを眺める日々が続いていた。
そんなある日、同僚とおしゃべりしていたとき「私、死ぬまでに一度でいいからホテルオークラに行ってみたいんですよ」と話すと、彼女は「あら、じゃあ来週にでも行ってみます?」と、非常に軽いノリ返事が返ってきた。
いやそんな簡単に!と私は動揺したが、同僚の彼女曰くオークラの中に平日の昼だけやっているレストランがあり、そこは近くのサラリーマンやOLがカジュアルにランチ利用しているとのことだった。
さっそく翌週、業務にゆとりがある日の12時に同僚とオークラへ直行した。
いつも夢見ていたホテルの玄関・・の反対にある、近くのビルとつながった入口を通って入城。うっすらアロマの香りが漂っていて、受付のきれいな女性の方に「こんにちは!」と声を掛けられ、ペコペコとおじぎしながらレストランの方へ向かった。
この日はちょっと混雑気味で少し並んでいると、レストランの中から背広を着た店の男性が「お待たせして申し訳ありません」と並んでいる人たちにアイスティーを配っていた。ほんのり桃の香りがする冷たい紅茶は、とても美味しく感じる。
店内は天井が高く、狭い入口からは想像できない開放的な空間が広がっていた。店先で注文したものを自分で席に運ぶ食堂スタイルのせいか、お値段は1,000円から1,500円とこの辺りにしてはリーズナブル。
肝心のお味も私が注文した担々麺(1,200円)は香辛料がふんだんに使われていて、とても本格的な味だった。こうして私はこの日「人生で一度は」と思っていた夢をあっけなく叶えた。
夢は、人に話すと叶う確率が何倍もアップすると聞いたことがある。
夢は大切なものだからこそ「否定されたくない、バカにされたくない」とあまり語りたがらない人も多いけど、思い切って口に出してみると今回のようにその夢を叶えるために必要な情報がなんともあっけなく手に入ることも多い。
なるべく信頼できる人の前で、積極的に夢は語るようにしようと思った出来事だった。